第31話 昼食のひととき

 翌日、3回目の鐘がなったあとに宝石神殿の地下1階へきた。ムーンのほかにトナタイザンさんがいる。以前ジュエリー加工をみたいと話していたので誘った。


「最初はルース作りから始めるけれど、それでもかまわない?」

「メイアの好きで大丈夫だ。わしのことは気にせずに、宝石やジュエリーを作ってくれ。邪魔しないように見学する」

「エメラルドからルースを作るね」


 昨日までに採掘して、保管していた鉱物を取り出した。その中からエメラルドとガーネットを選別する。宝石鑑定スキルがあるので、間違わないのがうれしかった。


 エメラルドは有名なエメラルドカットを目指して研磨を始めた。宝石加工スキルや道具にも慣れてきて、意図通りにルース加工ができた。

 トラピッチェと呼ばれる、6方向に黒い線が延びるルースも作れた。好みのわかれるルースだから、ネックレスにして奉納するのがよさそう。


 顔をあげるとムーンが近寄ってきた。

「メイア様、4回目の鐘がなりました。気づきませんでしたか」

「集中していたから分からなかった。もうお昼ね。コパリュスがお腹を空かせていそう。すぐに昼食の準備を始める」


「みごとな加工だった。ジュエリーが楽しみだ」

「ルースが揃ってからジュエリーを作るから、今日は無理と思う。ジュエリー加工を見せるのは明日以降でも平気?」


「いつでもかまわない。頼み事があれば、また畑仕事でも手伝える」

「力仕事ではいつも助かっている。一緒にお昼を食べる?」

 トナタイザンさんも私の料理を気に入ってくれた。

「遠慮なく頂こう」


 後片付けをしてから4階へ移動した。4階はプライベートルームなので、誰かを招くことはめったになかった。でもトナタイザンさんは身元がはっきりしていて、オパリュス様とも面識がある。5階以外なら平気と考えた。


「宿屋の手伝いはもう必要ないかな。それよりもコパはお腹が空いたの」

 4階に上がるとコパリュスが迎えてくれた。かわいらしい顔で覗き込んでくる。コパリュスには商隊への対応をお願いしていた。


「宝石加工に夢中で昼食はこれから作るね」

「お米を使った料理なの?」

「時間がかかるから夕食で作る。昼食は昨日購入した食材を使う予定よ。トナタイザンさんはムーンと一緒に部屋でまっていてね」


 コパリュスと一緒にキッチンへむかった。コルンジさんの食材にチーズと干し肉があった。コパリュスにはパンを薄切りにしてもらって、私は干し肉や野菜をひとくちサイズに切った。火の魔石具も準備した。


「パンが切り終わったの」

「私が切った具材をパンの上にまんべんなくのせてね」

 パンの生地が見えないくらいに具材をのせた。干し肉と野菜をのせ終わると、最後にチーズを振りかけた。火の魔石具で温度調整してチーズもこんがり焼いた。最後にシストメアちゃんと交換した胡椒を振りかけた。


「香ばしい匂いがするの。野菜が色とりどりできれい」

「完成、上手くできたみたい。飲み物と一緒に運ぼうね」

 作った料理を運んで、全員の前に料理と飲み物を並び終えた。


「何という料理だ?」

 料理を覗き込みながらトナタイザンさんが聞いてきた。

「ピザトーストよ。パンに乗せる具材を変えれば、いろいろな味付けが可能ね。濃厚で美味しいから、暖かいうちに食べて」

 みんなが食べ出したのを見てから、私もピザトーストを口に入れた。食材や調味料も増えた影響もあって純粋においしかった。


「とろとろとこんがりの食感が両方楽しめます。何枚も食べられるおいしさです」

「お肉がおいしいの。違う具材でも食べてみたい」

「メイアの料理には驚くばかりだ。奇抜ではなくて味が伴っているのがすごい」

 ほめてくれる言葉もうれしいけれど、みんなの笑顔が私へのご褒美だった。


 楽しい食事の時間が終わると、夕食前までルース加工を続けた。

 早めにルース加工を切り上げて夕食の準備を開始した。お米を炊いてご飯に挑戦したけれど、焦げて食べられる代物ではなかった。元の世界と同じ水の量ではだめみたい。美味しいご飯をコパリュスとムーンに食べさせると心に誓った。


 何日かかけて予定数のジュエリーが完成した。宝石神殿への奉納分も忘れてはいない。コパリュスとムーンと一緒に宝石神殿の5階へきた。ダイヤとエメが私たちを出迎えてくれた。エメは私の肩付近で飛び回った。


「めずらしいトラピッチェのエメラルドがあったから、ムーンストーンとあわせたネックレスを作ったのよ。地金はプラチナで落ち着いた雰囲気にした」

 エメラルドとムーンストーンを交互に配置した。貴族向けではなくて、個人的に作りたかったジュエリーだった。ガーネットのネックレスも、私の好みでいろいろな色と大きさを適当に並べて作った。


「コパは色鮮やかなガーネットのネックレスが気に入ったの」

「ムーンストーンのかがやきが、エメラルドを引き立てています」

 コパリュスもムーンもジュエリーを喜んでくれた。


「私の好みで作ったけれど、2人が喜んでくれてうれしい。さっそく奉納するね」

 コルンジさん向けのジュエリーも多く作ったので、交換以外のいくつかを奉納に回した。全部で10個以上のジュエリーを奉納台においた。淡い光とともに消えた。


「順調にレベルアップが近づいているの。メイアのスキルも順調?」

「確認してみるね」

 部屋の右側に移動して石のテーブルに手をのせた。私の状態が表示された。


「メイア様、宝石採掘と宝石加工が上がっています」

「両方ともレベル8ね。たくさん作ったから、上がるのが早かったみたい」

「何の宝石が作れるようになるの?」

 コパリュスが聞いてきた。『宝石箱』と念じて、現れた宝石箱から宝石図鑑を取り出した。レベル8の宝石が載っている頁を開いた。


「おもな宝石はトパーズとスピネルね。地金ではオリハルコンが使える。オリハルコンは赤色で、表面が炎のように揺らめくみたい。作り方はミスリルと同じで精霊の炎だから、鉱物をたくさん集めて挑戦してみる」


「完成するジュエリーが楽しみなの」

 予想外のレベルアップだったけれど、シストメアちゃんへのジュエリー作りにも目処が立った。コパリュスとムーン、ダイヤとエメを含めて、暖かい空間とうれしい時間をみんなで共有した。

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