第12話 確実な歩み

 お昼前の時間、今日も宝石神殿の地下2階で採掘をしていた。少し離れた位置にコパリュスとムーンがいて、私が作った宝石とジュエリーを眺めていた。


 さきほどから見慣れない鉱物が採掘されていた。どのような鉱物なのか鑑定が楽しみでもあった。それなりの量になったので鉱物を宝石箱に入れてテーベルがある場所へむかうと、コパリュスとムーンが近寄ってきた。


「種類の異なる新しい鉱物がいくつか採掘されたから、さっそく鑑定してみるね」

「どのような鉱物か楽しみなの」

「新しい宝石から作るジュエリーも、どのような姿になるのか待ち遠しいです」

 コパリュスもムーンも新しい鉱物か何か期待しているみたい。見慣れない鉱物を次から次へと鑑定していく。失敗する鉱物はなかったため、すぐに鑑定が終わった。


「2種類の新しい鉱物が見つかったよ」

「どのような鉱物なの?」

「レベル6のベニトアイトとレベル8のターフェアイトね」


「どのような宝石なのでしょうか」

 ムーンが聞いてくる。

「宝石図鑑で確認してみるね」


「わたくしも何が書かれているのか見たいです」

「コパも同じなの」

「みんなで一緒に見ようね」


 宝石箱の蓋を開けて『宝石図鑑』と念じた。宝石図鑑を取り出して最初にベニトアイトの頁を開いた。ベニトアイトに関する絵や説明、加工の注意点が載っている。


「透き通るような青色がすてきです」

「レベル6の鉱物で、ほとんど小粒しか採掘できなくて希少性が高いみたい」

「サファイアと似た感じなの。もうひとつのターフェアイトも見たいの」

 コパリュスの希望に応えるために頁をめくった。


「薄紫色の透明感がある宝石で産出量が少ないから、この宝石も希少性が高そう」

「両方の宝石とも、スフェーンと同じで珍しい宝石でしょうか」

「説明文を読むと珍しいと思うけれど合っているのかな?」

 ムーンの質問をそのままコパリュスへ聞いた。文面からはレアストーンと呼ばれる珍しい宝石だった。


「その通りなの。ほとんど宝石やジュエリーとして出回っていないかな」

「珍しい宝石としてコルンジさんへ見せられそうね」

「わたくしは実際の宝石を早く見たいです」


 ムーンが急かすように私へすり寄ってきた。すっかりムーンは宝石やジュエリーが好きになったみたい。ムーンのモフモフとフサフサな体をなでると、温もりが伝わってきた。


「もう少しで昼食の時間になると思う。食事のあとにベニトアイトとターフェアイトを加工するから、楽しみにまっていてね」

「今から待ち遠しいです」


「コパは昼食が待ち遠しいの」

「後片付けをしたら昼食にしましょう」

 道具を片付けて採掘した鉱物は宝石箱へしまう。コパリュスとムーンをつれて宝石神殿の4階へむかった。軽めの料理を作って、昼食の時間を楽しく過ごした。


 食後の休憩をしたあとに、コパリュスとムーンと一緒に宝石神殿の地下1階へ移動する。さきほどまで採掘していた鉱物と道具を宝石箱から取り出した。

「ベニトアイトとターフェアイトを加工するね」

 準備が整ったのでコパリュスとムーンへ声をかけた。


「実際の宝石がどのような輝きか楽しみです」

「コパはムーちゃんと近くで遊んでいるの」

「完成したら声をかけるね」


 コパリュスとムーンが離れたのを確認したあとに研磨を開始する。オパリュス様からの贈りものである水の魔石具は、研磨で発生した熱を冷やしてくれる。精霊の影響があるので、水には銀色のきらめきが浮かんでいた。


 最初はベニトアイトから研磨を始める。初めて研磨する鉱物だけれど、今までの経験からクラックや破損に繋がるような危険な状態はなかった。順調にベニトアイトをルースまで仕上げると、同じようにターフェアイトも研磨する。


 それぞれひとつずつルースができると視線をあげた。

「コパリュス、ムーン、ルースが完成したけれど見てみる?」

 私の声に反応してコパリュスとムーンが私のほうへ顔を向ける。


「見てみたいの」

「わたくしも輝きを確認したいです」

「両方とも多面体カットにしたから輝きが楽しめると思うよ」

 コパリュスとムーンが近くにきたので、ふたつのルースをテーブルにおく。ふたりはのぞき込むようにルースを眺め出した。


「小粒だけれどベニトアイトの輝きはすてきなの」

「ターフェアイトも表面に発生する輝きの変化が幻想的です」

 コパリュスもムーンも気に入ってくれたみたい。これからも新しい鉱物を採掘してふたりを喜ばせたい。


「いろいろな種類のルースを作るの?」

「代表的な形状やカットは試すつもりよ。ジュエリーは賢者のヤシャシートンさんを想像しながら作ってみるかな。たしかハーフリング族は背丈が低いヒューマン族のイメージよね」


「その通りなの。宝石調和のスキルを上げる特訓かな」

「新しく頂いたスキルだから早くレベル2にしたいと思っている」

「メイア様ならすぐにレベルが上がると思います」


「楽しみながらジュエリーのコーディネートを考えてみる。その前に採掘した鉱物を使ってルースを多く作るつもり」

「完成を楽しみにしているの。それまでの間、コパはムーちゃんと遊んでいるの」

 コパリュスとムーンが少し離れた場所へ移動した。


 私は鉱物を手にとって研磨を始める。ベニトアイトとターフェアイトの鉱物を全て研磨して、合計で10個くらいのルースが完成した。

 つぎはジュエリー制作を開始した。まだ見たことがないけれど、男性のハーフリング族を想像しながら加工を進める。


 ベニトアイトとターフェアイトともに2個ずつ簡単なブローチのジュエリーを作った。ピン部分は作り置いたものを利用したのとスキルのおかげで、元の世界に比べれば断然早い時間で作成できていると思う。


 すべての作業が終わるとコパリュスとムーンと一緒に宝石神殿の5階へ向かう。5階の扉を開けると、精霊たちが宙に浮きながら出迎えてくれた。

「新しい宝石とジュエリーよ」


 宝石箱から取り出した宝石とジュエリーを手に乗せてみせる。エメは宝石を見たあとに私の周囲を飛び回った。ほかの精霊たちも宝石を見て態度で示してくれた。

「みんな新しい宝石を喜んでいるの。コパもメイアの宝石やジュエリーはすてきだと思うの。今日も奉納してくれるの?」


 コパリュスが私の顔をのぞき込むように視線を向ける。

「数は少ないけれど、もちろん奉納するよ」

 オパリュス様の像がある手前の奉納台に、ベニトアイトとターフェアイトの宝石とジュエリーを各1個ずつ乗せた。淡い光とともに宝石とジュエリーが消えた。


「宝石神殿のレベルアップはもう少しかかりそうだけれど、メイアなら慌てなくても平気だと思うの」

「楽しみながら進めるね」


「メイア様ならすぐだと思います。そういえばメイア様のスキルは、どのようになっているでしょうか」

「確認してみるね」

 近くにある石のテーブルへ移動して手をかざした。画面に私の情報が表示されると嬉しい文字が目に入った。


「メイア様、凄いです」

「私も驚いている。宝石調和スキルがレベル2になってうれしい」

「コパもうれしいの」

 私のレベルアップを祝うように、精霊たちが宙に浮きながら躍ってくれた。

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