第26話 精霊たちと仲よく

 宝石関連や料理で椿油をよく使うので、いつの間にか椿油の残りが少なくなってきた。椿油を補充するために朝からコパリュスとムーンとスターをつれて、果樹園にある椿の木が植わっている場所まで来た。


「入れ物を持ってきたから、落ちている椿の種を入れてね。入れ物いっぱいになるくらいに集めたい」

 両手で抱える大きさの入れ物だけれど、みんなで集めればすぐに終わりそう。


「コパが一番多く集めるの」

「わたくしもたくさん集めます」

「コパリュスもムーンもお願いね」


 ふたりには何度か椿の種拾いをお願いしているので、コパリュスとムーンはなれた要領で動き出す。

「ぼく、そらからさがして、ひろってくる」

 スターがムーンの背中から飛び出して、私の視線の高さで停止した。


「慌てなくて平気だから、椿の種を傷つけないようにお願いね」

 スターは私の声に頷いてから、素早い速さで移動する。スターの飛び立った方向を見ていると、スターが地面に急降下してから私の元へ戻ってきた。入れ物の上を通過するときに椿の種を器用に落とす。


 椿の種に問題ないことを確認してから、私も椿の種を拾い始めた。

 腰をかがめて地面に落ちている椿の種を探す。ふと視線の端に動くもがあった。顔を上げるとエメが私に近寄ってくる。


「エメも椿の種に興味があるの?」

 椿の種を手にとってエメにみせる。エメは手の中にある椿の種をみたあとに、私のまわりを踊るように回転しながら飛んだ。銀色の粒子が舞うと、おいしい空気が私を包んでくれた。


「ありがとう。エメのおかげで、いつも宝石神殿の空気が新鮮よ」

 私の気持ちがわかってくれたのか、私の前で止まって回転してくれる。かわいらしいエメの姿のうしろに、ひとまわり大きい姿のダイヤがみえた。


「呼ばないのに現れてくれてうれしい」

 エメは呼ばなくても私の近くに出現するけれど、ほかの精霊たちは呼ばないと現れない。だから呼ばないのにダイヤが出現して驚いたけれど、うれしくもあった。


「ワシ、ツバキ、ソダテル」

「ダイヤも宝石神殿を豊にしてくれるのね」

 ダイヤが近くにある椿の根元へ手をかざすと、銀色の粒子が土へ降り注ぐ。土が豊になれば、たくさんの品質がよい椿の種が採れると思う。


「ダイヤ、ありがとう。今後も宝石神殿内の土を豊にしてね」

「ワシ、ガンバル」

 ダイヤはお辞儀をしたあとに姿を消したけれど、エメは消えずに私の近くで浮いている。エメの位置を確認しながら、椿の種を拾い始めた。


 夢中に椿の種を拾っていると、いつの間にかエメは姿を消していた。入れ物から溢れ出すくらいに椿の種が集まった。

「コパはいっぱい集めたの」

「ぼくも、がんばった」


「いっぱい集まってうれしい。みんな頑張ってくれて、ありがとう。これだければ充分な量の椿油が作れる」

「すべてを天日干しにするのですか」

 ムーンが聞いてきた。何度か椿油を作っているので、コパリュスとムーンは作業工程を覚えている。


「これだけ拾ってもまだたくさんの椿の種が落ちているから、今日の分は全部天日干しにするつもりよ。また並べるのを手伝ってね」

 椿の種を宝石箱にしまって、天日干しをする場所へ移動した。慣れた手つきで椿の種をならべて、午前中の作業は終わった。


 昼食はコパリュスの椿油を使った料理が食べたい要望に応えて、カラアゲとテンプラを作った。肉体労働のあとだからか、いつもよりも多めにカラアゲを食べた。


 午後は宝石の研磨とジュエリー加工をおこなった。今は夕食も済んで、ひさしぶりに宿屋の温泉へコパリュスとムーンと一緒に来ている。スターはまだ小さいから、宝石神殿の4階でまってもらった。


 体を洗ってから湯船に入ると横にはコパリュスが浸かってきた。少し離れた前方の位置にはムーンがいて、湯船に浸かってくつろいでいた。

「コパリュスとムーンは、もう温泉になれた?」


「最初は湯船に浸かるのになれなかったけれど、今は平気なの。肌もすべすべになって、気持ちもさわやかになるかな」

「独特の匂いはなれるまで大変でしたが、温泉は入ると心と体が温まって気持ちよいです」


「コパリュスもムーンも気に入ってくれてよかった。温泉に入ると1日の疲れが取れるから、とくに肉体労働のあとは格別ね。温泉が見つかってほんとうによかった」

 手を動かして体に温泉水をあてると、体に温泉水を染み込んでいく。


 波のように揺らぐ温泉水が、噴水のように吹き出したと思われた。よくみるとサファの姿だった。すぐ近くにはルビーの姿もみてとれた。

「コパリュス、サファとルビーが現れたよ」

 思わず、横にいるコパリュスに聞いた。


「コパにも見えているの。精霊が自分の意思で現れたのは、きっと宝石神殿の精霊たちはメイアが気に入ったと思うの」

「メイア様、精霊たちに好かれるとはすごいです」

 前方にいるムーンは感心したような声で頷いていた。


「そういえば日中もダイヤが現れたよ。エメは前からだったけれど、4大精霊に気に入られているの?」

「ダイヤも現れたのなら間違いないの」

 何が影響したのか不明だけれど、精霊たちから気に入られてうれしかった。


「サファもルビーもいつもありがとうね。安定した宝石や料理ができるのは、ふたりのおかげよ」

 宝石やジュエリー加工と料理には温度管理が重要だった。サファとルビーには単純な水と炎の改善だけではなくて、温度の調整にも力を借りていた。


 私の言葉に応えるように、サファは敬礼してルビーは飛び跳ねた。ふたりはその場で円を描くように回り出すと、銀色の粒子が温泉水に溶け込む。私の体調を気遣うように、適温の温泉水へと変化した。


「コパにはちょうどよい温度へ温泉水が変化したの」

「わたくしも望んでいる温度に変わりました」

「サファとルビーが、私たちに会うように温泉水を調整したみたい。いつも以上に疲れが取れそうでうれしい」


 私が笑顔を見せると、サファとルビーも笑ったようにみえた。その場で敬礼と飛び跳ねたあとに、湯煙が晴れるように姿を消した。

 精霊たちの行動には驚いたけれど、コパリュスの話では私を気に入ってくれたみたい。うれしい行動だったので、今後も楽しく精霊たちと過ごしていきたい。

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