第50話 幻のジュエリー
宝石関連スキルが全部レベル10になったけれど、加工していない鉱物がある。ダイヤモンドとアダマンタイトだった。この2つを使ったジュエリーが作れれば、ひとつの区切りができると思った。
就寝前の時間、宝石神殿の4階でコパリュスとムーンと一緒にいた。
「白魔石と真紅の炎がほしいけれど、入手方法を知っている?」
「真紅の炎は分からないの。白魔石はコパが取ってくることも可能なの。ムジェの森なら魔物が見つかる可能性はあるかな」
「商人に聞いてはどうでしょうか」
たしかにすべてを自分たちでそろえる必要はない。すべての鉱物が宝石神殿で採掘できるから、自分たちで用意する癖がついていたみたい。
「コルンジさんなら、情報を持っているかも知れない。コルンジさんから白魔石の入手ができなければ、コパリュスにお願いするね」
「いつでも声をかけてほしいの」
コパリュスが笑顔で答えてくれた。可愛い顔をしているけれど、強さはよく知っている。その日は宝石図鑑を眺めながら、夜遅くまで会話を楽しんだ。
コルンジさんが宝石神殿に来てくれた。農作物と果実の新しい種、ニワトリとヤギが増えた。私が作ったジュエリーは好評みたいで、コルンジさんも喜んでいた。
白魔石と真紅の炎を聞いた。白魔石はめったに市場には出ないので、確約はむずかしいみたい。真紅の炎については知らなかった。
結局、白魔石はコパリュスにお願いした。今はコパリュスを東門へ送りにきた。朝の早い時間で、ムーンも一緒についてきてくれた。
「気をつけてね。ジュエリー作りに期限はないから、無理に見つけなくても平気」
「ムジェの森をひとまわりするだけなの。ムーちゃん、メイアをお願い」
「わたくしに任せてください」
コパリュスが門のほうに視線をむけると、門がひとりでに開いて人影が見えた。トナタイザンさんだった。
「散歩のついでに寄ったが、何処かに行くのか」
「コパが白魔石をとってくるの」
「宝石加工レベルが10になったから、白魔石と真紅の炎を探しているのよ」
「幻のジュエリーが作れるのか。それは楽しみだ」
「でも真紅の炎がないから、まだジュエリーは作れない」
「わしの住処近くに真紅の炎があったはずだ。必要なら案内する」
思いがけない内容で身近にあるとは思わなかった。断る理由はない。
「つれて行ってくれると助かる。白魔石が手に入ったら案内してくれる?」
「いつでもかまわない。毎日散歩でよるから声をかけてくれ」
急な展開になったけれど、うれしい誤算だった。その日のうちにコパリュスが白魔石をとってきた。私は可能な限り、ダイヤモンドとアダマンタイトを採掘した。
翌日、3回目の鐘がなったあとに、トナタイザンさんが姿をみせた。
「白魔石が手に入ったから、真紅の炎を取りに行きたい。今日でも平気?」
「今からでも大丈夫だ。わしが一緒だから魔物の心配も不要だ」
「すぐに準備するね。コパリュスとムーンも一緒で平気よね」
「わしは問題ない」
さっそく準備を始めた。必要な品物が宝石箱に入っているのを確認して、シンリト様とガルナモイトさんに出かけると伝えた。
トナタイザンさんにつれられてクンラウ山脈へむかった。本来なら凶暴な魔物や神獣ドラゴンの恐怖を感じながら、ムジェの森を移動するはず。でもコパリュスやムーン、トナタイザンさんがいるおかげで安心して歩ける。
クンラウ山脈への山登りは大変だった。歩きにくい大きな岩が行く手を阻み、トナタイザンさんの手助けがなければ先へ進めなかった。
「岩だらけでこのあたりは火山地帯なの?」
休憩中のコパリュスに聞いた。
「昔は小さい噴火が何度かあったの。何百年後にはまた噴火があるかな」
「真紅の炎は最古の噴火口にある。ここから近いから、もう少しの辛抱だ」
トナタイザンさんも補足してくれた。登山の終わりも見えてきた。
「真紅の炎は自然の中にあるのね。私の疲れはもう平気よ」
「このまま最古の噴火口まで移動する」
トナタイザンさんを先頭に歩き出した。コパリュスとムーンは疲れている様子はなくて、さすがだと思った。足が動かなくなる前に目的の場所へ到着した。すり鉢状の底に近づくと、地面からは青白い火柱が何本か姿をみせていた。
「地面から噴出している青白い炎が真紅の炎?」
トナタイザンさんへ視線をむけた。
「その通りだ。非常に高い温度だから注意してくれ」
「気をつけて使う。真紅の炎を持ち帰るのは難しそうね」
「不可能ではないと思うが、通常ではむりだ」
「この場で加工を始める。真紅の炎は初めてだけれど経験とスキルを信じる」
「メイアならきっと作れるの」
「気持ちがこもった、メイア様のジュエリーを楽しみにしています」
準備に取りかかった。目標は地金の加工と強化、宝石の強化とジュエリー加工。次回いつ来られるか分からないので、手持ちの材料をすべて使った。見た目の異なる炎だけれど、経験とスキルで問題なく加工が進められた。
すべての加工が終わって顔をあげると、周囲は暗くなっていた。
「予定していたジュエリーはすべて作成できた。時間はかかったけれど満足のいくジュエリーよ。下山したいけれど、この暗さだと難しいよね」
「わしは平気だがメイアは無理だろう。近くに安全な洞窟があるから、そこで明るくなるまで待っていれば平気だ」
トナタイザンさんに案内されて移動した。私の背丈よりも2倍くらいある大きさの洞窟で、自然にできた感じだった。夜が明けるまで休憩することにした。
「トナタイザンさん、案内をありがとう。これはお礼のジュエリーよ」
透明感とかがやきがあるダイヤモンドと、青色に虹色のきらめきが浮かび上がるアダマンタイトのブレスレットだった。
「わしがもらっても平気なのか」
「そのために作ったのよ。10個のダイヤモンドを使った大作よ」
「ありがたく頂戴する」
トナタイザンさんが腕にブレスレットを通した。
「とても似合っている。作った甲斐があった」
「大事に使わせてもらう。そうだ、約束を思い出した。わしの加護を与えよう」
トナタイザンさんが私にむけて手をかざした。暖かい力強さが私を包み込んだ。
翌日、無事に宝石神殿へ戻ってきた。宝石神殿の5階で、石のテーブルに手をのせた。特殊スキル欄に、神獣ドラゴンの加護が追加されていた。
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