第36話 原初の椿油を求めて

 宿屋の1階で、トアイライオさんが原初の椿に関する情報を知っていた。

「トアイライオさん、原初の椿は何処にあるの?」

 思わず身を乗り出してしまった。


「メイアちゃん、まずは椅子に座っておくれよ。立っていたら話しにくいさ。飲み物をもってくるから、ゆっくり話しをさせておくれ」

「お言葉に甘えるね」


 コパリュスと一緒に椅子へ座った。ムーンは私の後方で待機している。

 マクアアンリさんが飲み物をもってきてくれた。口を潤したあとに、向かい側にいるトアイライオさんに視線をむけた。


「僕の知っている情報を教えますが入手は難しいです。口外もしないでください」

「誰にも言わない。すてきなジュエリーを作って、みんなの笑顔がみたいだけよ」

「僕が知っている場所はエルフの里です。エルフの里は複数存在していて、たいていの場所には原初の椿があります。僕の故郷にもありました」


「トアイライオさんが住んでいた、エルフの里に行けばもらえるの? 入手が難しいのは持ち出しができないとかなの?」

 具体的な場所がわかってうれしかった。気がかりなのは入手困難の理由だった。


「僕の故郷は遠くにあるので時間がかかります。一番近いエルフの里はカンアットの森にあります。ただエルフ族以外では、エルフの里は見つけられないでしょう」

「カンアットの森はどの辺りなの?」

 横にいるコパリュスに聞いた。


「ムジェの森から南西方向にあるの。宝石神殿からは5日くらいかな」

「意外と近くにあるのね。私たちだけではエルフの里に行くのは無理だけれど、トアイライオさんがいれば見つけられるの?」


「何度か行ったので可能です。入手が難しいのはエルフの里を探せないのと、原初の椿をもらえるか不明だからです。エルフの里以外では育たないとも聞きました」

「5日なら行ってみたいけれど同行は可能?」

 冒険者4人の顔を見渡した。


「あたいはかまわないよ。トアイライオに任せるさ」

「僕なら平気です」

 4人の冒険者からは反対がなかった。大人数でエルフの里に行くのは好ましくないみたい。私とコパリュスにムーン、トアイライオさんの4人で行くことにした。宝石神殿はトナタイザンさんに留守番をお願いした。


 翌日の朝に宝石神殿を出発した。いくつかの荷物は宝石箱に保管してある。普通の収納アイテムと説明した。ムジェの森は何度か歩いていたので、そこまで苦労はしなかった。問題は魔物だけれどコパリュスとムーンがいれば安心だった。


 先頭はムーンとトアイライオさんで、私は中央にいて最後がコパリュスだった。

「私には魔物と戦う力はないから、普通の商人と同じと思ってね」

 歩きながら前方のトアイライオさんに説明した。


「分かりました。危険が近寄ったらすぐに知らせます」

「メイア様の安全はわたくしが守ります」

「コパが魔物を追い払うの」

「みんなが頼もしくてうれしい。料理は私が頑張るから期待してね」

 私が手伝えるのは料理くらいしかなかった。


「旅でもメイアの料理が食べられてうれしいの」

「宝石箱にいろいろと入っているから、宝石神殿と代わらずの料理は作れるよ」

「楽しみなの」

 ムジェの森で襲ってくる魔物は、ムーンとトアイライオさんが退治してくれた。コパリュスが何もしないで済んだから、トアイライオさんの実力も凄いと思う。


 木々がなくなって見渡しのよい場所にでた。幅の広い道も見える。

「スークパル王国とブネスライト共和国をつなぐ道です。通常はムジェの森を通らずに、この道を使って行き来します」

 トアイライオさんが教えてくれた。元の世界にある舗装道路ではないけれど、馬車が2台並んで通れる広さがあった。


「ここがムジェの森の終わりなのね。道を挟んだ向かい側がカンアットの森?」

「その通りです。強い魔物はいませんが、誰も近寄ろうとはしません」

「何故なの?」

 森の恵みなどを求めて、森の中へ入る人がいると思った。


「カンアットの森は迷いの森とも呼ばれています。エルフの里の結界で、森の中では道に迷います。ここからは僕が先導します。僕の近くから離れないでください」

「傍から離れないようにする。エルフの里まで案内をお願いね」

 トアイライオさんが先頭で歩き出した。魔物自体にはあまり出会わなかった。途中途中でトアイライオさんは何かを確認しながら、呪文らしきものを唱えた。


 半日くらい歩くと、トアイライオさんが立ち止まってこちらを向いた。

「この先がエルフの里です。僕が交渉します。この場所で待っていてください」

 トアイライオさんが前方に歩き出した。

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