第19話 庭で楽しい昼食
翌日の朝食後、部屋にガットーネさんが訪ねてきた。部屋には私のほかにコパリュスとムーン、スターが一緒にいた。
「メイア様、午後に旦那様よりお話があるとのことです」
「昨日の続きね。今日は1日、屋敷にいる予定だからいつでも平気よ」
「了解しました。伝えておきます」
ガットーネさんが部屋を出たのと入れ替えに、シストメアちゃんが顔を見せた。
「メイア、今日の予定は何かありますか?」
「午後にトクツァイン様と献上品の詳細を聞く予定よ。そのほかの時間はゆっくり部屋で休むつもり」
「でしたら昼食は庭で一緒に食べませんか」
「それは楽しそうね。ぜひ一緒に食事を堪能したい」
「伝えておきます。ところでメイアは料理をしないのですか」
シストメアちゃんがお願いするような目で私を見る。
「コパもメイアの料理を食べたいの」
コパリュスが私の腕ととって催促してきた。旅の間は料理を作らなかったので、たまには自分の好きな味付けで食べるのもよいかも知れない。
「そうね、お邪魔でなければ私も料理を作ってみようかな」
「楽しみです。料理長へは私から伝えておきます」
話題が切れたところで、シストメアちゃんに話したい内容を思い出した。
「シストメアちゃんはトナタイザンさんを知っているよね」
「宝石神殿に顔を見せる、お年を召したヒューマン族の男性ですよね?」
「その通りよ。トナタイザンさんについて伝えたいことがあるけれど、聞いた内容を内緒にしてもらえるかな?」
「それは平気です。どのような内容でしょうか」
「トナタイザンさんは神獣ドラゴンなのよ」
単刀直入に話した。やはり急な話で理解が難しいのか、シストメアちゃんは黙ってしまった。再度、声をかけようと思ったときに口を開いてくれた。
「クンラウ山脈に住んでいると言われるドラゴンですか」
「その通りよ。驚くのは無理かも知れないけれど、宝石神殿に住んでいるシンリト様たちには話した内容よ」
「そうですか。メイアが嘘をつくはずはないので本当のことなのでしょう。それでも実際に見ないと信じられない内容です」
シストメアちゃんの言うことはもっともだった。私も実際に変身する姿を見なければ信じなかったと思う。
「宝石神殿へ来たときに確認するのが一番だと思う。それと今まで通りに接して平気だからね。くれぐれも宝石神殿の住人以外には口外しないでほしい」
「誰にも言いません。それにしても驚きました。コパリュスちゃんのこともありますし、宝石神殿は特殊な場所です」
その後、シストメアちゃんに調理場へ連れて行ってもらった。すでに昼食の準備は始まっていたので、重複しない料理を考える。
「コパも手伝うの」
「一緒に料理を作ろうね」
「わたくしとスターは料理場の外で待っています」
「ぼく、まっている」
「料理を楽しみにしていてね」
手持ちの食材から手軽に食べられる料理を思いついた。
「何の料理を作るの?」
コパリュスが聞いてくる。
「お肉やチーズをパンに挟んで食べるハンバーガーよ」
「新しい料理で楽しみなの。コパは何をすればよいかな」
「お肉を細かくしてから、平たい丸い形にしてね」
コパリュスと一緒に、丸いパン、野菜、薄く切ったチーズ、お肉を細かくして形を整えた。食べやすいように通常よりも小さくして、手のひらの半分以下の大きさにした。下準備が整ってパテを焼き始める。おいしい匂いが周囲に広がった。
パテが焼き上がると、パンズの間に野菜とチーズとパテを挟んで、トマトケチャップで味を整えた。
「美味しそうなの」
「私も早く食べたいけれど、庭に運んで準備を完了させようね」
料理場の外で待っていたムーンとスターと一緒に、料理の準備を完了させた。
昼食の時間が近づいた。庭には複数のテーブルと椅子が並べられていた。事前に用意できる品物はテーブルの上に置いてある。立食パーティーを思い浮かべた。
すべての準備が整うとトクツァイン様とフェースン様が姿を現す。そのうしろにはシストメアちゃんがいた。シストメアちゃんの兄であるパートズ様は、王都ドリペットの伯爵邸にいるみたい。
トクツァイン様がグラスを受け取った。
「シストメアから、メイアと一緒に庭で食事をしたいといわれた。ささやかな昼食パーティーを楽しんでくれ」
「美味しそうな料理がいっぱいあって目移りしそう。私も料理を用意したから、食べてくれるとうれしい」
「どのような料理ですか」
シストメアちゃんが期待に満ちた目で聞いてくる。
「ハンバーガーという料理よ。今日はお肉と野菜が中心だけれど、具材を変えればいろいろな味わいが楽しめる」
ハンバーガーが並んでいるテーブルへ、シストメアちゃんを案内する。
「パンの間に野菜やお肉が見えます。どのように食べるのですか?」
シストメアちゃんの質問に実演で示すことにした。
「お行儀の悪い食べ方だけれど、両手で持って食べる料理よ」
テーブルにあるハンバーガーを手にとって食べ始めた。手持ちの食材だけで作ったけれど充分に美味しかった。
シストメアちゃんもハンバーガーを口に入れる。
「慣れないと食べづらいですが美味しいです」
コパリュスもハンバーガーを食べ始めた。その横で私はムーンとスターにハンバーガーを用意する。
「メイアの料理はいつも美味しいの。コパはいっぱい食べたいかな」
「喜んでくれてよかった」
私の料理を堪能してからシストメアちゃんに伯爵邸の料理を案内してもらった。シストメアちゃんの近況や宝石神殿の出来事を話していると、トクツァイン様が近寄ってきた。
「楽しんでいるか」
「開放的な雰囲気で、料理も美味しくて楽しんでいます」
「それはよかった。普段は宝石神殿にいるとシストメアから聞いたが、スークパル王国やラコール領に来るのは大変だったか?」
「ムジェの森から出ること自体は平気だったけれど、身分証がないので、王都ドリペットなどに入るのが大変でした」
今回はシンリト様の書状があったので助かったけれど、もし書状がなかったら最悪は王都ドリペットに入れなかったかもしれない。
「宝石神殿に住みだす前はどこにいたのだ?」
トクツァイン様が聞いてくる。
「遠くの国です。だからスークパル王国をはじめとした周辺国では、身分を示せる品物がありません」
本当のことは言えないけれども、あながち嘘でもなかった。私の言葉にトクツァイン様がうつむいて考え込んだ。少しして私へ視線を戻す。
「周辺国の身分証もないのなら困るだろう。今後も来てもらう予定があるから、ギルドへ入会してはどうだ? 商業ギルドなら私が推薦状を書こう。冒険者ギルドは魔物と対峙できる実力を試される」
「私には魔物は無理だから、商業ギルドになりそう」
「わかった。明日までに推薦状を書いておく」
「ありがとう」
商業ギルドに入会できれば移動が楽になる。
「商業ギルドには私が案内します」
「お願いするね、シストメアちゃん」
ギルドの話が終わると料理に話題がもどって、楽しく昼食をすごした。
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