第6話 優雅な午後

 数日前からルビーとサファイアを使ったティアラを作成している。少し変わったジュエリーで、使用するルースを宝石神殿の地下1階で作っていた。

「めずらしい形のルースが多いです」

 ちかくで私の加工を見ていたムーンだった。横にはコパリュスもいる。


「今回のティアラはデザインを決めてから、それにあうルースを作っているのよ」

「今までと異なった形状の理由が分かりました」

「地金にあわせてルースをカットするから、作業的には大変よ」


 ふつうはルース形状にあわせて地金を加工していく。でも今回は手間をかけてもデザイン優先でジュエリーを作っていた。

「珍しいジュエリーでコパはうれしいけれど、どうして普段と変えているの?」


「ルビーとサファイアは奉納のみでしか作らないから、原石がたくさんあるのよ。デザイン優先は手間以外にも余分に宝石を使う欠点があるけれど、ルビーとサファイアなら余分にあるから試してみたかった。駄目だった?」


 ルビーとサファイアは国宝級ジュエリーとなるため、高級すぎてコルンジさんも買い取ってくれない。せっかく余分に原石があるので、いろいろなジュエリー作りに挑戦したかった。


「メイアの好きに宝石やジュエリーを作って平気なの。珍しいジュエリーが奉納されるのは楽しみかな」

「これからもコパリュスが驚くような宝石やジュエリーを作るね。せっかくだから奉納前に、シンリト様とリンマルト様にみせるね」

「きっと喜びます」


 ムーンが自信満々に答えてくれた。横にいるコパリュスも頷いてくれる。

「お茶会に今日呼ばれているから、そのときにみせるね。そのあとに奉納よ」

 先日イチゴジャムを贈ったお礼みたい。シンリト様とリンマルト様の近況も知りたかったからちょうどよかった。


 5回目の鐘がなる前にコパリュスとムーンと一緒に宝石神殿の3階へむかう。部屋に入るとシンリト様とリンマルト様が出迎えてくれた。

 貴族の部屋にふさわしい内装で気品にあふれている。多くの調度品はスークパル王国から取り寄せたみたい。


 簡単な挨拶がおわって向かい合って座った。私の横にはコパリュスがいて、うしろにはムーンが待機している。

 使用人が紅茶とクッキー、私が贈ったイチゴジャムをもってきてくれた。シンリト様とリンマルト様がクッキーにイチゴジャムをつけて食べ始める。私もクッキーとイチゴジャムに手をつけた。


「お口にあうかしら」

 リンマルト様が聞いてきた。

「クッキー自体も好きな味で、イチゴジャムと一緒だと食感と味わいが異なって、2回もおいしく食べられてうれしいです」

「気に入ってくれてよかったですわ」


「食材が違うからか今までのイチゴジャムより濃厚だった。いろいろなジャムを堪能したいが、使用人に教えるのは可能か」

 シンリト様がイチゴジャムの容器を手にとって私に聞いてくる。


「ルーパさんとリテさんですよね。都合があったときに教えますね」

 シンリト様とリンマルト様の使用人は6人いるけれど、料理担当はルーパさんとリテさんの夫婦だった。クッキーも2人が作ってくれたと思う。


「それで構わない。必要なものがあればこちらで用意する」

「食材はあるから平気ですよ。またおいしい紅茶とクッキーが頂ければ満足です」

 お世辞ではなくて素直な感想だった。宝石神殿では多くの食材が採れるけれど、飲み物はそろっていない。私も料理やお菓子は作れるけれどプロには適わない。


「いつでも歓迎だ。せっかくなら花壇近くにガゼボを作って、ゆっくりと過ごすのも楽しそうだ」

 ガゼボは日本の東屋みたいで、屋根があって休憩ができる建物だった。


「花壇は宝石神殿と果樹園の間に作ったのよね。周囲にはガゼボを造れる広さがあるけれど、建てても平気?」

 コパリュスに聞いた。


「メイアの好きにして大丈夫なの」

 宝石神殿はオパリュス様の所有だけれど、自由に使えて嬉しかった。

「私も花壇を見ながら休憩したいから、ぜひガゼボを建ててほしいです。ガルナモイトさんたちにいえば手伝ってくれると思う」


「建てる方向で検討する。完成したら招待しよう」

 シンリト様もそうだけれど、リンマルト様も喜んでいた。リンマルト様が手入れしている花壇の周辺もすてきな感じになっていく。


「コパもメイアと一緒に楽しむの」

「開放感のある庭で過ごすのもよいと思います」

 コパリュスとムーンもガゼボが楽しみみたい。

 紅茶やクッキーを堪能しながら、話題が宝石へと移った。


「ティアラを作ったけれど、よければ感想をもらえるとうれしいです」

「どのようなジュエリーか楽しみだ」

 昼食前に作ったジュエリーを宝石箱から取り出してシンリト様に渡す。


「デザインを最初に決めて、それにあうようにルースをカットしたから普通なら見かけない形状の宝石ばかりです。国宝級ジュエリーで売りには出せないから、シンリト様とリンマルト様から素直な感想を聞きたかった」


 シンリト様は両手でティアラを持って見始めた。ときおり頷きながら、全体の雰囲気を確認しているみたい。見終わるとリンマルト様に渡して、視線を私にむけた。

「変形ルースだがデザインは見事だ。何処にみせても恥じない作りだ」

「デザインに凝ったから、デザインをほめてもらえてうれしいです」


 一般的なルースは楕円や円、四角形が多いけれど、今回は三日月や星に近い形など地金にあうように作った。

「メイアさんのジュエリーは、見えない部分まで繊細でいつみても見事ですわ。ルビーとサファイアの配置や色のバランスもすてきで、ずっと眺めていられます。家宝にできるジュエリーかしら」


 手間をかけたぶん、喜んでもらえてうれしかった。

「メイアのジュエリーは独特だが素晴らしい。伝統的な技術や技法を学べば、視野が広がってもっと高見を目指せるはずだ」


「ジュエリーをほめてくれてありがとう。これからも頑張ってみますね」

 1番を目指すつもりはないけれど、伝統的な技術や技法には興味がある。機会があればこの世界のジュエリー職人に学びたいとも思った。

 ジュエリーの話題で、楽しいお茶会の時間が過ぎていった。


 コパリュスとムーンと宝石神殿の5階へくると、精霊たちが出迎えてくれた。

 ティアラやその他のジュエリーを奉納台へのせる。淡い光とともにジュエリーが消えて、部屋全体に光が充満していく。久しぶりの現象に心が躍った。宝石神殿がレベル11に上がった。

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