第21話 3大神殿

「このあと行きたい場所はありますか」

 商業ギルドを出たあとにシストメアちゃんが聞いてきた。

 順調に登録が終わったので昼食にはまだ早いので観光ができそう。宝石店には行ってみたいけれど、王都ドリペットで観光できなかった場所を思いついた。


「神殿があれば行ってみたい。ほとんど宝石神殿にいるから、一般的な常識や宝石神殿以外の神様を詳しく知らないのよ」

「多くの神様がいるので、この国にも多くの神殿があります。とくに有名な神殿が3大神殿と呼ばれて、ほとんどの街に存在しています。また5柱神殿も大きな街には神殿があります」


 たくさんの神様がいるから信仰が分散して、オパリュス様のような危機が訪れたのかもしれない。オパリュス様を安心させるためにも、宝石神殿を改善する参考に有名な神殿を見たかった。


「3大神殿の何処かに行ってみたい。どのような神様を祭っているの?」

「知識の神サフィルア様、慈愛の女神エメリャル様、武力の神ルベルン様です。お母様はエメリャル様を信仰しています」


「それならエメリャル様の神殿へ行ってみたい」

 いつかは全部の神殿を見て回りたいけれど、まずはシストメアちゃんが行きやすい神殿を選んでみた。


「分かりました。慈愛神殿に案内します」

 シストメアちゃんが歩き出すと、その横に並んでついていく。

「エメリャル様の慈愛神殿はどのような感じなの?」


「どの神殿も外観の雰囲気は宝石神殿に似ています。ただ内装はそれぞれの神様に会わせて個性的になっています」

「どのような内装なのか楽しみね」

 シストメアちゃんと話しているうちに、慈愛神殿がある敷地前に到着した。見た目は宝石神殿に似ていて、一回り小さくした感じだった。


「コパはスーちゃんと一緒に散歩してくるの」

「一緒に行かないの?」

「近くを見て回りたいの」


 コパリュスは答えながら、ムーンの背中にいるスターを抱きかかえた。純粋に散歩したいのか、もしかしたら同じ神様として会いにくいのかもしれない。慈愛神殿を見るだけだから、むりにコパリュスを連れていく必要もなさそう。


「私は慈愛神殿を見学するから、スターをお願いね」

「ぼく、コパリュスといっしょにあそぶ」

「わかったの。ムーちゃんはメイアを見ていてほしいかな」

「わたくしがメイア様を守ります」


 コパリュスとムーンを見送ったあとに慈愛神殿がある敷地へと入った。観光や信者と思われる人たちが、慈愛神殿に出入りしている。慈愛神殿へ向かって歩き出すと似ている服装を着た人たちも見かけた。


「統一感のある服装は慈愛神殿の関係者?」

 横にいるシストメアちゃんに聞く。

「その通りです。役職によって少し異なりますが、この色合いや服装は慈愛神殿の証となります」


 シストメアちゃんと話していると、慈愛神殿の服装を着た男性が近づいてきた。

「シストメア様、お立ち寄り頂き、ありがとうございます。フェースン様にはいつも多大なるご支援を頂き感謝しています。神殿長をお呼びしましょうか」


「今日はお祈りに来ただけですので平気です」

「わかりました。何かあれば近くの神官へ声をかけてください」

 男性は一礼すると慈愛神殿の中へ消えていった。


「せっかく慈愛神殿へ来たのですから、私たちも礼拝堂でエメリャル様にお祈りしましょう」

「私はオパリュス様を信仰しているけれど、ほかの神様にお祈りしても平気? 宝石神殿以外に出歩かないから、あまり詳しくないのよ」

 元の世界ではいろいろな神様に祈っていたけれど、この世界での常識を知らないのでシストメアちゃんに聞いた。


「この国や周辺国では、神々は共存関係にあると言われています。信仰している以外の神殿で参拝するくらいは問題ありません」

「平気なのね。エメリャル様へ一緒にお祈りしようね」

 慈愛神殿の中へ入っていく。ムーンについて質問されたけれど、ムーンにつけた商業ギルドのプレートをみせると、問題なく一緒に入れた。


 神々同士が共存関係にあるのなら宝石神殿への参拝者を増やせば、オパリュス様も喜ぶかもしれない。

 礼拝堂の奥に背の高い像が立っていて、周辺ではお祈りをしている人たちで溢れていた。


「お嬢様、私が先頭で進みますので、うしろから着いてきてください」

 ダイジェイトさんが道を作るようにして歩き出す。そのうしろを私とシストメアちゃんが、最後にムーンがついていった。


 エメリャル様の全体像がみえる位置まで移動できた。エメリャル様は優しい顔をしていて、慈愛の女神という言葉にふさわしかった。

 周囲を見るとお祈りする方法はまちまちで、立っている人や両膝を突いている姿がみえた。私はいつも通りにお祈りを始めた。日頃の感謝やこの世界への感謝を心の中で語った。


 お祈りが終わって礼拝堂の隅へ移動した。

「一般の人は礼拝堂以外にも入れるの?」

 横にいるシストメアちゃんへ聞いた。


「あまりないと思います。頼めば入れる場所もありますが行ってみますか」

 きっと貴族のシストメアちゃんなら、たいていの場所へ入れそう。でもむりに頼むと迷惑をかけそうね。


「今日は人も多いから、お祈りだけで充分よ。慈愛神殿はほかの神殿にくらべて何か特徴でもあるの?」

「神殿はほかの神殿とあまり変わりませんが、大怪我も治せる大聖女様がいます。各地の慈愛神殿を渡り歩いているようで、もしかしたら会えるかもしれません」


「すごい人なのよね。どのような人なの?」

 聖女という言葉は元の世界でゲームや小説などでなじみがあった。私と同じような転生者だったら仲よくなりたい。


「大聖女様はエルフ族の女性です。噂では慈愛神殿の総本山が出来たときから、同じ人物という噂です。エルフ族は長寿命なのであくまでも噂だと思います」

「いつかは会ってみたい」


 神殿や神様についていろいろと教えてもらって、区切りがついたところで礼拝堂をあとにする。慈愛神殿の外に出るとコパリュスとスターが待っていた。

 全員がそろったところで伯爵邸へ戻った。

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