第46話 料理人メイア

 王都ドリペットの城壁は見上げるほどの高さがあった。シンリト様とリンマルト様が私たちの身元を保証してくれて、無事に王都内へ入ることができた。


 門番によると、幻獣や使い魔は所有者が分かるプレートを身につければ、王都内で連れ歩けるみたい。ムーンの首にあるジュエリーへプレートをつけた。

「これでいつでもムーンと一緒にいられるね」

「メイア様と出かけるのが楽しみです」


「シストメアちゃんのパーティーが終わったら、みんなで王都を見学したい」

 窓から王都の景色を眺めた。今までの街に比べて家も大きくて道幅も広かった。何よりも多くの種族であふれていて、活気と賑やかさもあった。


 大きな屋敷の前で馬車が止まった。

 シンリト様とリンマルト様のあとに続いて、屋敷の中へ入った。

「お帰りなさいませ。シンリト様、リンマルト様」


 両脇に並んだ大勢の使用人たちが出迎えてくれた。中央にはシストメアちゃんと家族と思われる3人がいた。

「父上、母上、宝石神殿は如何でしたか」

 シストメアちゃんの横にいる男性だった。


「素晴らしい場所だ」

「体調もよくなりましたわ」

「それはよかったです。今日は旅の疲れでも取ってください」

 シンリト様とリンマルト様は、使用人と一緒に奥の部屋へ消えていった。


「メイア、よく来てくれました」

 シストメアちゃんが声をかけてきた。ここは宝石神殿ではなくて、私はただの客に過ぎない。貴族の礼儀作法を知らなかったので、なるべくていねいに挨拶した。


「私がメイアです。シストメアちゃんのジュエリーを作りました。となりの少女がコパリュス、幻獣フェンリルがムーンです」

「私がラコール伯トクツァインだ。遠くからよく来てくれた。礼儀作法は苦手と聞いている。公の場以外なら、普段通りに話してかまわない」

「助かります」


 滞在期間内で公の場に行く予定はなかった。普段通りに話せるのはうれしい。ほかの2人はトクツァイン様の妻でフェースン様、シストメアちゃんの兄でパートズさんだった。年齢は元の世界でいえば高校生くらいみたい。


「どのようなジュエリーか早くみたいです」

「すてきなジュエリーよ。きっと気に入ると思う」

「うれしい。あちらの部屋で見せて」

 シストメアちゃんが私の腕を取ってきた。そのまま一緒に移動を始めた。


 案内された部屋では、向かい側にシストメアちゃんとトクツァイン様、フェースン様が座った。私の横にはコパリュスが座って、うしろにムーンがいる。

 宝石箱からジュエリーが入っている箱を取り出した。


「主役はオレンジ色のトパーズで、脇石はカラーレスのトパーズよ。地金はオリハルコンで、宝石も地金も強化してある。ジュエリーの種類は希望通りに、ブレスレットとリングとイヤリング、ネックレスのセットよ」

 箱の蓋をあけて、3人の前へ移動させた。


 最初にシストメアちゃんが手にとってジュエリーを眺めた。次にトクツァイン様で最後にフェースン様が確認していた。2人はデザイン以外に、作りまで含めて評価しているみたいだった。


「この完成度ならシストメアのデビューに使って問題ない。いや想像以上にすばらしい作りだ。早くドレスと合わせたい」

「メイアのジュエリーはいつもすてきです。私もつけるのが楽しみです」

「喜んでくれてうれしい。作った甲斐があった」

 シストメアちゃんの笑顔が何よりのご褒美だった。


「すばらしいジュエリーをご苦労だった。今日は移動で疲れただろう。夕食の時間までゆっくり休んでくれ」

 トクツァイン様から、ねぎらいの言葉をもらえた。


「メイアの手料理がまた食べたいです。あとで作ってくれますか」

「希望があれば今日でも作るよ」

「お父様、メイアの料理はおいしいです。夕食に作ってもらって平気ですか」


「料理の準備中と思うが、少しなら平気なはずだ。料理長には話しを通しておく」

「お父様、ありがとう。メイア、私が部屋に案内します」

 ジュエリーをトクツァイン様に渡して、シストメアちゃんと部屋を出た。


 最初に寝泊まりする部屋へ案内された。数人で泊まるくらいの広さがあって、荷物はすでに置いてあった。屋敷内の説明を受けてからキッチンへむかった。

 トクツァイン様から話しは通っているみたい。恰幅のよい男性が待っていた。シストメアちゃんが料理長だと教えてくれた。


「シストメアちゃんは何の料理が食べたい?」

「テンプラが食べたいです」

「色々な食材で作るから楽しみにしてね。食材と椿油はあるから、鍋や容器と火の魔石具があれば借りたい」

 料理長へ視線をむけた。


「すぐに用意します。ただ火の魔石具は高性能ですが、火加減が難しいです。取り扱いには注意してください」

 料理長の話では今回のパーティーにむけて、料理道具を新しくしたみたい。性能が向上した分、微調整がなれるまで大変との話しだった。


 火加減が難しかったけれど、無事にテンプラを作り終えた。シストメアちゃんを含む家族全員へふるまった。おいしそうに食べてくれてうれしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る