第13話 ムジェの森で異変

 今日はコパリュスとムーンと一緒にムジェの森へ食材探しに来ていた。畑や果樹園ができて食材も充実してきたけれど森の恵みにはうれしいものがある。

「ムーちゃん、北側に少し進んでみて」

 私の横にいたコパリュスが、前方にいるムーンへ声をかける。


「どうしたの?」

 普段は気ままに歩きながら食材を探していたので、コパリュスが方向を指定したのは珍しかった。


「ちょっと気になることがあるの。もう少し近づけばムーちゃんにも分かるかな」

「何かあるのね。北側に進みましょう」

「わかりました」

 少し進むとムーンが向きを変えて私たちのほうへ歩いてきた。


「何かの気配でも感じたの?」

 コパリュスとムーンは、私と異なって気配を感じ取ることができる。そのため魔物が近寄ってくる前に倒してくれるので、私が戦闘を見かけることはほとんどない。


「いやな感じの気配が多数あります。魔物と言うよりも集団で行動する盗賊か何かだと思われます」

「コパもムーちゃんと同じいやな感じがしたの。このままだと宝石神殿の近くに移動する可能性もあるかな」


「戦闘はしたくないけれど、宝石神殿のみんなに危害が及ぶのはさけたい。コパリュスかムーンが確認に行ってくれるかな? 私のわがままだけれど、もし盗賊でもできれば殺さずに捕まえてほしい」

 元の世界では戦争の経験はないし、こちらの世界では勇者でも何でもない。危険な魔物や食糧確保のために動物は倒すけれど、むやみな殺生はしたくなかった。


「わかったの。コパが行って悪者なら捕まえるの。ムーちゃんはメイアを守っていてほしいかな」

「メイア様の安全は、わたくしに任せてください」

「ちょっと見てくるの」


 コパリュスが私の横から前方へ移動して、すぐに森の中へ消えていく。かわりに私の近くにはムーンが寄ってきた。

「コパリュス様へ任せれば安心です」

「そうね。私たちはこの場所でコパリュスを待ちましょう」


 ムーンと一緒にコパリュスの帰りを待っていたけれど、時間が経つにつれて少し心配になってくる。ムーンに声をかけようとすると、ムーンが私のほうを向いた。

「もうすぐこちらに着きます」

「コパリュスが戻ってきたのね」


 視線をコパリュスが向かった前方に移すと、私の視界にコパリュスが現れた。怪我はしていないようだけれど、サッカーボールくらいの茶色い何かを抱えていた。

「悪者は倒してきたの。たぶん幻獣の卵を奪って逃げていたかな」


「コパリュスが無事でよかった。その抱えているものが幻獣の卵なの?」

「その通りなの。捕まえた悪者は通りかかったトナタイザンが見ているから、一緒に来てほしいかな」


 コパリュスは近寄ってきて、抱えている卵を私に渡した。私は卵を落とさないように両手で抱える。ムーンと同じ幻獣ならきっと貴重な卵よね。たぶん盗まれたと思うから、できれば親に返してやりたい。


 コパリュスが歩き出したので、ムーンと一緒に続いた。

「この卵はどうするの? 親が心配していると思うから元へ返したい」

「冷やすとまずいと思うから、メイアに卵を温めていてほしいの。悪者を対処してから卵をどうするのか考えたいかな」


「大事に持ちながら温めるね」

「周囲はわたくしが警戒します」

 私は卵に集中しながら歩いた。もともと私には戦う術がないので、魔物が近寄ってきても何もできない。だから思う存分に卵のみと向き合えた。


 卵に意識を集中すると、卵の中が動いている感覚がわかった。きっと孵化が近いのかもしれない。そう思っていると、今度は殻をつつく振動が手に伝わってきた。

「コパリュス、ムーン。もうすぐ卵が孵化するかもしれない」


「メイア様、いったん地面に置いたほうが良いと思います」

 ムーンの指示に従って卵をゆっくりと地面へ置く。コパリュスも私の隣へ移動してきた。卵をみつめると微妙に動きながら、上部に小さな亀裂がみてとれた。


「もうすぐ卵が割れるみたい」

「メイアはそのまま卵を見守ってほしいの。周囲はコパとムーちゃんがいるから、心配しなくても平気なの」

「雛が誕生するまで卵は私に任せてね」


 孵化の手伝いはできないけれど、雛が無事に生まれてくるように祈った。徐々に亀裂が大きくなって、卵の中からくちばしが飛び出す。卵が割れ始めると卵自体が大きく左右に揺れて、亀裂も勢いよく進展する。


 最後には上部にあった卵の殻が地面へ落ちた。中にはかわいらしい雛がいて、その瞳が私を捕らえている。雛を見つめ返すと、うれしそうに微笑んだようにみえた。

 雛が卵の殻から出てきて、私の足元へすり寄ってきた。


「グリフォンの雛みたいなの。メイアを親と思って懐いているかな」

「私がこの子の母親?」

「メイア様のやさしさを、本能的に理解したのかも知れません」


 足元にいる雛をみると、鳩よりも大きくて鷹くらいの体格だった。全身が茶色で額には星を思わせる六条の白い線があった。恐る恐る雛の頭をなでるとうれしそうに私の手を押し返す。


「この子はどうなるの? まさかこのままムジェの森へ置いていかないよね」

 コパリュスとムーンへ視線を向けた。

「本来は親の元へ返すのが理想だけれど、場所も分からないから無理と思うの。どうしたらよいかはメイアに任せるの」

 コパリュスの言葉を聞いてから雛へ視線を戻した。すぐに結論ができた。


「この子と宝石神殿で一緒に暮らしたい」

「コパは構わないの」

「わたくしもメイア様の考えに賛成します」


 コパリュスもムーンも即答だった。きっと宝石神殿へ連れて行きたいという答えを予想していたみたい。足元にいた雛を抱きかかえると暴れる様子もなくて、安心するように体を丸めながら目を閉じた。


「ありがとう。元気に育つように面倒をみるね」

「名前はどうするの?」

 コパリュスが聞いてくる。一緒に暮らすなら名前が必要よね。腕の中にいる雛を眺めながら名前を考える。りりしい姿をみていたら名前が決まった。


「額の白い六条が星にみえるから、名前はスターよ」

「すてきな名前なの」

「星のような輝きをみせる名前です」

 コパリュスもムーンも気に入ってくれた。


「私はメイアっていうの。よろしくね、スター」

 スターに向かって話しかけると、スターが目を開けてくれた。

「メイア、うれしい。ぼくはスター」

「スターが喋った」

 まさか生まれたばかりの雛が話せるとは思わなかった。


「上位幻獣のグリフォンみたいなの。スーちゃんは、この辺りでは珍しいかな」

 コパリュスはスターをスーちゃんと呼ぶみたい。

「大切に育てるね」

 スターを大事に抱えて決心した。


 その後、トナタイザンさんの元へむかった。悪者は10人くらで、全員が蔦のようなもので縛られていた。コパリュスとトナタイザンさんの強さを目の当たりにしたのか、抵抗する様子はなかった。

 トナタイザンさんに手伝ってもらって、悪者を宝石神殿へ連れて帰った。

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