第8話 軽いジュエリー

 アルミニウムと銅が採掘できてから数日が経過した。アルミニウムや銅は宝石や地金には使えないけれど、ジュエリー作成の材料に使う方法を思いついた。新しい感じのジュエリーができそう。


 昼食をとってから、コパリュスとムーンと一緒に宝石神殿の地下1階へきた。

「うまく作れるか分からないけれど、試しながら挑戦してみるね」

「どのようなジュエリーでしょうか」

 ムーンが聞いてきた。


「中身が空洞になっている中空ジュエリーよ。最初は細かい作業は無理だから、大きめのネックレスを作るつもり」

「完成が楽しみです」


「2つの材料を加熱させるので、危ないかもしれないから少し離れていてね」

「距離をとって見学します」

「ムーちゃん、こっちのほうなら安全なの」

 コパリュスとムーンが移動したのを確認してから作業に取りかかった。中空ジュエリーの詳細な作り方は知らないので、うろ覚えの記憶とスキルが頼りだった。


 ゴールドを薄く伸ばして、アルミニウムは細長い円柱に加工する。海苔巻きみたいにアルミニウムの周りにゴールドを巻き付けた。見た目はきれいな円柱のゴールドができあがった。長さは小指の先ほどで何本も作成した。


 オパリュス様から頂いた火の魔石具に手をかざして『炎』と念じると、銀色の粒子が飛び散る炎が出現する。

「ルビー、高温状態で炎を安定させて」


 私の声に反応してルビーが出現すると、その場で飛び跳ねた。火の魔石具に移動してから周辺を飛び回って、銀色の粒子が降り注ぐと炎の揺らぎが安定してきた。炎が安定すると、ルビーは飛び跳ねたのちに姿を消した。


 先ほど作ったゴールドの円柱を、網をひいた底の浅い容器にいれる。ペンチのような道具で容器をつまんで、炎の上へもっていく。スキルの助けを借りて、アルミニウムが全部溶けてだす状態までまった。溶ける温度差を利用した作成方法だった。


 意図した状態になってから炎を消して、ゴールドの円柱を冷やす。作業ができる温度まで下がったのを確認して、隙間が分からないように表面を磨いた。ゴールドの円柱同士をつなげる部分はさらに加工が必要となる。


 基本部分が終わったのでコパリュスとムーンを呼んだ。

「完成したのですか」

 近くに寄ってきたムーンが聞いてきた。


「個々の部品が完成した感じね。ネックレスにするにはもう少しかかるけれど、中空の軽さを感じられるよ」

 作ったゴールドの円柱をコパリュスとムーンに渡す。コパリュスは両手で、ムーンは器用に前足を使って重さを確認していた。すぐに驚いた表情をみせる。


「木の葉と同じくらいの軽さなの。予想以上かな」

「少し触るだけで動いて重さを感じさせません」

 初めて中空ジュエリーに挑戦したけれど、コパリュスとムーンの感想がご褒美に思えた。作った甲斐があった。


「まだ部品単位だけれど、軽さに驚いてくれてうれしい。明日には完成した中空ネックレスをみせられると思う」

「楽しみなの。明日もムーちゃんと一緒に見ているの」

 コパリュスの言葉にムーンも頷いている。


 その日は明日にむけた準備と奉納用のジュエリーを作成する。中空部品単体を輪切りにして中身が空洞と分かる見本も作った。

 宝石神殿の5階でたくさんのジュエリーを奉納してから、コパリュスと一緒に料理を作る。夕食時は強化された女神の加護や中空ジュエリーなど、尽きない話題で楽しく過ごした。


 翌日の夕方には宝石神殿の地下1階で残っていた加工を実施して、中空ネックレスを完成させた。1本だけれど想定したよりも上手くできたと思う。私の作業が終わるまでコパリュスとムーンはまっていてくれた。


「これが中空ネックレスよ。表面への細かい模様はまだ加工していないけれど、感想を聞かせて欲しい」

 最初にコパリュスへ中空ネックレスを渡すと、手に取った瞬間に目を見開いた。


「すごく軽いの。見た目と重さの差が極端に大きすぎで、なにも聞いていないと驚いてジュエリーを落とすかもしれないの」

 コパリュスは両手にジュエリーを乗せて、上下に動かして重さを感じていた。


「派手さや豪華なジュエリーを着けたいけれど、重たくて無理だと思う人にはちょうどよいと思ったのよ」

 宝石調和スキルのレベルアップもかねて、空想の女性が中空ネックレスをつける姿を思い浮かべた。大きめの宝石とあわせると、さらにすてきとなりそう。


「この軽さなら、子供でも負荷にならないと思うの」

 コパリュスは感想を述べたあとに、中空ネックレスをムーンにわたす。ムーンも器用に重さを確かめていた。


「昨日の部品でも軽かったですが、ジュエリーとなってもあまり重さを感じさせません。実際につけてみたいです」

「私がつけてあげるね」

 中空ネックレスを受け取って、ムーンの首につけてあげる。銀色の毛並みに浮かび上がるゴールドはひときわ目立っていた。


「ジュエリーをつけている感覚がありません。でも大きさや光沢もあって、すてきなジュエリーです」

 ムーンはうれしそうにすり寄ってくる。ムーンの胴体をなでると喜んでくれた。


「コパにも中空ネックレスをつけてほしいの」

 コパリュスが私の腕を取って上向きに視線を向ける。かわいいコパリュスの願いを叶えてあげたい。


「もちろん、コパリュスにもジュエリーをつけるね」

 ムーンが中空ネックレスを堪能したあとに、コパリュスにも中空ネックレスをつける。コパリュスは両手で触ったあとに体を回転させて、遠心力で浮かんだ中空ネックレスを存分に楽しんでいた。


「軽いだけではなくて、デザインもすてきなの」

「コパリュスにも喜んでもらえてよかった。きめ細やかな作りは難しいけれど、上達したらコパリュスとムーンにプレゼントするね」


「期待してまっているの」

「メイア様のジュエリーはどれもすてきなので、待ち遠しいです」

 コパリュスとムーンからうれしい言葉をもらった。ジュエリーを褒めてもらえると作った苦労は報われる。


 しばらくの間はみんなで中空ネックレスを鑑賞した。夕食前に宝石神殿の5階へ移動して、ほかのジュエリーと一緒に中空ネックレスも奉納した。

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