第37話 エルフの里

 トアイライオさんが数歩進むと、目の前に3名の人影が見えた。雰囲気はトアイライオさんに似ている。中央の男性は何も武器をもっておらず、両脇にいる男性は剣を構えていた。


「お久しぶりです。エルフの里へ入る許可を頂きたいです」

 知っている相手なのか、トアイライオさんは落ち着いていた。

「トアイライオだけなら別にかまわないが、ヒューマン族も一緒なのか」

「彼女たちの用事で連れてきました。話しだけでも聞いてもらえませんか」

「お姉さんが聞いてあげる」


 後方から女性の声が聞こえた。振り向くとエルフ族の女性が立っている。武器は持っていない。コパリュスがすでに反応していた。私を庇うような形で、女性の前に立ちふさがっている。ムーンは左右の木々を見渡して、視線も上下に動かしていた。


「敵意はないかな。でもメイアを驚かすのはいけないの」

「気配を消していたのに、お姉さんは自信なくす」

「ネルピス、やはりいましたか。僕たちに争うつもりはないです」

「お姉さんも喧嘩はしない。少女はお姉さんよりも強くて、幻獣フェンリルも手強そう。お姉さんの家で相談を聞く」


 コパリュスの強さを見破るのなら、ネルピスさんの洞察力はすごそう。長い金髪が印象的で、口癖のお姉さんに違和感はなかった。元の世界でいえば20台に見えるけれど、エルフ族での年齢は不明だった。

 木の陰から数人のエルフ族が姿を現した。大人数で監視していたみたい。


 私たちはネルピスさんを先頭に歩き出した。

「コパリュスはエルフ族の気配が分かっていたの?」

「当然なの。ムーちゃんも気づいていた」

「コパリュスもムーンもすごいね。私は全然分からなかった」


 目の前の景色が揺らいだ。すぐに元へ戻った。立ち止まって周囲を見渡した。

「結界を通り過ぎたの。エルフの里に入ったかな。木の上に家が見えるの」

 私のおかしな行動に気づいたみたい。理由を教えてくれた。


「私にも家が発見できた。家同士の移動は吊り橋で、ちょっと怖そう」

 太さと高さのある木に家が作られていた。地面からの階段もあるけれど、空中での移動が基本みたい。木々の合間にエルフ族の子供を見かけた。


 周囲よりも一回り大きな木を登った。階段は思ったよりもしっかりしている。木や葉っぱで作られた家の中に入った。

 私を中心に右がコパリュス、左にトアイライオさんが座った。私の後ろにはムーンがいる。向かい側はネルピスさんのみが座って、後ろには最初に見かけた男性3名が立っていた。家の入口にも見張りが2名待機している。


「トアイライオは冒険者を続けている?」

 最初に口を開いたのはネルピスさんだった。

「つい先日引退しました。今は宝石神殿で暮らしています。こちらが宝石神殿の管理者でメイアさんです。彼女の用事で、僕は案内役です」


「私がメイアよ。宝石神殿で宝石関連の仕事をしている。その中で必要な品物があって、エルフの里を訪ねてきたのよ」

「原初の椿ね」

 ネルピスさんは即答だった。


「その通りだけれど、どうして分かったの?」

「宝石関連なら、それ以外は考えにくいから。メイアは何の宝石職人?」

 以前にも原初の椿を求めて宝石職人が訪れているみたい。それも即答できる人数くらい多く来ている。3つの宝石関連スキルとも高いレベルにあるけれど、原初の椿を求めてきた。答えは決まっていた。


「一番力を入れているのは宝石加工よ。今の宝石加工スキルはレベル8ね。レベル9になったら、宝石の強化に原初の椿が必要だから探している」

「レベル8の地金と宝石でジュエリーは作れる?」

 ネルピスさんが聞いてきた。何度も対応したから、何するか決めているみたい。


「宝石がトパーズかスピネルで、地金がオリハルコンなら可能よ。レベル8で作ったジュエリーも持っている」

「新規のジュエリーでも完成したジュエリーでも、お姉さんはかまわない。長老3名が納得するジュエリーなら、原初の椿の種や椿油をあげられる」


「みんなで相談させて。素材はあるから、明日中にはジュエリーを渡せると思う」

「じっくり考えて。それまでの間は、この家で過ごしてほしい。里のみんなが不安になるから、お姉さんが一緒にいるけどかまわない?」

「作業中に邪魔しなければ平気よ」


 私が了解すると、ネルピスさんの後ろにいた男性3名が外に出た。家の入口にいる見張りはそのままだった。

 コパリュスとムーンへ視線をむけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る