第9話 ワイバーン飛来
昼食を済ませたあとの日中に、トナタイザンさんが宝石神殿へ姿をみせた。私のとなりにはコパリュスとムーンがいる。噴水前でトナタイザンさんから、手に持っていたお肉を渡された。
「いつもありがとう。安定してお肉料理が食べられてうれしい」
「散歩がてらに動物を見かけただけだ。メイアの料理はおいしいから、役に立ったようでなによりだ」
「時間があえば、料理をご馳走するね」
「それは楽しみだ」
うれしそうにトナタイザンさんが答えた。見た目は背が高いヒューマン族の老人だけれど、真の姿は神獣ドラゴンだった。トナタイザンさんにとって動物や魔物は、散歩の合間に倒す程度の強さかもしれない。
「料理はさきほど食べたばかりで、今は準備ができないけれど、新しいジュエリーを作ったからみてみる?」
「メイアのジュエリーはわしも気に入っている。ぜひ見てみたい」
革の鞄から宝石箱を取り出して、中にしまっていた中空ネックレスを取り出す。まだまだ表面への繊細な加工は試行錯誤だけれど、満足のいく仕上がりだった。
「ネックレスよ。何処が新しいジュエリーなのかは持っていればわかるよ」
「見た目は普通のネックレスと同じだ」
トナタイザンさんの感想を聞いてから中空ネックレスを渡す。トナタイザンさんの表情が変わった。
「もう分かった?」
「これは驚いた。軽さが尋常ではないがゴールド以外の素材なのか」
「正真正銘のゴールドよ」
私の答えに戸惑っているみたいで、トナタイザンさんはいろいろな角度から中空ネックレスを確認していた。
「コパも最初はびっくりしたの」
「作る過程を見ていましたが、それでも驚きました」
コパリュスもムーンも初めてみた当時を思い出したのか、トナタイザンさんの発言に同意していた。
「中身が中空になっているから、見た目よりも軽いのよ。いつもお肉や宝石神殿を気にかけてくれているお礼に、このネックレスをあげるね」
「ありがたく頂こう。おもしろいジュエリーだ。もし困ったことがあれば何でも言ってくれ。わしにできる範囲で手助けする」
「頼りにしているね」
トナタイザンさんから視線をコパシュルとムーンにむけると、いつもと異なってコパリュスに笑顔がなかった。私の視線に気づいたようで、コパリュスは北西の方角を指さした。
「ワイバーンなの。宝石神殿は平気だけれど少し厄介かな」
「わしにも気配が感じ取れた。ワイバーンとしては強そうだ」
私には青空しか見えないけれど、きっと北西方向にはワイバーンがいる。
「大丈夫なの?」
心配になって聞き返した。
「メイアには危害がおよばないから安心してほしいの」
「それなら一安心ね」
「わたくしにもワイバーンが認識できました」
ムーンも気づいたみたいで、私は目を凝らすと空に小さな点がみえるくらい。
「このままだとムジェの森へ来るのかな? 宝石神殿が安全でもムジェの森が被害を受けるかもしれないよね」
ムジェの森に強い魔物はいるけれど、空からの攻撃が有利なのは私でもわかる。ムジェの森は食材の宝庫でもあるので、むやみな被害はさけたかった。
「さきほどのジュエリーのお礼だ。わしが退治してこよう」
「平気だと思うけれど気をつけてね」
トナタイザンさんが西側の道へ向かって歩き出して、建物がない広い場所まで移動する。トナタイザンさんの周囲が霧におおわれたかと思うと、金色にかがやく巨大なドラゴンの姿が現れた。
「すぐ終わりにしてくる」
トナタイザンさんが翼を広げて飛び立った。前回の突風を思い出して足を踏ん張って、コパリュスとムーンの支えで何とか立っていられた。
「初めて日中にみたけれど、ゴールドにも負けないくらい眩しい金色ね。神獣ドラゴンの名を超えるくらい迫力があった」
「ドラゴンは怖くないのですか」
ムーンが聞いてきた。
「トナタイザンさんと知っているからね。知らないドラゴンなら、すぐにコパリュスとムーンに助けを求めている」
「もうすぐワイバーンと戦闘が始まるの」
私にもワイバーンと認識できる大きさになっていた。そのワイバーンにトナタイザンさんが急接近する。次の瞬間、トナタイザンさんが衝突したかと思うとワイバーンが地面に向かって吹き飛んだ。
体を震わせるような地響きが私を襲う。しばらく呆然となった。
「メイア様、大丈夫でしょうか」
ムーンの声で我に返った。視線を空に戻すと何も見当たらない。
「もう平気よ。トナタイザンさんが勝ったと思うけれど姿が見えない」
「ワイバーンの魔石を取りにいったの」
現状が分かったときに、うしろからマクアアンリさんの大声が聞こえてきた。
「メイアちゃん、いまの衝撃音は何だったのかい?」
声の方向に振り向くと、ガルナモイトさんたちやシンリト様たちだった。どの顔にも驚きや不安の表情が浮かんでいる。
「大丈夫よ。ワイバーンが近くにきたけれど、それを倒したときの衝撃音よ」
「ワイバーンは厄介だけれど、コパリュスちゃんが倒したのかい」
マクアアンリさんが聞いてくる。
「コパとは違うの」
コパリュスが答えたときに、使用人たちから悲鳴が上がった。
「みんな下がれ」
ガルナモイトさんだった。武器は持っていないけれど、私たちを庇うように前へ立ちはだかった。その動きをみて我に返ったのか、使用人たちはシンリト様とリンマルト様を取り囲む。
「ドラゴン、きっと神獣ドラゴンです。初めて見ますが、勝てる気がしません」
トアイライオさんは諦めの言葉を呟いたあとに、魔法の詠唱を始めた。
徐々に神獣ドラゴンのトナタイザンさんが近づいてくる。そういえば、宝石神殿の住人にはトナタイザンの正体を知らせていなかった。
「みんな大丈夫だから落ち着いて、神獣ドラゴンは知り合いなのよ」
理解できない表情でみんなが私へ視線を向ける。
「本当かい?」
「マクアアンリさんも知っている人よ」
「メイアちゃんが嘘をつかないのは知っているけれど、にわかに信じがたいさ」
さきほど飛び立った場所に、ドラゴン姿のトナタイザンさんが降りてきた。みんなは緊張なのか絶望なのか言葉を失って、その場に立ち尽くしている。
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