第27話 案の試行錯誤中
日中の宝石神殿の4階で、トクツァイン様から頼まれている国王様の献上品を考えていた。近くにはムーンのみがいて、横になってくつろいでいる。
献上品は国宝級ジュエリーでも平気みたいなので、ダイヤモンドとアダマンタイト以外なら何を使っても問題なさそう。普通に考えれば地金をオリハルコンにして、宝石はルビーとサファイアが無難に思えた。
「オリハルコンとルビーなら、全体が赤色で表現できるから統一感がありそう」
私のつぶやきにムーンが反応したみたい。私の横まで移動してきた。
「献上品のジュエリーでしょうか」
「その通りよ。国宝級でも問題ないみたいだから、奉納以外で使う機会が少ないルビーとサファイアを使いたいと思っている。両方の宝石を使うかは決めていないけれどね。まだどのジュリーを作るかも決めていない」
「セットのジュエリーは見応えがあると思います」
ムーンの感想だった。ムーンは私たちと過ごすうちに宝石へ興味をもって、ジュエリーの知識が増えてきたみたい。
「同じデザインで作るパリュールは有力候補のひとつね。イヤリング、リング、ネックレス、それにティアラを作れば、王道のジュエリーになると思う。でも例えばティアラだけに特化したジュエリーなら、至高の一品にもなりそう」
「宝石やジュエリー作成に、特別な加工方法も使うのですか」
「それも面白いかもしれないよね」
この世界は元の世界にくらべて、宝石への研磨技術やジュエリーへの加工技術は劣っている。手持ちの宝石道具では加工できる範囲に限度はあるけれど、この世界にはない知識を私はもっていた。
「どのような献上品になってもメイア様が心を込めて作れば、誰もが欲しくなるジュエリーになると思います」
「いつものように気持ちを込めて作るね。身につけたくなるようなジュエリーで、私なりの特徴をもたせたい。でもどのようなデザインがよいのか悩ましいわね」
自由度が高いのはうれしい反面、どのようなジュエリーが喜んでもらえるのか悩んでしまう。
「気分転換に庭へ出るのはどうでしょうか。今日は晴れていて、歩くだけでも気持ちがよさそうです」
「散歩はよさそうね。適度に体を動かせば、献上品への案が頭の中に浮かぶかもしれない。ムーンも一緒に来る?」
「もちろんです。わたくしもお供します」
ムーンと一緒に部屋をあとにした。
宝石神殿から外へ出て噴水前に到着した。
「どちらに行こうかな?」
北東の果樹園ではミカンやリンゴがあって、南東の牧草地ではヤギや馬がいる。北西の田んぼでは米を育てていて、南西の畑では小麦やトマトにキャベツなどが美味しそうに実っていた。
ガルナモイトさんたちが来てくれたおかげで、いままで以上に果物や野菜の収穫量が増えて味もよくなった。その分、私は宝石関連に集中できた。
「メイア様の好きな方角でよいと思います」
「たまには牧草地に行って、吹き抜ける風を感じてみたい」
「牧草地は広々としていますから、風の流れを楽しめると思います」
ムーンと一緒に牧草地へ向かう。牧草地の柵近くに到着すると、目の前にエメが出現した。風という言葉に反応したのかもしれない。
「エメも一緒に風を楽しんでみる?」
実際に風を目でみるのは難しいけれど、音を聞いて肌でも風は感じられる。
エメが踊るように回転しながら、牧草地の上空へ移動する。エメが通ったあとには銀色の粒子が残って、風に乗りながら拡散していく。
「銀色の粒子は、まるで風の流れを見ているみたいで幻想的な光景ね」
「ふだん見ることのできない景色で、宝石がかがやいているようにも見えます」
「これが見られただけでも、散歩にきた甲斐があった」
しばらくの間、エメの踊りと風の流れを楽しんだ。空気が美味しくなったのか、牧草地にいる動物たちが喜んでいるようにみえる。
エメが私の前まで降りてきた。
「エメ、ありがとう。すてきな景色が見られて気力も沸いたよ」
うれしそうに微笑んだエメは、最後に回転して姿を消した。
牧草地での時間を過ごしたあとに、ムーンと一緒に畑にも散歩へ出かけた。ガルナモイトさんたちが畑仕事をしていたので、畑の状況を聞いた。野菜などは問題なく育っているとのことで、あとで収穫した野菜を届けてくれる。
その後は田んぼと果樹園へと回って、さいごに宝石神殿へ戻った。
「メイア様、散歩はいかがだったでしょうか」
「充分楽しかった。気分転換もできたから、いくつかの献上品の案を考えてみるつもりよ。また散歩に行こうね」
「いつでもお供します」
その後は宝石神殿の4階で献上品の案を考えた。まだ具体的な案にはつながらないけれど、散歩に出かける前よりも頭の中がすっきりしていた。
夕方になると手持ちの宝石とジュエリーを、宝石神殿の5階で奉納した。宝石神殿や私がもっているスキルのレベルアップはなかったけれど、充実した1日を過ごすことができた。
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