第10話 トナタイザンの正体

 宝石神殿の西側に張り詰めた空気が漂っている。目の前にドラゴン姿のトナタイザンが降りてきたからだった。私とコパリュス、ムーン以外はドラゴンがトナタイザンさんとは知らない。


 土煙が収まると、黄金のドラゴンがこちらを見ている。

「メイアちゃん、本当に知り合いなのかい」

「その通りよ」


 肯定の言葉をかけたけれど、マクアアンリさんはドラゴンから目を離さない。

 ドラゴンの周りに霧が発生すると、ガルナモイトさんたちの緊張が私にも伝わってきた。ガルナモイトさんが動き出そうとした瞬間、霧が晴れた。


「白魔石以外にワイバーンの皮もあった。両方ともメイアに渡そう」

 今までドラゴンがいた場所には、ヒューマン族姿のトナタイザンさんがいた。

「私がもらってもいいの?」


「もちろんだ。わしがもっていても仕方がない」

「ありがたく頂くね。それとみんなに正体を説明してくれると助かる」

 視線をトナタイザンさんからみんなへと移した。トナタイザンさんも私の向いたほうへ顔を向ける。シンリト様を始め、みんながこわばった表情をしている。


「そうか、まだ説明をしていなかった。見ての通り、わしがクンラウ山脈に住んでいる神獣ドラゴンだ」

「ムジェの森にある宝石神殿へ何度も来るから、ただ者ではないと思っていたが」

 シンリト様だった。


「散歩がてらに宝石神殿に来ているだけだ。もちろん、メイアのジュエリーや料理が気に入っている。わしに危害さえ加えなければ襲ったりはしない」

「今までどおりで構わないと言うことか」


「そうだ。メイアが認めた住人なら、わしの知り合いも同然だ。畑仕事や模擬戦などは今までにない経験で楽しかった」

 トナタイザンが答えながら、私に白魔石とワイバーンの皮を渡してくれた。ワイバーンの皮は使い道が分からないから、あとで宝石箱にしまっておくつもり。


「神獣ドラゴンから指導を受けていたとは、あたいは驚いたさ」

 マクアアンリさんがほっとした表情を浮かべる。でもコパリュスがオパリュス様の分身と知ったら、もっと大変になりそう。


「私も初めて知ったときは驚いたの。トナタイザンさん、シストメアちゃんやコルンジさんにも正体を教えても平気? 無闇に話すつもりはないけれど、宝石神殿に縁のある人には話しておきたい」


「メイアが認めた相手なら構わない」

「ありがとう。コパリュスもムーンも、それで大丈夫?」

「メイアの好きで構わないの」

「わたくしも大丈夫です」

 コパリュスとムーンの了解も得られた。


 シンリト様たちやガルナモイトさんたちには、むやみにトナタイザンさんの正体を言わないようにお願いした。みんな快く了解してくれた。

 ワイバーン出現から始まった騒動は、何の被害も出なく終わった。


 翌日の朝、宝石神殿の1階にある礼拝堂でお祈りをしていると、扉の外にある噴水付近から人声が聞こえてきた。お祈りを終えてから表に出ると2台の馬車が止まっていて、噴水周辺に数名の人が慌ただしく動いている。


 馬車から男性が降りてきて私のほうへ向かってくる。コルンジさんだった。

「メイア殿、ムジェの森を移動中にドラゴンを見かけました。死も覚悟しました。クンラウ山脈の神獣ドラゴンだと思いますが、宝石神殿に被害はなかったですか?」


「宝石神殿は大丈夫よ。神獣ドラゴンのことで話があるけれど、コルンジさんのみで一緒に来てもらえる?」

「わたしだけですか? 構いませんが大事な話でしょうか」


「あまり広めたくない話よ。宝石神殿の2階へ行きましょう」

 コルンジさんはほかの人へ指示を出してから私と一緒に宝石神殿の中へ入った。礼拝堂でコパリュスの姿を見かけたので、コパリュスも一緒に連れていく。


 来客用の部屋が空いていたので、その部屋で向かい合うように椅子へ座った。

「それで神獣ドラゴンの話とはどういう内容でしょうか。ムジェの森や周辺国に危害が及ぶような噂でしょうか」


 多くの種族から恐れられている神獣ドラゴンの情報だからか、コルンジさんの声からは緊張感が読み取れた。

「危ない話ではないから大丈夫よ。ところでコルンジさんは、トナタイザンさんを知っているよね?」


「もちろんです。過去にはムジェの森を移動するときに同行して下さいました。気さくな人で、危険に満ちたムジェの森の移動が、気分的に楽となりました」

「それなら問題なさそうね。じつはトナタイザンさんが神獣ドラゴンなのよ」

 私の言葉を聞いたコルンジさんは、何を言われたのか理解していないような表情を浮かべている。


「言葉通りの意味なの。トナタイザンの真の姿は神獣ドラゴンなの」

 コパリュスが補足してくれた。

「ほ、本当ですか?」

 声を振り絞った感じで、コルンジさんが聞いてくる。


「いまさらコルンジさんに嘘をついても私たちに得はないよ。もし不安なら、ガルナモイトさんたちや宝石神殿の住人に聞けばわかる」

 私に視線を向けたコルンジさんの表情は、眉間にしわを寄せていた。


「メイア殿がそこまで言うのなら本当でしょう。ただ疑うつもりはありませんが、大事な内容なので確認してみます」

「それとお願いがあるのだけれど、トナタイザンさんが神獣ドラゴンというのは黙っていてほしいの。もし公になったら大変なことになると思うのよ」


「もちろん、わたしからは誰にも話しません」

「ありがとう。トナタイザンさんには今まで通りに接してもらって平気よ」

 最初は戸惑うかも知れないけれど、コルンジさんとトナタイザンさんなら大丈夫だと思った。トナタイザンさんの説明が終わって一息つくと、コルンジさんが宝石神殿に訪れた理由が気になった。


「ところで今日は宝石神殿に用事があるの? それとも何処かに行く途中なの?」

「今日はうれしい知らせを持ってきたのですが、驚いて忘れるところでした」

 コルンジさんの答えに興味がわいた。

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