第24話 新しい発想

 今日は朝からしていた採掘とジュエリー加工が一区切りついた。お昼までに時間があるので気分展開を含めて宝石神殿の外へでた。となりにはムーンがいて、ムーンの背中にはスターがのっている。


「天気もよいから、リンマルト様が育てている花壇をみるね」

「きっときれいな花が咲いていると思います」

「ぼく、そらをとびたい」

「あまり遠くに行かないでね」


 スターは私の言葉に頷いてから、ムーンの背中から飛び立った。すばやい飛行ですぐに姿が小さくなったけれど、私が肉眼で確認できる位置で飛んでいる。

 スターを視線の端におきながら、花壇の近くまで移動した。


 花壇にはリンマルト様の姿が見えて花の手入れをしている。ガゼボ近くにはシンリト様がいて絵を描いているみたい。

 花壇を見たかったので、最初はリンマルト様に近寄った。花壇には目を楽しめる花々と、心地よい香りが私をいやしてくれる。


「きれいな花が咲いていますね。すこし眺めさせてください」

 リンマルト様へ声をかけると、リンマルト様は手を止めて私へ顔を向ける。

「ぜひ、お花を見てください。お気に入りのお花が見つかると思いますわ」


「どの花もすてきよ。いろいろな花を咲かせる予定なの?」

 周囲の花壇を眺めると、何種類もの花が咲いていた。花の名前には詳しくないけれど、見覚えのある花も見受けられた。


「お花には咲く時期が決まっていますから、それに合わせて植えているかしら。宝石神殿はよいところで、昔のようにお花を育てられるとは思いませんでしたわ」

「体調のほうはもう平気なの?」


 シンリト様とリンマルト様が宝石神殿に住み始めた理由は、リンマルト様の体調を少しでもよくしたかったからだった。

「王都での不調が嘘だったと思えるくらいに、体が軽いですわ」

「それはよかった。私もきれいな花が見られて得した気分よ」


「いつでも遊びに来てください。お待ちしていますわ」

 リンマルト様と話していると、スターがムーンの背中に戻ってきた。スターはくちばしを器用に使って、フサフサの翼に毛づくろいを始めた。愛らしいスターの姿を確認しながら、リンマルト様に向き直った。


「今後もきれいな花を楽しみにしています。ところで、シンリト様は絵を描くのが趣味なのですか」

「王都にいた頃は絵の鑑賞をしていましたが、描いてはいませんでしたわ」

 もともとの趣味ではないみたいだけれど、絵を描き始めた理由が気になった。


「差し支えなければ、理由を教えてもらえますか」

「時間を持て余しているのもあるかもしれませんが、宝石神殿を心に刻みたいと言っていましたわ。王都から絵画道具を取り寄せて描き始めましたが、もともと手先は器用で絵を描くのを気に入ったみたいですわ」


「宝石神殿を大事に思ってくれてうれしい」

 すなおな感想だった。

「わたくしも宝石神殿はすてきな場所と感じていますわ」


「ありがとう。オパリュス様も喜んでいると思う。シンリト様がどのような絵を描いているのか見てくるね」

「きっと喜びますわ」


 リンマルト様と別れて、シンリト様がいる場所まで移動する。ムーンとスターは周囲にある花を満足げに眺めながら、私に着いてきた。

「香りのよい花は、心を落ち着かせてくれます」

 横に並んだムーンの感想だった。


「あざやかな花は宝石を思い浮かべるけれど、香りは花ならではの特徴よね。私も花の香りは好きよ」

「ぼくも、はなはすき」

「ムーンもスターも気に入った花があれば、一緒に植えてみようね」


「ぼく、はなをさがす」

「わたくしも香りのよい花を見つけてみます」

 話しているうちにガゼボ近くまで移動した。


 シンリト様から邪魔にならないように、少し離れた位置で絵を眺めた。詳細な描写ではなくて、色を生かした抽象的な絵だった。特徴的な絵だったけれど、気持ちのこもった絵であると思った。


 シンリト様が手を止めてこちらに視線を向けた。

「絵を描く邪魔になりました?」

「ちょうど休憩しようと思って顔を上げたら、メイアの姿がみえた。下手な絵だが見ていても問題ない」


「色あざやかなすてきな絵です。花壇に咲いている花を描いたのですか」

 細かい花びらや葉っぱなどはないけれど、咲き誇る花が頭の中に思い浮かんだ。


「その通りだ。絵の構図を分かってくれてうれしい。宝石神殿に来てからおどろきの連続であるが、気力も充実できてよいところだ。夢中になって絵も描けて、久しぶりに楽しむ時間が作れた」

 話しているシンリト様の声は生き生きしていた。宝石神殿に来て、充実な時間を送っているみたい。


「宝石神殿で楽しんでくれてうれしい。絵が完成したら、ぜひ見せてね」

「まだ時間はかかると思うが、気長にまっていてくれ。あざやかな花をもっと画面一杯に埋めたいと思っている」


「きれいな色合いの花が咲き乱れるのはすてきよね。宝石も色の種類が豊富だから絵にしたら楽しそう」

「それは面白い発想だ」

 シンリト様が興味ありそうに答えた。


「わたくしも宝石で作った絵をみたいです。きっとメイア様ならすてきな絵が完成すると思います」

「ぼくも、えをみたい」


「みんなが見たいのなら、何か考えてみようかな」

 思いつきで話した宝石の絵だけれど、本当に作ってみるのもよさそうね。

「具体的な絵の発想はあるのか」

 シンリト様が聞いてくる。


「実際の絵にするのは難しいかも知れないけれど、ステンドグラスのような形で表現すれば作れるかもしれない」

 ジュエリーに使えないルースを集めてステンドグラスにする。ルース同士をどのように固定するかが問題だけれど、完成したステンドグラスはきっとすてきよね。


「宝石神殿へ飾れば、ほかの神殿と差別化ができるすばらしい発想だ。私も完成が楽しみだ。作るのに不足しているものがあれば、協力を惜しまない」

「ありがとう。何処まで作れるか分からないけれど挑戦してみるね」


 花を眺めるために花壇へ来たけれど、宝石の絵へと話題が移った。大好きな宝石で作るステンドグラスは、挑戦するだけでも楽しい気分になりそう。

 最後にシンリト様とリンマルト様へ挨拶してから、花壇をあとにした。

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