第29話 思い出の味
ご飯にお味噌汁、求めていた料理のひとつが完成できる。
「メイアはミソを気に入ったみたいなの」
コパリュスの声で我にかえった。
「求めていた味よ。サースントンさん、ぜひ購入したいけれど可能? 金貨以外にも宝石やジュエリーでも対応できる」
身を乗り出すようにして聞いた。
「国に帰ればたくさんあるから、手持ちのうち少しなら可能じゃ。宝石神殿だから宝石やジュエリーもあるのじゃな」
「そうよ。金貨よりも宝石やジュエリーのほうが必要?」
「金貨では高価すぎるが、今回は野菜や果物のお礼に無料で平気じゃ。ただ実践向きの武具を造っているから、宝石などを飾る需要はほとんどない」
魔物退治に使う実用重視の武具みたい。王族や貴族が衣装としてつける武具なら宝石があれば見栄えがするけれど、実用重視なら不要よね。宝石はむりだけれど、サースントンさんに渡せる品物を思いついた。
「武具を造るのなら鉄や鋼は使う? 金属材料ならアルミニウムや銅もあるわよ」
「ミスリルやオリハルコンもあるのか」
食い入るようにサースントンさんが聞いてきた。
「ジュエリーに使うから、そのふたつともあるわよ。私がいつでも採掘して用意できるから、ある程度の量も平気よ。もちろん宝石やジュエリーも私が作っている」
「メイア殿は高ランクの職人じゃろう。まさに神殿の名にふさわしい幸運が降りてきた。ミスリルとオリハルコン、鋼は材料不足がいつも問題になっているのじゃ。定期的に一定量を取引できるのなら、こちらからお願いしたいくらいじゃ」
宝石採掘スキルがレベル10で忘れていたけれど、熟練を超えるレベルの鉱物は不足しているのね。
「ジュエリーに使うから大量は無理だけれど、武具が何着か造れるくらいは用意できると思う」
「それだけあれば充分じゃ。だがそれだとミソとの交換では価値が違いすぎる。不足分は金貨でもかまわないか」
お金が増えるのはうれしいけれど、宝石神殿では使う機会がほとんどない。お金は宝石やジュエリーを売れば、充分すぎるほど稼げる。
「金貨よりも品物で何かほしい。ミソ以外の調味料や武具以外の品物はある?」
「同じ大豆で作ったショウユがある。武具以外はあまり造らないが、日常で使う簡単な金属加工品なら可能じゃ」
ショウユもある。味見をしないと確定できないけれど、大豆を使っているから私の知っている味に近いはず。大豆も単体でほしいし、私の好みにあったミソやショウユができれば楽しい。
「コパリュス、宝石神殿でやりたいことがあるけれど構わない?」
視線をコパリュスにむけた。
「メイアの好きにして構わないの。それに食材の話しだから、きっとメイアの新作料理が食べられれば、コパもうれしいかな」
「ありがとう。うまく出来るようになれば、新たな料理を楽しみにしてね」
「取引の内容が決まったようじゃな」
私とコパリュスの話を聞いて、サースントンさんが察してくれたみたい。
「大豆とミソ、ショウユの購入で、さらにミソとショウユの作り方を教えてもらいたい。技術提供の代金として、金属を提供するというのはどう?」
「ミソやショウユは各家庭でも作っているから、教える分には平気じゃ。わしとしては継続的に取引したいのじゃが」
「技術の対価以降は日用品や金貨でも平気よ。それよりも、何度も宝石神殿に来られそう? 宝石神殿内は安全だけれど、ムジェの森は危険よね」
南側は導きの道ができたから少しは安全になったけれど、依然としてムジェの森には強い魔物が多い。熟練者以上の護衛をたくさん雇えば来るのは可能だけれど、採算が合わないはず。
「宝石神殿が穏やかですっかり忘れていたが、たしかに行き来は危険じゃ」
「まずは大豆の購入にミソとショウユの技術提供で、それに見合った金属を提供にして、それ以降の取引はそのときに相談で平気? できれば大豆と合わせて、ミソとショウユももらいたい」
ミソとショウユを作るにしても時間がかかるから、それまでの間は、セファット王国から入手して料理に使いたかった。
「レッキュート連合国へ行って、いったんセファット王国へ戻るが構わないか。仕事も少し済ませてから来たいのじゃ。そのかわりに、ミソとショウユに詳しい人物を連れてくる」
「私のほうは期限がないからいつでも平気よ」
「それでお願いするじゃ。ミソとショウユ以外にも調味料を持ってくる。できれば少量だけでも金属を売ってもらえないか。どのていどの品質か確認したいのじゃ」
「構わないよ。金属を用意するから、ここで待っていてね」
コパリュスを引き連れて宝石神殿の中へ入った。宝石箱から少量のミスリルとオリハルコン、鋼を取り出して小さな袋に入れる。準備が整うと噴水近くにいるサースントンさんのもとへ戻った。
無事に取引を終えて、ミソとショウユと金貨を手に入れた。ショウユは黒っぽい液体で少し味見させてもったけれど、私の知っているショウユだった。
サースントンさんたちを見送りながら、夕食で作るミソとショウユの料理を考えて始めていた。
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