第33話 うれしい相談

 コルンジさんとの商談が終わって、宿屋の1階に降りた。私を待っていたのか、目の前にガルナモイトさんとマクアアンリさんが近寄ってきた。うしろにはトアイライオさんとスズリピララさんがいる。4人で一緒に活動している冒険者だった。


「メイアちゃん、少し時間はあるかい。相談事があるのさ」

 マクアアンリさんが声をかけてきた。

「私は平気よ。場所は変えたほうがよさそう?」

「できれば誰もいない場所がうれしいさ。何処かあるかい」


 宝石神殿や宿屋は、部屋が空いていなそうなので果樹園にむかった。椿の木がある場は、建物から離れているので都合がよかった。

「この場所なら平気ね。それで私に何の相談事があるの?」


「宝石神殿に貴族が住んでいると聞いたのさ。実はあたいらも宝石神殿に住みたいけれど、そのようなことは可能かい」

 思いもよらない内容だった。

「マクアアンリさんが宝石神殿に住みたいの?」


「あたいら4人さ。目的はそれぞれだけれど、全員で住みたいとの結論だよ」

「理由を教えてもらえる?」

 私が許可を出せばコパリュスもムーンも反対しない。マクアアンリさんたちは悪い人ではないと思う。でも理由も知らずに認めたくはなかった。


「畑を耕したい」

 ガルナモイトさんだった。短い言葉だけれど意気込みは伝わってきた。

「あたいが補足するよ。あたいと夫のガルナモイトは、年齢的に冒険者を引退しようと考えていたのさ。宝石神殿に出会って、ここで農業しながら暮らすのも悪くないと思った。もちろんメイアちゃんたちと一緒なら楽しいからだよ」


「この前の畑での指摘内容は役に立っているから、農業経験者が一緒にいてくれればうれしい。トアイライオさんとスズリピララさんの理由も知りたい」

 全員が住みたいと聞いたので、別の理由があるはず。


「僕は2人と古いパーティー仲間です。宝石神殿でゆっくりしたいのであれば、そのくらいの時間なら一緒に付き合おうと思いました。それに精霊の影響が強いので、故郷の森にいるようで心地よいです」


 たしかトアイライオさんはエルフ族だった。元の世界での物語と同様に長寿の種族みたい。精霊が好きなら、ダイヤとエメと仲良くなってくれればうれしい。

「うちは食べ物にゃ。各地の珍しい料理を食べられるから冒険者になったにゃ。宝石神殿に住めば、今までに味わっていない料理が食べられるにゃ」


 宝石神殿の特殊環境なら叶えられる理由だった。視線をコパリュスにむけた。

「メイアに任せるの」

「あたいら全員が熟練冒険者レベルだよ。宝石神殿に盗賊が来ても、あたいらならたいていは退治できる。トアイライオは精霊魔法、あたいは回復魔法が得意だよ。もちろん滞在費用は労働でも金貨でも可能さ」


 コパリュスとムーンがいれば盗賊も怖くない。でもシンリト様とリンマルト様が住みだして、一度に守るのは難しいから冒険者がいると助かる。冒険者なら庶民の感覚もあるから、旅の商人や冒険者が来ても対応できる。


「宿屋でよければ住んでもらって平気よ。農作業と外部から人が来たときに、対応してもらえるとうれしい。これからもよろしくね」

「メイアちゃん、ありがとう。あたいらに期待しておくれよ」


 基本的な内容について話し合った。4人には宝石神殿の2階と3階に入れる許可を与えた。のちほどシンリト様とリンマルト様に理由を説明する。倉庫の利用はガルナモイトさんとマクアアンリさんだけで平気そう。

 ガルナモイトさんたちは護衛の仕事が残っているので、レッキュート連合国にいったんむかう。荷物などをまとめたあとに宝石神殿へ戻ってくる手はずになった。


 翌日、ガルナモイトさんたちは宝石神殿をあとにした。

 シンリト様とリンマルト様に冒険者4人が住むと話したら歓迎してくれた。ガルナモイトさんたちが戻ってくる間は、今までと変わらずに採掘や加工して、完成したジュエリーを奉納した。畑や果樹園も試行錯誤を繰り返しながら成長させた。


 20日くらい過ぎたあとに、ガルナモイトさんたちが戻ってきた。その日は歓迎するために料理を振る舞った。使用人を含めて打ち解けてくれたみたい。


 農作業の主役は私からガルナモイトさんたちに移った。宝石に集中できる時間が増えて、昼食後にコパリュスとムーンをつれて宝石神殿の5階にきた。

 トパーズとスピネルのジュエリーを奉納すると、淡い光とともにジュエリーが消えて部屋全体に光が充満した。


「宝石神殿のレベルが上がったの」

「レベル7になったのね。思ったよりも早かった」

「メイアの宝石やジュエリーがすてきだからなの。宝石神殿も賑やかになって、宝石を思う心が増えた影響もあるかな」

「うれしい誤算ね」


 奉納台の上空に視線が移った。ダイヤとエメは私の近くで浮かんでいる。奉納台の上空にいる小さな姿は、活発的な青年の姿にみえた。新しい精霊だった。

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