宝石神殿レベル9

第44話 最後の精霊

 奉納台の上空に新たな精霊が浮かんでいた。妖艶な女性の姿で、順番からすると水の精霊と思う。4回目なので冷静に判断できた。


「水の精霊よね。今回も私が名前を決めてかまわない?」

「すてきな名前をつけて。もちろん水の精霊なの」

 世界4大宝石の残りはサファイアだった。たまたまかも知れないけれど、色合いも水の精霊にあっている。


「名前はサファよ。サファイアのような青さが魅力的よね」

 女性の精霊が右手を使って敬礼してくれた。水の精霊の意思表示だった。

「サファも名前をつけられて喜んでいるの」

「メイア様のジュエリー奉納で4大精霊がそろいました。さすがです」


 コパリュスもムーンも名前に満足しているみたい。近くで浮遊しているダイヤ、エメ、ルビーも喜んでくれた。エメは私の周囲を飛び回っている。


「宝石神殿の機能も向上しているよね」

「コパが確認するの」

 コパリュスが近くにある石のテーブルへ手をのせると、画面に宝石神殿の情報が表示された。サファ関連の機能が追加されていた。


「予想通りに水の魔石具関連ね。魔力の補充が不要になるのはうれしい」

 基本的にはルビーと同じ効果だった。火と水の魔石具が自由に使えるから、使用人たちが喜んでくれる。

「敷地内の水はもともと安全だけれど、おいしい水になっているの。農作物にもよい影響を与えるはずなの」


「おいしい野菜や果物が採れればうれしい。水は使う場面が多いから、いつでもサファを呼び出せる。ルビーと一緒に呼べば、お湯のお風呂が楽になりそう」

「可能と思うの」

 コパリュスの言葉を肯定するように、ルビーとサファが態度で示してくれた。

 4大精霊がそろって、宝石神殿のレベルも目標まであとひとつになった。


 シストメアちゃんのジュエリーも順調に進んでいる。急ぎの用事はないから、宝石神殿の5階で精霊たちを眺めた。となりにいるムーンの毛並みはフサフサとモフモフで暖かい。反対側ではコパリュスのかわいらしい笑顔が私をいやしてくれた。


 王都ドリペットへ行くまで30日をきった。宝石神殿の地下1階でジュエリーを作っている。宝石はすべてそろって、地金で作ったパーツも重要部分が完成した。道具をおいて少し休憩した。


「宝石とパーツがいっぱいあるの。すべて使うの?」

 今日はコパリュスと一緒に過ごしていた。

「予備があるけれど、ほとんどを使うつもり」


 ルースの大きさに合わせてパーツも加工している。ルースが破損して代わりのルースを使うと、パーツの修正が必要になる。できるだけ最初に指定したルースを使いたい。スキルのおかげで今まで破損はなかったけれど、念には念をいれた。


「完成するジュエリーが楽しみなの」

「シストメアちゃんに喜んでもらえるとうれしい。宝石神殿への奉納はレベル9の宝石を使っているけれど、早くレベル10も奉納したい」


「慌てなくても平気なの。レベル9の宝石でも充分。メイアは頑張っているから、レベルが上がっていてもおかしくないの」

「昼食を食べたあとに確認してみるね。宝石鑑定も上がっているとうれしい」


 休憩したあとは気分をかえて、採掘と鑑定に重点をおいた。4回目の鐘が聞こえると作業を終了した。コパリュスと一緒に宝石神殿の4階へ行くと、ムーンが出迎えてくれた。料理を作っておいしく頂いた。


 食事が終わって宝石神殿の5階へ来ると、精霊たちが姿を見せてくれた。石のテーブルに手をのせた。所持している一般スキルと特殊スキルが表示された。


「メイア様、宝石加工スキルが最大レベルです。すべての加工が可能です」

「宝石鑑定もレベル9になっているの。メイアはコパの予想以上にすごいの」

「コパリュスもムーンもありがとう。きっと私1人では無理だったと思う。素直にうれしい。これで未鑑定の鉱物を鑑定できる」


「鑑定してみるの?」

「場所を取らないから今から試したい」

 『宝石箱』と念じてから、出現した宝石箱から未鑑定の鉱物と宝石図鑑を取り出した。思った以上に未鑑定の鉱物があった。


 宝石鑑定スキルを実行すると、いくつかの鉱物が鑑定できた。新たに加わった鉱物はダイヤモンドとアダマンタイトだった。

「どのような特徴がある宝石でしょうか」

 ムーンが聞いてきた。宝石図鑑を手にとって、該当する頁を開いた。


「ダイヤモンドは、透明な中にみえる神秘的なかがやきが特徴ね。通常は無色だけれど、色がついているカラーダイヤモンドは貴重みたい」

「宝石図鑑の絵もきれいですが、実物を早くみたいです」

「私も加工してみたい。カラーダイヤモンドもあったらうれしい」


「宝石神殿で採掘可能なの。でもカラーダイヤモンドは非常に少ないかな」

 たしか宝石神殿の地下2階なら、すべての鉱物が採掘可能と聞いた。宝石図鑑に書かれている内容で新たな単語が目に入った。


「宝石の強化に真紅の炎が必要みたい。宝石神殿にはない炎よね?」

「この敷地内には存在しないの。でも世界のどこかにはあるかな」

「探す楽しみができた。アダマンタイトは元の世界になかったから確認したい」

 アダマンタイトの頁を開いた。特徴や強化方法がのっていた。


「青色が主体の地金みたいです」

 ムーンが頁を覗き込んでいた。

「表面は虹色にきらめくのね。きっとすてきな、きらめきよね。強化には白魔石と真紅の炎が必要みたい。白魔石は魔物からよね?」


「強い魔物をたばねているボスが落とすかな。でもめったにボスはいないの」

「簡単には入手できないのね。急ぎではないから、シストメアちゃんのジュエリーが完成したあとに考えたい」


 鉱物や宝石図鑑をしまって、宝石加工をするために地下1階へむかった。ルースや地金状態になったダイヤモンドとアダマンタイトはきれいだった。コパリュスとムーンと一緒にしばらく眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る