第28話 新しい住人

 翌日にシンリト様とリンマルト様をつれて、宝石神殿の建物を案内した。その後は使用人や護衛たちの対応をしていた。精霊の紹介は3日後になった。

 朝食後にシンリト様とリンマルト様をつれて果樹園へむかった。コパリュスとムーンが一緒にお供してくれる。椿を植えた場所に到着した。


「自然の中にあって空気がおいしいわ」

 リンマルト様が両手を広げて深呼吸していた。

「リンマルト様は、体調がすぐれないと聞いていたけれど平気?」

「宝石神殿に来てから体が軽いです。女神の加護かしら」


「精霊のおかげと思う。エメ、姿を見せて」

 声に反応してエメが姿を現した。浮遊しながら回転して私の近くで止まった。

「シストメアが話していた精霊か」

 シンリト様だった。初日に比べると話してくれるようになった。


「風の中位精霊よ、シンリト様。エメは周囲に心地よい風を届けてくれる。清々しい気持ちになる以外にも、病気にならないみたい」

 コパリュスに聞いた内容をそのまま話した。

「そのようなことが可能なのか」

 シンリト様が興味のある視線を私にむけた。


「宝石神殿の敷地内なら可能よ。エメ、周囲の空気をよくして」

 エメがその場で回転したあとに、私たちの周囲を踊るように飛んだ。精霊の証である銀色の粒子が華やかに舞った。私には見慣れてきた光景だけれど、シンリト様とリンマルト様には珍しかったみたい。ずっとエメの姿を追っている。


「宝石神殿にいつまでも滞在したい気分ですわ」

「それほど気に入ったのか」

「遠出をしてきた甲斐があったかしら」

「私も悪くない場所だと思っている」


 視線はエメを追っているのに、2人の会話は成立していた。宝石神殿に来た初日から2人の姿を見ているけれど、仲のよい夫婦とわかった。


「次は土の精霊を呼ぶね。ダイヤ、土を豊かにして」

 2人の会話が途切れたときにダイヤを呼んだ。ダイヤはいつものようにお辞儀をしてから、果樹園の土へむかった。ダイヤが触れた土は銀色の粒子でかがやいた。

「料理がおいしいのは、土の精霊がいるからかしら」

「私だけでは食材を育てられなかった。ダイヤのおかげよ」


「メイアの料理を作る腕もすごいの。コパは毎日の食事が楽しみ」

「わたくしも同じです。メイア様の料理は心がこもっています」

「コパリュスもムーンもありがとう」

 嬉しくなってコパリュスの頭をなでた。ムーンが体をすり寄せてくると、モフモフとフワフワの毛並みをなでてあげた。私のやすらぐ空間だった。


「仲がよろしくて、うらやましいですわ。この場所なら楽しく過ごせそうです」

 リンマルト様の言葉にシンリト様が頷いていた。

 シンリト様が私のほうへ顔をむけた。


「宝石神殿の環境が気に入った。私たちを宝石神殿へ住まわせてくれないか。許可をもらえるのなら、可能な限りの要望を叶える」

 一瞬、意味を考えた。すでに滞在してもらっている。


「ずっと宝石神殿に住みたいと言うこと?」

「少なくとも月単位で住みたい。使用人や護衛も残すから心配は不要だ」

 たしか1月は30日で1年は360日だった。視線をコパリュスにむけた。私が宝石神殿の管理者といっても、勝手に決めてよいのか迷った。


「部屋はいっぱい空いているの。メイアの好きでかまわない」

 コパリュスが私に一任してくれた。シストメアちゃんの祖父母だから、身元はしっかりしている。使用人や護衛が優秀なのは一緒に過ごしてわかった。何も問題はないけれど、ひとつだけ聞きたかった。


「住んでもらうことは可能よ。でも理由を教えてほしい」

 シンリト様がリンマルト様へ視線をむけた。

「わたくしの体調がよくなってきたからですわ。理由は不明ですが寝起きもよくなって、毎日が充実しています。これで回答になっているかしら」


「理由は把握できた。今と同様に宝石神殿を使ってね。詳細は話し合うとして、できれば畑と果樹園を手伝ってほしい。収穫した食材は使ってもらって平気よ」

「助かります」


 宝石神殿の2階で詳細を話し合った。

 畑と果樹園を手伝ってもらえて、金貨を何枚かもらう条件となった。宝石神殿の敷地内へは魔物が来なくて、ムジェの森へはコパリュスとムーンがいれば充分と説明した。シンリト様とリンマルト様、使用人が4名残るだけで護衛は不要となった。


 2日後、シストメアちゃんたちは王都ドリペットへ戻る準備を始めた。

「また来てね。いつでも歓迎する」

「近いうちに来ます。ところで私にジュエリーを作る約束は生きていますか?」

「もちろんよ。好きな宝石や地金、デザインがあればいってね。もう少し頑張ればレベル7の宝石が加工できると思う」


「楽しみです。半年後に15歳になって社交界デビューとなります。そのときのパーティーで着けるジュエリーを、メイアにお願いできる?」

「私で平気なの?」


 思わず聞き返してしまった。初めての社交界パーティー。大事なパーティーだとは私でもわかる。そのときに使うジュエリーも重要に違いない。

「メイアだからお願いしたいのです。メイアのジュエリーはすてきです。どの宝石加工職人にも負けません。両親には私が説得します」


 シストメアちゃんに頼まれて断る理由はなかった。

「快く引き受けるね。それまでに宝石加工スキルを上げておく」

「うれしいです。次回来る楽しみが増えました」

 翌日、シストメアちゃんたちが宝石神殿をあとにした。


 シストメアちゃんたちが去った数日後の日中、コパリュスとムーンをつれて宝石神殿の5階へきた。ジュエリーの奉納が終わると部屋全体に光が充満した。宝石神殿がレベル6に上がった。

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