第20話 初めての商業ギルド

 翌日になって3回目の鐘が鳴った午前中に、シストメアちゃんに連れられて、商業ギルドにむかった。時刻を知らせる鐘は宝石神殿と同じく3時間おきみたい。

 私の横にはコパリュスがいてムーンの背中にはスターがいる。護衛としてダイジェイトさんがついて来てくれた。


「ギルド自体に詳しくないけれど、商業ギルドはどのようなギルドなの?」

 シストメアちゃんに聞いた。

「商人たちや市場の管理・運営などを行う組織です。領や国から独立した別機関なので、複数の領や国で活動するのに便利です。ただギルドに入会した商人たちは安全を得られますが、対価として年間費を支払います」


「商売する上ではギルドへ入会したほうがよさそうね」

「費用はかかりますが、商業ギルドの後ろ盾は安心できると思います」

 宝石神殿で過ごす予定だけれど、私が作るジュエリーは高価すぎるものもある。むやみな争いはしたくないから、身分証とは別にしても入会の利点がありそう。


「お嬢様、商業ギルドにつきました」

「商業ギルドの詳細は中で聞けます。メイア、入りましょう」

 私たちは商業ギルドの中へと入った。場所を心得ているのかダイジェイトさんが案内してくれる。商業ギルドの中は広々としていて賑やかであった。ヒューマン族以外にもキャット族やエルフ族の姿もみえる。


 カウンターの奥にいる女性が私たちに気づいたみたい。

「シストメア様、お久しぶりです。今日はどのようなご用件でしょうか」

 目の前に立っている女性は私と同年代くらいのヒューマン族で、肩にはかからない短めの髪型だった。


「知り合いが入会したいので、手続きをお願いします」

 シストメアちゃんが女性の話したあとに、私のほうへ顔を向けた。

「メイアよ。商業ギルドに入会したいけれど、何も知らないから教えてほしい」


「入会ですね、分かりました。私は受付のマイトラカです。以後、よろしくお願いします。入会条件は貴族か商業ギルド会員からの紹介制となります。どちらかの紹介状はありますか」


「トクツァイン様からの推薦状を渡すね」

 革の鞄から推薦状を取り出してマイトラカさんへ渡した。

「確認してきますので、お待ちください」


 マイトラカさんが奥へ姿を消す。ほどなくしてマイトラカさんが戻ってきた。

「本物の推薦状と確認できましたので、商業ギルドに入会できます。こちらが規約になりますが、読めますでしょうか」


 規約が書かれていると思われる紙を渡される。紙といっても元の世界みたいなきれいな紙と比べると粗悪な状態だけれど、この世界では一般的みたい。言語能力の加護があるおかげで、問題なく文字が読めた。


「少し時間はかかるけれど、読ませてもらうね」

 紙を受け取って読み始めた。

 基本は年会費を支払ってギルド会員となって、商業ギルドの機能を利用できる。年会費はランクによって異なっていてランクの説明も載っていた。


 機能は品物の売買から始まって、取引先や土地などの紹介もある。手数料は取られるけれど、商業ギルドが仲介となるので安心感はあった。身分証は流通を円滑におこなうための副産物に思えた。


 一通り読み終わって視線をあげた。

「内容は分かりましたか」

「中身は理解できたけれど、年会費は別の商業ギルドで支払っても平気なのよね」

 規約に書かれていたけれど、毎年ここまで来られるか不明だったので聞いた。


「はい、ほかの商業ギルドでも手数料は発生しますが可能です。仕入れ先など、ほかの場所に行っていても安心して更新できます。ちなみにメイアさんは店舗を持っていますか。もしくは持つ予定でしょうか。それによってランクが異なります」


「自分で作ったジュエリーをその時々で売りたいから、店舗は持たない予定よ」

 宝石神殿を店舗と考えるのか迷ったけれど、お店として開いているわけではないので店舗なしと考えた。


「分かりました。店舗なしはランク1で年会費は金貨10枚となります。店舗を持つとランク2となって年会費も異なりますので、ご注意ください」

「店舗を持ったら申請に来るね」


「それではギルド証を作りますので、少しお待ちください」

 マイトラカさんが、近くにあった四角い箱みたいものを両手で持ってくる。上面は平らになっていて、カードサイズの長方形板を乗せた。


「シルバーの板みたいね」

 色合いから想像してみた。

「その通りです。ランク1はシルバーのギルド証で、ランクによって素材は異なります。登録をしますので、ギルド証の上に手を乗せてください」


 言われたとおりに右手を乗せた。私からは見えないけれど、マイトラカさんが操作を始める。手に暖かさを感じたかと思うと、すぐに元の感覚に戻った。

「手を移動させても平気?」


「完了しましたので大丈夫です。ギルド証にはこのギルドとメイアさんの名称が記載されています。再発行には費用が発生しますのでご注意ください」

 手の下にあったギルド証をみると、たしかに文字が刻まれていた。

「ありがとう。大切に扱うね」


「ところで、そちらの幻獣はメイアさんの使い魔や従魔でしょうか」

 マイトラカさんがムーンとスターのほうへ視線を向けた。

「そうよ。幻獣フェンリルがムーンで、幻獣グリフォンがスターね」


「幻獣持ちとはすごいです。プレートがあるから大丈夫だと思いますが、商業ギルドに登録すると、より安心できると思います」

「せっかくだから、登録をお願いしたい」


「それではプレートをこちらの魔石具に乗せてください。刻印したい面を上側にしておいて、さきほどと同じく手を乗せてください」

 ムーンとスターからプレートを取り外して、プレートを置いてから手を乗せる。マイトラカさんが操作を始めて、無事に登録が完了した。


「問題が発生しても大抵はプレートを見せれば平気です。ただし幻獣を使っての悪行は登録削除やメイサさん自身のギルド会員剥奪につながります。ご注意ください」

「ムーンとスターに悪さはさせないから安心してね」

「了解しました。メイアさんの活躍を楽しみにしています」

 登録手数料と年会費を支払って商業ギルドをあとにした。

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