宝石神殿レベル6

第29話 一流職人

「今回は何が変化したかわかる?」

 宝石神殿の5階でコパリュスに聞いた。宝石神殿がレベル6になって機能が向上しているはず。ダイヤとエメ以外の精霊は出現していなかった。

「確認するの。ちょっとまって」


 コパリュスが移動して、近くにある石のテーブルへ手をのせた。画面に宝石神殿の情報が表示された。敷地内の状態をあらわす色が変化している。

「今回は宿屋と浴場が改善されたみたいね」


 宿屋と浴場が緑色に変化した。黄色の部分は厩舎と荷物置き場だった。このまま順調にレベルが上がれば、宝石神殿全体の状態が改善される。

「コパは実際の状態をみたいの」


「宝石神殿のように充実していると思う。その前に私のレベルを確認させてね」

 石のテーブルに手をのせた。

「メイア様、さすがです。すべての宝石スキルがレベル7です。堂々と一流職人と名乗れるレベルです。おめでとうございます」


「メイアのレベルが上がってうれしいの。宝石神殿も見違えるほどにきれいなの。交流も増えて賑やかな宝石神殿もすてき」

 ダイヤはお辞儀で、エメは私の周りで回転してくれた。喜んでいるみたい。


「ありがとう。毎日が楽しくて、この世界で過ごせてよかった。エメラルドやガーネット、アメシストのジュエリーをたくさん作りたい。そのまえに宿屋ね」

 コパリュスとムーンをつれて1階へ移動した。


 エメは私の肩付近で浮遊しながら、一緒に着いてきてくれた。1階で両手に食材を抱えている使用人と出会った。夕食で使うのかもしれない。

「メイアさん、倉庫の温度管理はすごいです。食材が新鮮です」

 使用人の中年女性が声をかけてきた。エメに驚いたようだけれど質問はしてこなかった。気遣ってくれたみたい。


 宝石神殿に残った使用人4人は、料理を手伝ってくれた中年男女2人と私と同年代くらいの男女2人だった。全員ヒューマン族だった。中年男女が料理や掃除など、同年代の男女がシンリト様とリンマルト様の世話をしている。


「劣化しにくいけれど腐るから、古い食材から使ってね」

「説明を受けたとおりに使います」

 彼女は会釈して2階へ上がっていった。倉庫は私の許可が必要だったため、食材を扱う中年男女2人に許可を与えた。彼女がそのうちの1人だった。


 宝石神殿を出て宿屋と浴場を確認して回った。

「充分すぎるほど、ゆったりできる部屋になっているね。キッチンも機能が増えたから、大勢が泊まっても対応できるみたい」

 コルンジさんが取引を終わって寄ったら、前よりもくつろいでもらえそう。


「メイアが奉納を頑張ってくれたからなの」

「大好きな宝石に囲まれて、宝石神殿へ貢献できてうれしい。目標のレベル10になれば、もっとすごい機能が追加されそう」

「いろいろと充実するから、楽しみにまってほしいかな」

「ジュエリーの奉納も楽しみよ。新しい宝石で作るね」


「メイア様の新しいジュエリーが待ち遠しいです」

 ムーンだった。フェンリルが宝石好きかは知らないけれど、少なくともムーンは私の宝石に興味をもってくれた。

「一流職人の名前に恥じないようなジュエリーを作るね」


 宿屋を出て宝石神殿へ戻ろうとしたときに、噴水の前に人影がみえた。

 現れたのはトナタイザンさんだった。コパリュスとムーンは気配でわかったと思うけれど、安心な相手なら私への事前報告はないみたい。コパリュスとムーンを信頼しているから、それで平気だった。


「精霊が一緒とは珍しい。メイアになついている」

「エメという名前よ。土の精霊ダイヤと一緒に、宝石神殿を豊かにしてくれる」

「いつの間にか宝石神殿が賑やかだ。散歩がてらに土産を持ってきた」


 手渡されたのはウサギのお肉だった。よく差し入れで持ってきてくれる。私はまだ動物の解体ができないから、コパリュスかトナタイザンさんが解体してくれた。『宝石箱』と念じて出現した宝石箱へしまった。


「いつもありがとう。またカラアゲをご馳走するね」

「それは楽しみだ。もうすぐあの商人たちが到着する。メイアの望んだ米や食材、食材の種もあった。カラアゲ以外の料理も可能か」


「嬉しい知らせね。食材を見てから決めるから、楽しみにまっていて。でもコルンジさんが来るとよくわかったね。散歩の途中で見つけたの?」

「散歩のついでに、商人たちをムジェの森出口まで送った。帰りも宝石神殿に寄ると聞いたから、森の出口でまっていて一緒にきた」


 しばらくすると、コルンジさんたちが宝石神殿に現れた。私たちに手を振ってくれて、みんなの元気な姿にほっとした。

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