第35話 レベル9の鉱物

 宝石神殿の5階で精霊たちが出迎えてくれた。ルビーとは何度目かの出会いで、少しずつだけれど仲よくなってきた。最近よく作っている、カラーレストパーズを脇石に使ったジュエリーを奉納した。


「今日の夕食はどのような料理なの?」

 コパリュスが聞いてきた。

「畑でおいしい野菜が採れたみたいだから、使ってみる予定よ」

「楽しみなの。田んぼはまだできないの?」


 コルンジさんにお米をもらってから、田んぼを作り始めた。場所は北西方向の土地にした。ガルナモイトさんが指導者で進んでいる。水が張ってある田んぼを思い浮かべるけれど、その前に多くの作業があるみたい。


「時間はかかるけれど、来年には私たちで作ったお米を食べられると思う。夕食を作る前にスキルを確認するね」

 宝石神殿の5階へきたら、スキルレベルを確認するのが日課となっている。いつものように石のテーブルへ手をのせた。


「すべての宝石スキルがレベル8です。メイア様の成長は著しいです」

「宝石神殿という環境があったからだと思う。これで今まで鑑定できなかったレベル9の鉱物が、ある程度の確率で成功する」

「どのような宝石か楽しみです」


「せっかくだから、この場所で鑑定してみるね」

 宝石箱を出現させて、中から未鑑定の鉱物を取りだした。手当たり次第に鑑定を開始した。鑑定に失敗した鉱物もあるけれど、いくつかの鉱物で素性がわかった。


「どのような宝石ですか?」

 ムーンが私の足にすり寄ってきた。ムーンの体をなでると、フサフサとモフモフの感触が心地よかった。銀色の毛並みはいつもかがやいている。


「宝石図鑑で詳細を説明するね」

 宝石箱から宝石図鑑を取り出して、該当する頁を探した。2つほど新たな宝石が追加されていた。2つとも見慣れた名前だった。


「ルビーとサファイアよ。たしか国宝級ジュエリーで使う宝石よね」

 載っていた宝石の絵をムーンにみせた。

「赤色と青色が対照的で、かがやきのきれいな宝石です。両方とも同じコランダムという鉱物名ですが、ルビーとサファイアは同じ種類なのですか」


「見た目は異なるけれど鉱物的には一緒ね。赤色がルビーで、ほかの色がすべてサファイア。それよりも興味深い説明文があったのよ」

「どのような内容ですか」


 該当する説明文を指さした。

「宝石の強化よ。今までの宝石は普通の椿油だったけれど、ルビーとサファイアは原初の椿油が必要みたい。コパリュスとムーンは聞いたことある?」


「コパはもちろん知っているの。でも宝石神殿やムジェの森にはないかな」

「古くからある椿という知識くらいです。場所までは知りません」

 存在する椿だけれど、高レベルで使用するだけあって貴重みたい。

「レベル9の加工は無理だけれど、事前に原初の椿油は入手しておきたい。シンリト様とリンマルト様、それにガルナモイトさんたちに聞いてみる」


 夕食の準備まで時間があったので、シンリト様とリンマルト様に会った。

 2人とも宝石神殿の3階でくつろいでいた。部屋の中に案内されて腰をかけた。向かい側にはシンリト様とリンマルト様で、私の横にはコパリュスがいる。ムーンは少し離れた位置で座っていた。


 王都ドリペットから必要な品物を運ばせていたみたいで、部屋の中も少しずつ充実していた。2人に視線をむけた。

「シンリト様、リンマルト様。宝石神殿の生活には慣れてきた?」


 2人とも私の2倍は生きている年齢で、普通は敬語を使う相手だった。でも宝石神殿の管理者として対等な話し方をしている。2人は貴族だけれど、私の話し方を大目に見てくれて助かっていた。


「私自身の時間を有意義に使える場所だ。楽しく過ごしている」

「昔のように体が軽いですわ。お花を育ててみたいけれど平気かしら」

「土地は空いているから、気に入った場所があったら言ってね」

「明日にでも探してみます」


「ところで聞きたいことがあるらしいが、どのような情報だ?」

 シンリト様が聞いてきた。

「レベル9の宝石を強化するのに原初の椿油が必要なのよ。何か知っている?」


「国宝級の宝石で使う強化材料か。名前は知っている。商業ギルドなら情報をもっていると思うが、私が聞いても教えないだろう。それほど貴重な材料だ」

「わたくしも名前くらいですわ」


「簡単には入手できそうにないのね。時間はあるから気長に探してみる」

 原初の椿油を聞き終わると、少しだけ雑談で賑わった。シンリト様とリンマルト様に、お礼を言ってから立ち上がった。


「シストメアにジュエリーを作ってくれると聞いた。ぜひよろしく頼む」

「レベル8まで加工が可能になったから、期待に応えられるように頑張る」

「完成するジュエリーを楽しみにしていますわ」


 部屋をあとにした。コパリュスとムーンをつれて宿屋にむかった。

 宿屋の扉を開けると、ガルナモイトさんを含めた4名の冒険者が座っていた。

「メイアちゃん、何か用事かい」

「冒険者は各地の情報に詳しいよね。原初の椿を知っていたら教えてほしい」


「あたいは聞いたことがないよ」

「うちも知らないにゃ。その椿があると、美味しい料理ができるのかにゃ」

「宝石の強化で使うのよ」

 スズリピララさんの質問に答えた。

「それは残念にゃ」


「ガルナモイトさんとトアイライオさんは知っている?」

「自分は知らない」

 ガルナモイトさんは答えてくれた。でもトアイライオさんは考えているみたい。眉間にしわを寄せていた。トアイライオさんと視線があった。

「原初の椿を知っています。実物もみました。でも入手が困難です」

 初めて有効な情報を入手できた。でも一筋縄ではいかないみたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る