第43話 女神様

 シストメアちゃん用のジュエリーと奉納用のジュエリーを、宝石神殿の地下1階で作っていた。昼食が近くなったのでコパリュスと一緒に移動を開始した。


 ムーンはガルナモイトさんたちに呼ばれていた。稽古の相手に誘われたみたい。コパリュスやトナタイザンさんとも稽古をしていると聞いた。元冒険者だから体を動かすのが好きみたい。


「今日の昼食は何なの?」

 歩きながらコパリュスが聞いてきた。

「まだ決めていないけれど、コパリュスは何が食べたい?」

「お米を使った料理かな」

「考えてみるね」


 宝石神殿の3階を移動中にシストメアちゃんの姿がみえた。私たちに気づいたみたい。こちらに向かって歩いてきた。神妙な面持ちにみえた。

「メイア、少し時間はありますか? コパリュスちゃんも一緒で」


「大丈夫よ」

「コパも平気なの」

「助かります。部屋に案内します」

 シストメアちゃんが泊まっている部屋へ着いて椅子に座った。向かい側に腰を下ろしたシストメアちゃんは、私の横に座ったコパリュスを見つめている。


「どのような用事なの?」

 質問をしたけれどシストメアちゃんから返事がない。普段と態度が異なってコパリュスに関心を向けている。

 もう一度聞こうとしたときに、シストメアちゃんが口を開いた。


「宝石神殿から王都ドリペットに戻って、宝石鑑定スキルを習得しました。毎日欠かさずにオパリュス様にお祈りをしています。今ではスキルも一人前レベルです」

「シストメアちゃんも宝石が好きになったのね」


「最初はメイアの影響でしたが、今は宝石が大好きです。加護はありませんが、オパリュス様の暖かさを感じられるくらいです。まるでコパリュスちゃんと会っているような感じでした」


 シストメアちゃんが何を語りたいのか分かった。でも答えは決まっている。

「気のせいよ。宝石神殿内はオパリュス様の影響が大きいからね」

「でもメイアやほかの人からは、オパリュス様の気配は感じません。最初は私も偶然と思いました。宝石鑑定スキルの習得と毎日のお祈りで、気のせいから確信に変わりました。宝石神殿に女神様がいてもおかしくありません」


 信仰心が高いから気配を感じ取れた。コパリュスたちが魔物の気配を感じ取れるのと、ある意味同じなのかも知れない。シストメアちゃんになら本当のことを話しても平気と思う。でもこの世界における女神の扱いを私は知らない。


 視線をコパリュスにむけて声をかけた。

「やっぱり気のせいよね」

 すぐに反応してくれると思ったけれど、コパリュスの口が重かった。部屋全体に静けさが訪れてから、コパリュスが口を開いた。


「数少ない熱烈な信者なの」

 シストメアちゃんを指しているのは分かった。明確な回答ではないけれど、すべてを隠さなくても平気に感じた。あとは私の決断かもしれない。

 コパリュスの言葉を聞いてシストメアちゃんの顔つきがかわった。視線は私にむいていて私の発言を待っている。私の気持ちも決まった。


「シストメアちゃん、今までだましていてごめんね。コパリュスは女神オパリュス様の分身よ。宝石神殿を守るために姿を見せている」

「確信していましたが驚きです。生きているうちに女神様と会えて光栄です」

 シストメアちゃんは椅子から立ち上がって、お祈りの姿をみせた。


「今まで通りでかまわないの。コパはコパなの」

「女神様の仰せのままにします。メイアは女神様の眷属ですか」

「少し特殊なヒューマン族よ。宝石神殿の管理をお願いされた感じね。大変になるから、まだ誰にも話さないで。私も今までと同じに接してくれるとうれしい」


「両親にも祖父母にも話しません」

「そうしてもらえると助かる。ジュエリーは期待して待っていてね」

 シストメアちゃんが泊まっている部屋をあとにした。4階へ行くとムーンが出迎えてくれた。少し遅くなった昼食の準備を始めた。


 シストメアちゃんが王都ドリペットへ戻ってから何日か経過した。ジュエリー作りは順調に進んだ。ルースは高品質の中で、さらに厳選した。ルースを揃えるために採掘をおこなうと、鑑定できない鉱物が増えてきた。


「メイア様、宝石採掘のレベルが上がっている可能性があります」

「今日の夕方にジュエリーを奉納したら、私のスキルも確認するね」

 レベル9の国宝級ジュエリーは、ほとんどを奉納していた。レベル9でジュエリーを作ると、レベル8以下のジュエリー作りが簡単に感じた。


 夕方になって、コパリュスとムーンをつれて宝石神殿の5階へきた。ジュエリーの奉納がおわって、石のテーブルに手をのせた。

「メイア様、さすがです。宝石採掘スキルが最大レベルになっています」

「すべての鉱物をメイアは採掘できるの」

 宝石採掘がレベル10になっていた。残りのスキルは変わらずに宝石鑑定がレベル8、宝石加工がレベル9だった。


「幻のジュエリーに一歩近づいたみたい。これもコパリュスとムーンが手伝ってくれたおかげよ。残りのスキルもがんばって上げる」

「どのようなジュエリーになるか楽しみなの」

 その日は豪華な夕食を作った。コパリュスとムーンと一緒においしく食べた。


 翌日の夕方、宝石神殿の5階で奉納台にジュエリーを奉納した。淡い光とともにジュエリーが消えて、部屋全体に光が充満した。宝石神殿のレベルが上がった。

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