第28話 ドワーフの一団登場
宝石神殿の1階にある礼拝堂で日課のお祈りをしていると、宝石神殿の外から複数の人声が聞こえてきた。オパリュス様へのお祈りを終えてから、宝石神殿の外へ出ると噴水前が賑わっていた。
「旅のドワーフだと思うの」
いつの間にかコパリュスが私の横に来ていた。
「どこかでみていたの?」
「宝石神殿内なら、コパはすべてお見通しなの。ただの休憩みたいなの。今はガルナモイトたちが対応しているかな」
「私も近くへ行って平気?」
ドワーフをちゃんとみるのは初めてだと思う。体格がよくて背の低い姿は、もとの世界で描かれているドワーフと同じだった。全員が男性なのか、りっぱなひげを生やしている。
「危険はないから近寄っても大丈夫なの」
コパリュスから安全と言われたので、噴水にいるガルナモイトさんへ近寄った。私の横にはコパリュスが一緒に着いてくる。
「ガルナモイトさん、この人たちは旅人なの?」
「武具を運んでいる職人」
「セファット王国からレッキュート連合国へ行くみたいだよ」
ガルナモイトさんに続いて、マクアアンリさんが答えてくれた。
「急ぎの用事でムジェの森を通るの?」
「あたいもまだ詳しく聞いてないのさ。職人集団の代表に会うかい」
「せっかくだから会ってみたい」
宝石神殿の敷地内なら安全で、コパリュスもいるから安心できる。
私の言葉に頷いて、マクアアンリさんが馬車のある付近へむかった。しばらくするとひとりのドワーフを連れてきた。
「彼が職人集団の代表でサースントンさんだよ。こちらが宝石神殿の管理者でメイアちゃんさ。彼女の許可がないと入れない場所もあるのさ」
マクアアンリさんが、代表のサースントンさんと私を交互に紹介してくれた。サースントンさんは銀色の髪が特徴で、ヒューマン族に例えるのなら中年男性くらいに思えた。職人気質を思わせる力強さもある。
「わしがサースントンで、レッキュート連合国へ行く途中じゃ」
「私が宝石神殿の管理人でメイアよ。宝石神殿の敷地内には魔物が来ないから、ゆっくり休んでね。職人集団と聞いたけれど、レッキュート連合国へ仕事に行くの?」
商人や冒険者が休憩によるのは知っていたけれど、職人集団は初耳だった。
「武具を届けに行くだけじゃ。宝石神殿の休憩が楽になったと商人や冒険者から噂を聞いて、今回はムジェの森を使ってみた。たしかに宝石神殿が見違えるようによくなっている」
「ムジェの森以外は詳しくないから教えてほしいけれど、わざわざ他国から武具を取り寄せるの?」
普通に考えれば自国で武具をそろえるはず。
「わしらが造るセファット王国の武具が優秀だからじゃ。レッキュート連合国周辺は強い魔物が多く出現するから、より強い武具がもとめられる」
「ムジェの森が南側にあるから?」
ムジェの森には強い魔物がたくさんいる。レッキュート連合国側へ魔物があふれている可能性もある。
「それもあるが、北側と東側にある山脈にも強い魔物がいるからじゃ。それにレッキュート連合国は部族間での小競り合いもあって武具の需要が高い」
「レッキュート連合国の周囲が危険なのね。優秀な武具との話だけれど、わざわざ出向いていくものなの?」
「今回は魔石を大量に購入したいから、わしらが自ら出向くのじゃ。レッキュート連合国は魔石具の技術は周辺国で一番だから、鍛冶に使える魔石具もみる予定じゃ」
サースントンさんは、私の質問に嫌がることなく、いろいろと教えてくれた。悪い人でもなさそうだし、せっかく宝石神殿で休むのならお腹も満たしてもらいたい。
「いろいろと情報をありがとう。お礼というほどでもないけれど、野菜や果物があるから食べてみる?」
「硬い食べ物ばかりで飽きていたところじゃ。ぜひ食べさせてほしい」
「準備するから噴水の周辺でまっていてね」
「果物はあたいらが取ってくるよ。メイアちゃんには野菜をお願いできるかい」
「簡単な野菜料理を作ってくるから、果物はお願いするね」
ガルナモイトさんとマクアアンリさんが果樹園へむかって、トアイライオさんとスズリピララさんが職人集団をみてくれる。
私はコパリュスと一緒に宝石神殿の4階へむかって料理を開始した。
「どのような料理を作るの?」
「まだ朝の時間だから体にやさしい、野菜をゆでただけにするつもりよ。素材の野菜がよいから、塩と胡椒をそえるだけにしたい」
「本来の味が楽しめて美味しそうなの。コパは野菜を切れば平気?」
「ニンジンとジャガイモを細長く切ってね。大きさは手でもてる感じね」
コパリュスがニンジンを切り始めて、私は鍋を火の魔石具の上において、鍋の中へ水と少しだけ塩を入れる。切り終わった野菜を入れて芯が残らないようにゆでた。
完成した料理を噴水の前にもっていく。すでに果物は届けられていて、美味しそうに食べていた。噴水近くには宿屋から持ってきたと思われるテーブルがあった。
「ゆでた野菜よ。塩や胡椒を少量つけて食べてね」
大きな皿に乗った野菜と、別の皿にある塩と胡椒をテーブルの上においた。
「美味しそうじゃ。遠慮なく頂く」
サースントンさんが食べ始めると、ほかのドワーフも野菜に手を出した。新鮮な野菜が食べられるとは思っていなかったのか、あちこちで喜びの声が上がっていた。
ひとりのドワーフが馬車へ戻って何かを取ってきた。入れ物の蓋を開けて中身を小皿に出して、野菜をつけて食べ始めた。
「サースントンさん、あの調味料は何?」
近くにいるサースントンさんへ聞いた。
「大豆と米で作ったミソという調味料じゃ。つけすぎると塩辛いが、濃厚な味わいが癖になる、わしらの街にある特産品じゃ」
「私も食べたい。ほしい」
おもわずサースントンさんの腕を取ってしまった。それほどまでの衝撃だった。私が知っているミソなら食べたいし購入もしたい。
「たいしたものではないが、ほしいなら少し分けられる」
「まずは味見をさせてほしい」
私の言葉を聞いて、サースントンさんがミソを取りに行った。
「メイアが慌てるのは珍しいの」
「私の知っているミソなら故郷の味なのよ。さらにショウユもあれば料理の幅も広がって、大好きな日本食が食べられる」
「新しい料理ができるのならコパもうれしいの」
コパリュスと話していると、サースントンさんがミソを持ってきた。
「これがミソじゃ。最初は少しだけつけて食べてくれ」
ジャガイモの先端に少しだけミソをつけた。焦る気持ちをおさえずに、そのまま口に入れる。なつかしい味わいが口の中に広がった。
「まさしく私が求めていたミソよ」
なつかしい気持ちが心の中にあふれてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます