第38話 長老とジュエリー

 エルフの里にある家の中で、コパリュスとムーンへ聞いた。

「どのようなジュエリーがよいと思う?」


「メイアの好きでかまわないの。コパはメイアなら平気だと思っている」

「今までのジュエリーはどれもすてきです。メイア様の気持ちがこもっていれば、どのようなジュエリーでも大丈夫です」

 コパリュスもムーンも私に任せてくれる。頼もしい言葉だった。


「いつも通りに作ってみるね。トアイライオさん、エルフ族が好むデザインはどのようなものなの? 何か特徴はある?」

 エルフ族には詳しくないので素直に聞いてみた。


「森に馴染みやすいデザインは、受け入れやすいです」

「自然あふれるデザインがよさそう。参考にする」

 決まったデザインはないみたい。植物や動物、昆虫でも面白そう。自然なら元の世界では四季を思い出す。この世界にも四季があるとうれしい。


 派手なデザインではなくて、個性あるデザインにしたい。森でよく見かける風景を頭の中で思い浮かべると、デザインのイメージが決まってきた。このデザインには小粒のルースがたくさん必要になる。


「ジュエリーの中身が決まったの?」

 コパリュスが覗き込むように声をかけてきた。長い時間、考えていたみたい。

「ペンダントに決めたよ。ルースがたくさん必要だから手持ちを確認する」

 手持ちの鞄から宝石箱を取り出した。中に入っているルースを調べた。


 ジュエリーを作るよりも、原石からルースを作る数が多い。ルース単体でも奉納するけれど、地金が豊富になってからはジュエリーでの奉納が増えた。必然的にルース単体で保管する場合が多くなった。

 宝石箱の中からレッドスピネルやブルースピネル、ほかの色のスピネルも全部取り出した。ルースの大きさは、米粒よりも小さいサイズのみを集めた。


「数は足りそうなの?」

「必要な数はあるみたい。スピネルは色が豊富だからうれしい」

「どのようなデザインになるか楽しみです」

 コパリュスの横からムーンが顔を覗かせた。

「見慣れたデザインだけれど、ちょっとした工夫があるから期待してね」


 ルースがそろってオリハルコンの地金も充分ある。細かい作業が増えるので早めにジュエリー加工に取りかかりたい。ネルピスさんに火を使う許可をもらった。ネルピスさんは中立の立場で監視していると感じた。


 加工に集中した。周囲の音や景色を認識しなくなった。ルースと地金のみが視界に映る。スキルの恩恵よりも先に手が動く。頭の中にあるイメージを具現化した。


 ひとつめのパーツを作り終えて、もうひとつのパーツも作り始めた。時間を忘れて加工を進めた。主要パーツが完成すると大きく息を吐いた。周囲の音と景色が五感へ戻った。顔をあげると、コパリュスのかわいらしい姿が目に飛び込んできた。


「ジュエリー作りは順調なの?」

「今のところ想定通りに作れている。この調子なら明日の早めに渡せそう」

「ジュエリーはいくつか作るのですか」

 ムーンが聞いてきた。ジュエリーに興味があるからか鋭い質問だった。


「ひとつだけよ。どのようなジュエリーかは楽しみにしていてね」

「いつも通りに期待しています」

「ジュエリーも楽しみなの。でもコパは夕食がもっと楽しみかな」

 コパリュスの言葉で視線を家の外へむけた。すっかり日が落ちていた。


「区切りもよいから夕食を作るね。コパリュスは何を食べたい?」

「テンプラが食べたいの」

「メイン料理はテンプラにするね。ほかの料理は手持ちの食材で考えてみる。ムーンもトアイライオさんもそれで平気?」

 2人とも頷いてくれた。


「聞き慣れない料理で、お姉さんは知りたい。ヒューマン族では普通の料理?」

 興味のある顔でネルピスさんが聞いてきた。

「宝石神殿料理よ。1人増えても大差はないから、食べるのなら作るよ」


「うれしい。お姉さんも一緒に食べる」

「美味しいから楽しみにしてね」

 5人分の量で料理を作った。テンプラにネルピスさんも喜んでくれて、みんなで賑やかな夕食の時間を過ごした。


 翌日の昼間にジュエリーが完成した。最初にコパリュスとムーンへ見せると、非常に喜んでくれた。2人の笑顔で心が癒やされて、ジュエリーに自信がもてた。

 ネルピスさんにつれられて、長老たちがいる家にむかった。


「エルフ族以外は中に入れないから、お姉さんが渡してくる」

「すてきなジュエリーだから、気に入ってくれると思う」

 ジュエリーをネルピスさんに渡した。ネルピスさんが家の中に入った。私たちは護衛が見守る中で、ネルピスさんの帰りを待った。


 どのくらいの時間かはわからない。日が落ちる前にネルピスさんが姿を現した。話しかける前に歩き出したので、そのままあとに続いた。最初に案内された家で、向かい合うように座った。


「長老たちの結論がでたから、お姉さんが代わりに伝える」

「どのような内容でも受け止めるから教えて」

 手に汗を握りながら、ネルピスさんを見つめた。


 ネルピスさんは懐から袋を取り出して、ジュエリーと一緒に私の前へおいた。

「これが答え。すてきなジュエリーと長老たちも褒めていた。お姉さんも感動」

 袋を開けると、中には小瓶と種があった。

「原初の椿油とその種であっている?」

「普通はどちらかを選ばせるけれど、今回は両方ともあげる」


「うれしい。大事に使わせてもらうね。宝石職人として参考に知りたいけれど、どのへんが気に入ってくれたの?」

 高評価してくれたのは素直にうれしかった。宝石神殿にはすてきなジュエリーを奉納したい。そのためにも喜んでもらえた点を知りたかった。


「一番感心していたのは作り。心がこもっていて、ていねいな仕上がり。外から見えない部分もきれいなのは、お姉さんも納得の作り」

「メイアのジュエリーはコパが保証するくらいすごいの」

 自分が褒められたかのように、コパリュスがうれしそうに語った。近くではムーンも頷いてくれた。ネルピスさんが続きを話した。


「お姉さんが一番驚いたのは両面で使えるデザイン。気分で新緑と紅葉を使い分けられる。小粒の宝石を集めて作った葉っぱは、本物以上のかがやき。このジュエリーはお姉さんがほしいくらい」


「エルフの里を考えながら作ったから、よければネルピスさんにあげる」

「本当?」

 驚いたように聞き返してきた。

「喜んでもらえるなら作った甲斐があった。だから持っていてほしい」

「コパもムーちゃんも、メイアにジュエリーをもらっているの」

 ブローチとネックレスをネルピスさんにみせた。


「大切にする。何かあれば、お姉さんに言って。長老の娘だから顔は広い」

「今度は遊びに来るね」

 翌日、ネルピスさんに見送られながらエルフの里をあとにした。

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