第18話 伯爵からの依頼

 シンリト様の使用人たちと一緒にスークパル王国へ向かった。コルンジさんから馬車は購入したけれど、まだ馬や御者はいないので私は荷台に乗せてもらった。コパリュスとムーンは私のみえる位置で歩いて、ムーンの背中にはスターがいる。


 南門を出て導きの道を進む。

「馬車のときに比べて振動が少ないから、導きの道は移動が楽になったね」

「魔物も出にくいから、安全にもなったの」

 近くを歩いているコパリュスが答えてくれた。


「今回は南側のみだけれど、ほかの方角も導きの道ができるのかな?」

「それは秘密なの。メイアが宝石神殿をレベルアップされれば分かるかな」

「楽しみはとっておくね」

 きっとほかの方角もあると思うけれど、コパリュスの言葉に従って、私自身の目で確かめてみたい。


「ボク、そらをとんでみたい」

 ムーンの背中にいたスターが私のところへ飛んできた。私のほうへ顔を向けて、私の発言を待っているみたい。


「スターには自由に飛んでもらいたいけれど、ここはムジェの森よね。危険な魔物がいるから心配なのよ」

 私にはどのくらいの危険性があるかわからず、コパリュスとムーンへ聞いた。


「導きの道の上空を低空で飛ぶのなら安全なの」

「危険な魔物はわたくしが近寄らせません」

 コパリュスとムーンが安全な条件を示してくれた。


「飛ぶ範囲に気をつければ平気みたいね。私からみえる範囲で飛んでね」

 視線をスターへ戻すと、私の言葉を理解して頷いてくれた。

「ボク、メイアからみえる、ちかくでとぶ」


 スターが羽ばたいて飛び出した。素早く飛ぶスターには道幅は狭いみたいで、導きの道を往復しながらりりしい姿で飛んでいた。

 しばらくしてスターはムーンの背中に戻ってきた。魔物は出現せずに、その後も順調に導きの道を進んだ。


 ムジェの森ではコパリュスとムーンがいるので安全に移動ができた。シンリト様の書状もあって、スークパル王国内の移動も順調に進んで領都アバーンへ到着した。今はラコール伯爵邸の門前にいる。


 シンリト様の使用人たちが私の用事を伝えに行ってくれた。しばらくすると使用人たちと一緒にシストメアちゃんの姿がみえる。

「メイア、よく来てくれました。元気にしていましたか」

「みんなで元気に過ごしているよ。シストメアちゃんも元気そうね」


「私も元気です。ところでムーンの背中にいる鳥は新しい仲間ですか」

「その通りよ。幻獣グリフォンで名前はスターというの」

 私の声に反応して、スターが私の目の前まで飛んできた。両手を抱えるように出すと、スターが器用に腕の中へ入り込む。


「ぼくはスター。とぶのがだいすき」

「ムーンと同じく話せる幻獣とはメイアはすごいです。もっとメイアと話したいですが、お父様とお母様が中で待っています」


 シストメアちゃんに連れられてラコール伯爵邸の中へ入っていく。王都にあった屋敷よりも広くて、案内された部屋の内装は豪華だった。部屋の中にはシストメアちゃんの両親であるトクツァイン様とフェースン様が出迎えてくれた。


「遠くまでよく来てくれた。疲れは大丈夫か」

「お気遣いをありがとう。少しだけ疲れているけれど平気です。シンリト様から手紙を預かってきましたので確認してほしい」


 相手は貴族で領主だけれど、以前に会ったときに公の場以外では普段通りで構わないと言われた。年上相手だから敬意を払いながら、宝石神殿の管理人として堂々とすることにした。


「拝見させてもらう。父上と母上は元気だろうか」

「楽しく過ごしています。リンマルト様はきれいな花を育てられるくらい、外を出歩けるようになっている」

 トクツァイン様の質問に答えながら、革の鞄から取り出した手紙を渡す。安全のために直前まで宝石箱に入れてあった。


「それはよかった。最初は危険に満ちたムジェの森で心配したが、宝石神殿はすばらしい場所のようだ。手紙を読ませてもらう」

 トクツァイン様は手紙の封を開けて中身を読み出した。ときおり頷きながら、考えているようにもみえた。


「何か問題でもあったの?」

 少し心配になって聞いた。

「父上からメイアへの依頼だった。実は5年に一度、国王陛下へ献上品を贈るしきたりがある。献上品の候補としてメイアのジュエリーはどうかという内容だ。もちろん依頼を受けるかはメイアが決めて構わない」


 まさか私が関連する内容とは思わなかった。国王様の献上品なら名誉ある仕事だけれど判断に迷う。横にいるコパリュスに目を向けると頷いてくれた。私の判断に任せてくれるみたい。


「どこまで希望通りに作れるか分からないけれど、リンマルト様の期待に応えていきたい。もう少し詳しい内容を聞かせてほしい」

「前向きに考えてくれて助かった。半年後に国王陛下へ献上品を贈るが、候補となる献上品をすでにいくつか手配している。最終的には私が判断する。メイアのジュエリーなら私も大歓迎だ」


「わたしも賛成です」

 フェースン様も同じ考えみたい。後ろのほうで控えているシストメアちゃんも大きく頷いていた。

「分かりました。頑張ってジュエリーを作りますね」


「楽しみができた。詳細は明日以降に話したいが何日くらい滞在する予定だ? メイアさえよければ、このまま屋敷に泊まってもらっても構わない。シストメアも喜ぶだろう」


「ぜひ泊まってください。メイアといろいろと話したいです」

 シストメアちゃんの声には力強さがあった。フェースン様の薦めもあったので、お言葉に甘えて泊めてもらうことにした。

 シストメアちゃんが部屋まで案内してくれて、ガットーネさんが荷物をもってきてくれた。思った以上に疲れがあったのか、その日は早めに眠りへついた。

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