第47話 社交界デビュー
今日の夕方にシストメアちゃんのパーティーが開催される。残り時間はわずかで屋敷内は慌ただしかった。さすがに私たちは参加できない。昨日の夜に、衣装とジェリーの合わせを見せてもらった。すてきだった。
王都ドリペットの見学も考えたけれど、あとでシストメアちゃんが案内してくれるので、私たちは屋敷の部屋で過ごしていた。
「手持ちのジュエリーを眺めながら、部屋でゆっくり過ごすね。コパリュスとムーンはそれで平気?」
「コパはメイアと過ごせれば大丈夫なの」
「ジュエリーを見るだけでも充分に楽しめます」
ソファーにみんなで座った。『宝石箱』と念じて、宝石箱をテーブルにおいた。各宝石は観賞できるようにジュエリーで残してある。宝石箱から奉納していないジュエリーを取り出した。
「宝石加工スキルのレベル順に並べると、最初の頃は下手だったのがよくわかる」
「誰でも最初は初心者なの。メイアのジュエリーは心がこもってすてきなの」
「徐々に完成度が高くて繊細になっています。メイア様の努力が実っています」
「喜んでくれてうれしい。ミスリルは初めて見る地金で新鮮だった。ダイヤモンドが幻の宝石にも驚いた。真紅の炎を探して、レベル10の鉱物を加工したい」
「コパとムーちゃんが、一緒に探してあげる」
ジュエリーを見ながら、過去の出来事やこれからを語った。目標は宝石神殿のレベル10だけれど、順調に進めば近いうちに達成できる。レベル10になったら、次の目標を聞いてみたい。この世界で旅もしてみたい。
扉を叩く音が聞こえた。ソファーから立ち上がって扉にむかった。扉を開けると険しい表情のガットーネさんがいた。
「メイアさん、力を貸してください」
「何かあったの?」
「料理用で使っている火の魔石具が暴走しました。パーティー用に作った料理の一部が台無しです。何でもよいので食材を分けてくれませんか」
すがるような目で私を見ている。きっと大変な事態になっているはず。
「食材ならたくさんあるよ。キッチンへ連れて行って」
ガットーネさんに続いて移動を開始した。コパリュスとムーンも一緒だった。
キッチンに入ると片付けの最中だった。料理長が指示を出している。
「メイアさんを連れてきました」
料理長が振り向いた。
「見ての通りです。これではお嬢様の社交界デビューが台無しです。昨日使った食材の残りはありますか」
シストメアちゃんの晴れ舞台を台無しにしたくない。私も同じ思いだった。
「食材はたくさんあるよ。お肉から野菜、パンや米までそろっている。もちろんすべて新鮮。好きなだけ使って」
出し惜しみはしなかった。宝石箱を出現させて、空いているテーブルの上に食材をおいた。料理長が止めるまで食材を取り出した。
「これだけあれば充分です。あとは料理を間に合わせるのみです」
「時間内に作れそう?」
「以前使っていた火の魔石具を使う予定ですが、正直厳しいです。ですが言い訳をしている時間はありません。料理スキルをすべて活用して作ります」
料理長の意気込みは伝わってきた。すでに周囲の料理人へ指示を出している。素人の私でも時間的に厳しいのは分かった。私に手伝える内容がないか考えた。元の世界に知識を頭の中に呼び出して、パーティー料理の種類や方法を思い浮かべた。
「ガットーネさん、パーティー内で実演料理は可能?」
「言っている意味が分かりません。どのような内容ですか?」
「パーティー会場内で実際に料理を作って、お客に振る舞う。私が作る料理は珍しいはず。演出として使えて時間も稼げる。お客も喜ぶはずよ」
「私では判断できません。一緒に来てください」
新たに作る料理は料理長に任せてキッチンをあとにした。運よく、シンリト様とリンマルト様に話しができた。ガットーネさんが状況を説明してくれた。
「状況は分かった。実演料理の準備を始めてくれ。トクツァインには私から話しておく。シストメアには心配させたくない。何事もなかったように行動してくれ」
「シストメアちゃんに喜んでもらえる実演料理をがんばる」
了解が得られたので再びキッチンへ戻った。手持ちの道具と食材を考えた。火の魔石具は宝石道具で代用できる。もっていない鍋や皿などを借りた。実演料理では揚げるだけにしたい。コパリュスと一緒に食材を切り始めた。
料理の準備がおわると、使用人の服に着替えさせられた。すべての準備が整うころに、シンリト様とリンマルト様が姿をみせた。
「私たちで貴族たちに対応する。実演料理に集中して大丈夫だ」
「そうしてもらえると助かる。料理はテンプラ、カラアゲ、フライドポテトよ」
パーティー会場に入った。コパリュスとムーンは部屋に待機で、ガットーネさんに手伝ってもらう。黙々と準備をはじめて鍋に椿油を入れる。火の魔石具で温度を上げて食材の準備も完了した。
シンリト様とリンマルト様が、知り合いと思われる貴族に声をかけていた。数名に貴族が興味深そうに私の行動をみている。揚げたてのテンプラを渡すと、最初は食べるのをためらっていた。シンリト様の言葉に従って、テンプラを口に入れた。
自ら食べ出すとほかの貴族もあとに続いた。おいしそうな笑顔と賛美の言葉が成功を物語っていた。料理長たちの料理も追加されて、パーティーは無事に行われた。
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