宝石神殿レベル10

第1話 宝石と私と仲間

 昼食後に宝石神殿の地下1階で、新しいジュエリー加工に挑戦している。地下1階はジュエリー工房という言葉が似合っていて、地下2階には洞窟のように岩で囲まれている採掘場があった。


「今日はオパールをつかって、新しい加工を試してみるつもりよ」

「コパはメイアがつくるジュエリーはいつも楽しみなの」

 向かいに座っているコパリュスが笑顔を見せている。コパリュスは宝石の女神オパリュス様の分身で、赤髪のツインテールが似合っている少女だった。小学生低学年くらいの見た目で甘えん坊だけれど、魔物を簡単に倒せる強さがあった。


「メイア様、新しいジュエリーはどのような感じでしょうか」

 若い幻獣フェンリルのムーンが興味津々な雰囲気で、つやのある銀色の毛並みを私にすりつけてくる。フサフサとモフモフの感触が私をいやしてくれた。私の宝石大好きが影響したのか、ムーンは宝石やジュエリーに興味をもっている。


「コパリュスもムーンも新しいジュエリーに興味があって私も嬉しい。これから加工を始めるから、出来上がったら説明するね」

「メイアはまだ若いのに宝石関連スキルがすべてレベル10だから、完成するジュエリーが待ち遠しいの」


 コパリュスの言うとおりに20代半ばの年齢で、見た目も童顔だから年齢よりも若いと思われやすかった。黒髪をポーニーテールにしているけれど、髪型を変えると見た目の印象も変わるかもしれない。


「わたくしもメイア様の実力なら、すばらしいジュエリーができると思います」

「心を込めて作るね」

 コパリュスとムーンに笑顔を見せてから、手元のオパールへ視線を移した。


 宝石になる前の石単体である平らなルース表面へ、ペンに似た道具を使って溝をつけていく。宝石加工につかう宝石道具はオパリュス様からの贈りものだった。宝石加工スキルの助けをかりて、細い溝が思い通りにできあがる。


 ジュエリー用のルースと異なって、外周は波打っている変形形状で弓なりの棒みたいなものが1本あった。この形状を生かしながら溝をつけていく。内側の溝がすべて完了すると、さいごに外周の形を整えた。


 オパールのルースと道具をテーブルにおいて視線をあげた。

「完成したの?」

 コパリュスだった。

「思い通りに仕上がったよ。四つ葉のクローバーという植物で、元の世界では幸運をもたらすデザインね」


「幻想的に色が変化してすてきな宝石なの。奉納してくれるの?」

「そのつもりよ。もっとたくさん作ってから奉納するね」

 コパリュスが目を細めて喜んでくれた。これからも宝石神殿がレベルアップできるように宝石やジュエリーを奉納したい。


「今までと異なって宝石のみで完結しています。新しい加工とはどのようなものなのでしょうか」

 ムーンが質問してきた。


「カービングカットという手法よ。宝石自体に彫刻する感じね。ジュエリーにも使えるけれど宝石単体でも鑑賞できるから、宝石を楽しむ範囲が広がると思うのよ」

「すてきな発想だと思います。四つ葉のクローバー以外にも作るのでしょうか」


「ルース形状をみてデザインは考えるつもり。つぎは円形ルースを使ってみるね」

 近くにあった円形の大きいオパールのルースを手にとった。このままでも色の変化が楽しめるルースだけれど、カービングカットすれば異なる表情を見せるはず。


「コパは宝石神殿マークのデザインがみてみたいの」

 甘えた声でコパリュスがお願いしてきた。ちょうど円形で宝石神殿マークは作りやすい。コパリュスの喜ぶ姿もみたいから断る理由はなかった。


「このルースを使って宝石神殿マークを作るね」

 私が作ったジュエリーと判断できるように宝石神殿マークを刻印している。神殿と宝石を使用した、お気に入りのデザインでもあった。


 見慣れたデザインだから迷いなく手が動いた。あまり時間をかけずに荒削りが終わって、つづいて道具の先端を変更して細かい削りを始める。みるみるうちに宝石神殿マークがルースの中に浮かび上がってきた。


 完成したルースをコパリュスに渡す。

「希望の宝石神殿マークがコパの予想以上にすてきなの」

 コパリュスはルースを回転させながら、笑みを浮かべている。コパリュスの満足している表情が私にとってのご褒美でもあった。


「喜んでくれて作った甲斐があった。つぎはムーンに似合うデザインを作るね」

「どのようなデザインになるか楽しみです」

 円形で黄色が多くみえるオパールのルースを手にとった。イメージを頭の中で思い浮かべる。作りたいデザインが決まった。


 中央部分は力強く削り進めて、左右は細かく削りながらフワフワ感を表現する。背景部分は高低差をつけながら立体感をあらわす。元の世界、とくに日本ではなじみ深いデザインだった。完成したオパールのルースをムーンにみせた。


「きめ細やかでずっと眺めていられるデザインです。2匹のかわいいウサギがいますが、何をしているのでしょうか」

「ウサギがもちつきをしているデザインね。元の世界で、ムーンストーンの名前に由来する月の表面が、ウサギのもちつきにみえると言われているのよ」


 もちつきも簡単に説明した。コパリュスがもちを食べたいと言ったので、もち米がないのか商人のコルンジさんに確認するつもり。

 ムーンはデザインを気に入ったらしく、尻尾を振りながら喜んでいる。銀色の毛並みを撫でると、暖かいモフモフとフワフワが私をいやしてくれた。


「メイアの宝石は新鮮で楽しいの。ほかのデザインも待ち遠しいかな」

「せっかくだから、精霊をイメージしたデザインの宝石も作ってみるね」

 コパリュスとムーン用にカービングカットで宝石を作ったから、ダイヤ、エメ、ルビー、サファの精霊たち用の宝石も作ってみたくなった。


 楕円形状のルースを4つ手にとった。それぞれのルースは黄色、緑色、赤色、水色が単色であざやかに輝いている。ダイヤには黄色など精霊たちの色に近いオパールのルースを使って、カービングカットで精霊たちの姿を表現する。

 精霊たち用の宝石がおわると、残っているオパールのルースをつかって花や動物を作った。夕方前には奉納する宝石やジュエリーがすべてそろった。


 革の鞄から宝石箱を取り出して、完成した宝石やジュエリーをしまう。宝石箱は赤色の四角い箱で、表面にある模様が高級感をかもしだしている。オパリュス様からもらった収納アイテムで、容量無限で時間停止もあるすぐれものだった。

 コパリュスとムーンをつれて部屋をあとにした。

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