第4話 地中のきれいな海

 朝から宝石神殿の地下2階で採掘を開始していた。近くにはコパリュスとムーンがいて、私の採掘作業を眺めている。

「メイアの動きには無駄がなくて、達人の名に恥じないの」

 コパリュスの声にツルハシをおいて、視線をコパリュスへむけた。


「すべての宝石関連スキルがレベル10だけれど、達人の実感はまだ小さいかな」

「宝石やジュエリーをみれば、メイア様が達人だと誰もが納得します」

「コパも同じ思いなの」


「私のジュエリーを褒めてくれてうれしい。新しいスキルも覚えたから、いままで以上に宝石を楽しむね」

 宝石やジュエリーでトップを目指すつもりはない。宝石神殿をレベルアップさせながら、コパリュスとムーンと一緒に楽しく暮らせればよかった。


「メイアが楽しければコパもうれしいの。今日はムーちゃんやトナタイザンたちと戦闘訓練の指導をするから、早めに昼食を食べたいかな」

「たしかガルナモイトさんたちとの模擬戦よね。実力はどの程度なの?」


 周囲は危険な魔物がいるムジェの森だから、戦闘の勘を継続させたいみたい。ガルナモイトさんたちは定期的にコパリュスたちと訓練をしている。みんな凄すぎて私には強さの判断ができない。


「コパたちには遠く及ばないけれど、パーティーとしての連携は合格かな」

「一流クラスの冒険者相手でも対等に渡り合える実力はあります」

 コパリュスとムーンが答えてくれた。ガルナモイトさんたちには農作業をお願いしているけれど、冒険者としての腕もすごいみたい。


「宝石神殿に来る旅人がトラブルを起こしても、ガルナモイトさんたちがいれば安心ね。昼食はもう少し採掘したら作るから、それまでまっていてね」

「楽しみにしているの」


 視線を採掘場所に戻してツルハシを手に取る。どのレベルの鉱物も採掘できるけれど、高レベルになるほど採掘量は少なかった。

 慣れた手つきでツルハシを振り下ろすと、種類が不明の鉱物が目にとまる。


「久しぶりに新しい鉱物がみつかったみたい。調べて見るね」

 ツルハシをおいて種類が不明の鉱物を手にとった。宝石鑑定スキルを使用すると鉱物名や強化方法がわかった。


「どのような鉱物ですか」

 ムーンがすり寄ってくる。

「アクアマリンよ。詳しくは宝石図鑑で説明するね」

 革の鞄から宝石箱を取り出す。置き場所を決めて『宝石図鑑』と念じると、手のひらに宝石図鑑が出現した。該当する頁を開いた。


 透き通った海を思わせる、あざやかな青色の宝石が描かれていた。

「深みのある水をみているようで、きらめきもすてきです」

 宝石図鑑を覗き込んでいるムーンの感想だった。


「かがやきのある色合いでレベル7の宝石よ。じつはエメラルドと同じベリルという鉱物名だから、宝石の世界は奥深く感じる」

「たしかに宝石には興味がつきません」

 ムーンにアクアマリンの内容を説明して、有意義な時間を過ごした。ムーンも満足してくれた。


「ちょうど区切りがよいから、昼食にするね」

「コパはお肉が食べたいの」

「カラアゲを作るね」

 コパリュスとムーンをつれて4階へ移動する。カラアゲやサラダを作って、みんなでおいしく食べた。


 コパリュスとムーンと北西方向へむかう。この場所には田んぼがあるけれど、土地が広いから模擬戦にも使っている。西側の道から外れて北へむかうと、ガルナモイトさんたちとトナタイザンさんがいた。


 マクアアンリさんが私たちに気がついた。

「メイアちゃんも模擬戦に参加するのかい。あたいは大歓迎だよ」

「私は見学よ。とてもじゃないけれど動きについていけない」

 運動神経は人並みだけれど、みんなの動きは一流スポーツ選手以上だった。


「今日はコパが最初に指導するの」

「わしが2番目の相手だ」

 トナタイザンさんだった。髪の毛が金色の長身であごひげもあって、体は鍛えられている元気な老人にみえる。でも実際はクンラウ山脈に住んでいる神獣ドラゴンだった。いまのところ、私とコパリュス、ムーンしか正体をしらない。


「最後はわたくしです」

「順番はそれでかまわない。あたいたちはいつも通りに4人だよ」

「今日こそは一撃を入れるにゃん」


 スズリピララさんがキャット族特有のしなやかさを生かして、遠くの木にむけて弓を構える。ふだんの農作業姿と異なって新鮮な姿にみえた。ガルナモイトさんの戦士姿も同様だった。


「僕の精霊魔法も鍛えていますから、今まで通りにはさせません」

 トアイライオさんも気合いが入っている。エルフ族は精霊魔法が得意みたい。

「あたいたちの準備は終わっている。いつでも平気だよ」

 マクアアンリさんがコパリュスに視線をむけた。


「コパはいつでも戦えるの。せっかくだからメイアが開始の合図をしてほしいの」

 私は頷いた。コパリュスは武器を持っていないけれど、強い魔物を簡単に倒せる実力がある。コパリュスとガルナモイトさんたちが移動して向かい合った。双方とも準備が整った。


「準備はできたみたいね。それでは始め」

 私の声と同時にガルナモイトさんがコパリュスにむかった。マクアアンリさんとトアイライオさんは魔法を唱えている。スズリピララさんは弓を構えたままだった。

 素人の私でもガルナモイトさんたちの連携が凄いと肌で感じられた。それ以上にコパリュスが強くて、これでも全力ではないとムーンが教えてくれる。


 続くトナタイザンさんも最後のムーンも強かった。単純に勝つだけではなくて、ガルナモイトさんたちを指導していると、コパリュスが答えてくれた。

 普段と異なった時間だけれど、コパリュスとムーンの強さを改めて実感できた。

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