第2話 あたたかな夕食

 コパリュスとムーンと一緒に宝石神殿の5階へ到着した。部屋はきれいで広さはないかわりに天井が高くて、中央には私よりも背の高いオパリュス様の像がある。

 部屋の中に入ると精霊たちが出迎えてくれる。エメは私の近くにきて回転しながら飛び回った。


「エメをイメージした宝石よ」

 革の鞄から宝石箱を取り出して、中に入っているカービングカットしたルースをエメにみせた。一緒にダイヤ、ルビー、サファのルースも手のひらにのせる。

 ダイヤたちも近くに寄ってきてルースに刻まれたデザインを覗き込む。


「精霊たちが喜んでいるの」

 コパリュスの声を裏付けるように、精霊たちが私の周りを飛び回った。精霊たちは言葉を話せないけれど、態度をみれば私にも喜んでいるとわかる。


「せっかくだからコパリュスとムーン、精霊たちをイメージした宝石は、オパリュス様の像前に並べておきたいけれど平気?」

 コパリュスに聞いた。全員をイメージしてカービングカットした宝石はそのまま残しておきたかった。


「宝石があれば像もすてきになるの。メイアの好きにして構わない」

「きれいに飾るね」

 まんなかにコパリュスとムーンの宝石を、両側に精霊たちの宝石をおく。気のせいだとは思うけれど、オパリュス様の像が微笑んだように感じた。


 革の鞄から宝石箱を取り出して、奉納する宝石とジュエリーを手にとった。

「カービングカットした宝石も奉納してくれるの?」

「コパリュスとムーン、それに精霊たち用のカービングカットは記念に取っておくつもりよ。花や動物の宝石やジュエリーを奉納するね」


 コルンジさんにみせる何点かを確保してから、のこりの宝石とジュエリーを奉納台へのせる。淡い光とともに宝石とジュエリーが消えた。

「これで次のレベルに少し近づいたの」

 うれしそうにコパリュスが話す。


「宝石神殿のレベル11が楽しみね」

「コパもレベルアップが待ち遠しいの。でも今は夕食が待ち遠しいかな」

「奉納も終わったから夕食の準備を始めるね」

 コパリュスとムーンをつれて5階をあとにした。


 宝石神殿の建物内には私たち以外に、貴族であるシストメアちゃんの祖父母と使用人が、敷地内にある宿屋にはガルナモイトさんたち元冒険者4人が住んでいる。みんな宝石神殿になれて、私たちが手伝う機会は減ってきた。


 宝石神殿の裏側にある倉庫から食材を取り出す。宝石箱にも食材はしまってあるけれど収穫量が増えてきたので、みんなで一緒に使っている倉庫を優先している。

 コパリュスとムーンと一緒に食材を運んで、宝石神殿4階の調理場に着いた。


「今日は何を作るの?」

 夕食が待ち遠しいのか、コパリュスが聞いてくる。

「米や小麦、それに野菜もガルナモイトさんのおかげで順調に育ったから、お肉と野菜を使ったヤサイイタメを作るつもりよ」


「新しい料理で楽しみなの。コパも作るのを一緒に手伝う」

「お願いするね。キャベツは大きめで、ニンジンとタマネギは細く切ってね」

 コパリュスに野菜を渡して、私も料理の準備を始める。ヤサイイタメの味付けはコルンジさんから購入した塩と胡椒と、醤油のかわりに自家製ソースをつかう。


 前は岩塩の塩を使っていたけれど、いまは塩や砂糖、胡椒などの調味料はコルンジさんから購入している。元の世界に比べると相当高いけれど、ジュエリーを売ったお金には余裕があった。


 お肉をひとくちサイズに切ってから下味をつける。

「野菜が切り終わったの」

「具材は全部そろったから炒め始めるね」


 鍋を火の魔石具に乗せてから椿油を入れる。火の魔石具に手をかざして『炎』と念じると炎が出現した。香りを出すために薬草を少し入れてからお肉を投入した。お肉に火が通ったら、ニンジン、タマネギ、キャベツの順に鍋へ入れた。


「お肉や野菜が弾ける美味しそうな音です。匂いも香ばしくなっています」

 離れた場所にいたムーンだった。

「私も出来上がりが楽しみよ」


 ソースを入れて塩で味を調整する。水分もなくなってヤサイイタメが完成した。お皿にヤサイイタメを盛るとコパリュスがテーブルまで運んでくれる。ご飯は昨日の残りだけれど、宝石箱に入れてあったので暖かいままだった。

 すべての料理が完成してテーブルに並べられた。


「コパは早く食べたいの」

「お肉と野菜を使った簡単な料理だけれど、美味しいから冷めないうちにどうぞ」

 私の言葉を待っていたのか、コパリュスはヤサイイタメに手を出した。小さな口にお肉と野菜を何度も運ぶ。ムーンもお皿のヤサイイタメを器用に食べ始める。


「お肉と野菜がソースにからみあって、食欲をそそる匂いはコパを満足させるの」

「歯ごたえがあって、ご飯ともあう料理です」

 言葉だけではなくて、コパリュスもムーンも満足そうな笑顔だった。私も暖かいヤサイイタメを食べ始める。モヤシがないのは残念だけれど、充分に美味しくて満足のいく味だった。


「喜んでくれて作った甲斐があった。今度はデザートでも作ってみたい」

「コパは甘いデザートが食べたいの」

「食材も増えてきたから考えてみるね」

 コパリュスとムーンと一緒に、楽しい食事のひとときを過ごした。


 あとは寝るだけの時間帯となってコパリュスとムーンと寝室にいる。ベッドの上に座りながらオパリュス様からもらった宝石図鑑を開いた。宝石図鑑は表紙に色とりどりの宝石が描かれている分厚い本だった。


「メイア様が採掘した宝石が載っていますが、まだまだ増えるのでしょうか」

 横にいるムーンが質問してきた。

「空白のページがたくさんあるから、新しい鉱物や宝石をみせられるよ」

「それは楽しみです」


「期待して待っていてね」

 ムーンが頭をすり寄せてくる。体をなでるとフサフサとモフモフの感触が手に伝わってきた。いつまでもなでていられる心地よさだった。


「メイアならきっと、すべての宝石を見つけられると思うかな」

「元の世界で実物を直接見ていない宝石はたくさんあるから、これからの採掘と鑑定が楽しみね。すてきな宝石と出会えそう」


 横に座っているコパリュスの頭をなでると笑みを浮かべてくれた。コパリュスの愛らしい姿は私をいやしてくれる。

 コパリュスとムーンと一緒に過ごす時間は私の祝福でもあった。

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