第15話 お庭でひととき
シンリト様とリンマルト様が造っていたガゼボが完成して、今日の午後にガゼボでお茶会を開く。せっかくだからお菓子を持って行きたいと思って、料理人のルーパさんとリテさんの夫婦に手伝いをお願いした。
午前中の時間帯に、宝石神殿の2階にある料理場へきていた。ルーパさんとリテさん以外に、コパリュスも手伝ってくれる。
事前にふたりへ聞いたところ、パイに似たお菓子はあるけれどアップルパイはなかった。また甘いお菓子は稀少で、生クリームを使ったケーキは知らなかった。
「どのようなお菓子を作るの?」
「アップルパイというケーキよ。ただケーキ作りには慣れていないから、ルーパさんとリテさん、いろいろと教えてね」
コパリュスの質問に答えたあと、ルーパさんとリテさんへ視線を向けた。
「自分たちは何を手伝えばよろしいでしょうか」
ルーパさんが聞いてきた。
「手順や分量は詳しく覚えていないので、おかしな点があれば教えてほしい。パイ生地はコパリュスとルーパさんで、具材は私とリテさんで作るね」
「了解しました」
コパリュスとルーパさんには、パイ生地の材料である小麦やバター、塩などを渡した。作り方はコパリュスに説明しておいた。
「私は何をしましょうか」
近くに来たリテさんが聞いてくる。
「リンゴの芯を取り除いて、縦に薄く切ってほしい。私はリンゴを加熱する準備とカスタードクリームを作るね」
「リンゴの準備は任せてください」
リテさんが作業を始めたのを確認してから、私は火の魔石具に鍋を乗せた。バターと砂糖、果樹園で採れたレモンを用意して、レモンはしぼってレモン汁を作る。リンゴを加熱する準備が整うとカスタードクリーム作りを開始した。
リンゴ用とは別の鍋に卵黄と砂糖を入れてかき混ぜる。小麦粉を少し足して、温めたミルクを少しずつ入れながらなじませた。
「パイ生地ができたの」
コパリュスがお皿に乗せたパイ生地を持ってきた。ルーパさんの手伝いもあり、きれいなパイ生地にできあがっていた。両手くらいの大きさで、全体に小さな穴が開いていた。
「リンゴとカスタードクリームはもう少しでできるから少し待ってね」
「コパはメイアの手伝いをするの」
「一緒にカスタードクリームを作ろうね」
私とコパリュスでカスタードクリームを作って、ルーパさんとリテさんでリンゴを煮詰めたものができあがった。
パイ生地にカスタードクリームを入れて、リンゴを花びらのように並べる。最後に王都ドリペットから取り寄せたオーブンでこんがりと焼いて完成させた。
5回目の鐘が鳴った午後に、コパリュスとムーン、スターを連れてガゼボへ向かった。私はスターを抱えて、コパリュスがアップルパイを持ってくれた。
「よくきてくれた。くつろぎながらお茶を楽しんで欲しい」
シンリト様とリンマルト様が私たちを出迎えてくれた。
「今日はありがとう。リンマルト様が育てたきれいな花々が見られて、すてきなガゼボですね。アップルパイを持ってきたから、食べてもらえるとうれしいです」
「コパも手伝ってみんなで作ったの」
コパリュスがアップルパイの入った箱をシンリト様へ渡した。
「それは楽しみだ。さっそくみんなで食べよう」
席に案内されて、使用人が紅茶を用意してアップルパイを切り分ける。
「王都ドリペットから取り寄せた紅茶ですわ。お口に合うとうれしいですわ」
リンマルト様が紅茶を勧めてくれたので、カップを手にとって口に持っていく。果物のような甘い香りが鼻を通り抜けて、紅茶を飲むと甘さとさわやかさが口の中に広がっていく。
「心をいやしてくれる味わいで美味しい」
「喜んでくれて嬉しいですわ」
「この紅茶にアップルパイは合うと思うから、ぜひ食べてね」
「それでは頂こう」
シンリト様がフォークを使ってアップルパイを食べ始める。
「リンゴの酸味と中にあるクリームの甘さが相まって美味しい」
リンマルト様も食べ始めて、驚いたような表情をする。
「パイは何度も食べていますが別物ですわ。とくにこのクリームは、日常では味わえない甘さです。お茶会の定番として出したいほど美味しいわ」
「気に入ってくれてよかったです。新鮮な食材や砂糖を多く使ったから、カスタードクリームは作れたと思う」
2人がおいしく食べている姿がうれしかった。私の横ではコパリュスとムーンもアップルパイを食べていた。
「カスタードクリームという名前なのか。アップルパイをまた作ることは可能か」
「ルーパさんとリテさんに作り方を教えたから、いつでも平気だと思う。ただ日持ちがしないから、宝石神殿以外では注意してくださいね」
「わかった。アップルパイは宝石神殿内でのみ楽しもう」
私もアップルパイを食べ始めて、話題は料理からスターへと移った。
シンリト様とリンマルト様からは珍しい幻獣なので、宝石神殿の外では注意したほうがよいと言われた。
数日後の夕方に宝石神殿の5階へきていた。横にはコパリュスがいて、ムーンの背中にはスターが乗っている。いつものように精霊たちが出迎えてくれた。
その日に作った宝石やジュエリーを、コーディネートを考えながら奉納台へと乗せた。淡い光とともにジュエリーが消えたと思うと、部屋全体に光が充満していく。うれしい光が収まると、宝石神殿がレベル12に上がった。
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