第26話 宝石神殿料理

 宝石神殿の2階にシストメアちゃんたちを招いた。シストメアちゃんの祖父母に視線をむけた。

「私が宝石神殿の管理者でメイアよ。隣がフェンリルのムーン、もう1人の少女がコパリュス。宝石神殿で楽しく暮らしている」


 貴族相手の言葉使いを知らない。客先や上司相手への話し方も考えたけれど、宝石神殿内では普通の言葉使いにしたかった。管理者の立場もあるけれど、宝石神殿内はオパリュス様の領域という理由が大きかった。

 事前にシストメアちゃんから聞いていたのかも知れない。私の言葉使いに驚いている様子はなかった。


「私がシンリト・ラコールだ。領地は息子に譲って隠居生活をしている。孫のシストメアが世話になったと聞いた」

「リンマルト・ラコールですわ。わたくしたちの思い出のジュエリーが直ってうれしいです。しばらく滞在しても平気かしら」


「遠くまで来てくれてうれしい。何もない場所だけれどゆっくり休んでいってね。宝石神殿の敷地内なら、どこでも安全だから安心よ」

 テーブルを囲む形で座った。護衛の2人は後ろ側で立っている。


 修理したジュエリーから私の宝石スキルまで話題が広がった。シンリト様はあまり話さずに、ほとんどリンマルト様とシストメアちゃんだった。

 リンマルト様の体調は少し疲れているくらいだった。宝石神殿への移動許可が出ているから、本当に王都の空気が合わないだけかも知れない。


「メイアの宝石は凄いけれど、料理の腕もすごいです。お爺さまとお婆さまも満足するはずです」

 シストメアちゃんがうれしそうに2人へ話していた。数日泊まると聞いてから、どこかで料理を作りたいと思った。旅の途中は質素な料理だったはず。今日は歓迎の意味も込めて、私の料理でもてなしたい。


「今日の夕食は私のほうで準備するね。ただ人数分を1人では難しいから、料理経験者がいれば手伝ってもらいたい」

「メイアの料理がまた食べられるのですか。楽しみです。何名かいますので手配します。食材の種や小麦を持ってきましたが、あとで交換しますか」

「料理に使える食材もあるよね。ジュエリーを持ってくるから今から交換したい」


 オパール、ムーンストーン、アイオライトのジュエリーを用意してみせた。オパールにはゴールドとプラチナ、ムーンストーンとアイオライトにはミスリルの地金を使った。宝石と地金には強化もおこなっている。


 ジュエリーの種類も豊富にあった。オパリュス様へ奉納するために、いろいろな種類を挑戦した結果だった。

「このイヤリングは左右でデザインが異なります。メイアのジュエリーはみていてあきません。裏表で地金の色が違って何度でも楽しめます」


「オパールは両面ともきれいに仕上げたから、気分で裏表どちらでも平気よ。シストメアちゃんの喜んでいる顔を見られただけでも作ってよかった」

 シンリト様もジュエリーには興味を示してくれた。リンマルト様と小声で話しながら、全てのジュエリーをみていた。


 5つのジュエリーを食材の種や小麦と交換した。小麦粉や胡椒もあってうれしかった。ジュエリーの合計金額が高いみたいで、差額分を金貨で支払ってくれた。ほかにもジュエリーをみたいらしくて、明日以降も新作ができれば見せると約束した。


 ジュエリーの交換が終わって、シストメアちゃんたちの案内はムーンに任せた。私はコパリュスを探しながらキッチンへむかった。

「今日は新しい料理を作るから、コパリュスに手伝ってほしい」

「メイアの料理が楽しみ。もちろん喜んで一緒に作るの」


 道具や食材を準備していると、小麦粉や胡椒と一緒に手伝いが3名来てくれた。

「コパは何を作るの?」

「前と同じでカラアゲを作ってほしい。お肉に塩をふるときには、一緒に胡椒もお願い。パン粉のかわりに小麦粉を使ってね」

「前よりもおいしく作るの」


「私たちは何を手伝いましょうか」

 3名のうちで年配と思われる男性だった。

「芋類と一緒にある食材は輪切りにしてほしい。もうひとつの山にある食材は細長い形が希望よ。手本を見せるね。残りの2人は別の料理をお願いしたい」


 サツマイモを輪切りにして、ニンジンやキノコは細切りにした。量や使い方を説明すると頷いてくれた。残りの2人には、シンリト様とリンマルト様の好みを作ってもらう。食材は私のほうで用意した。


「私たち2人は食材を見ながら作ります」

 2人が話し合うのを見てから、私も料理を作り始めた。椿油に火を入れてから、小麦粉と卵を混ぜて衣を作った。


「メイアは何を作っているの?」

 コパリュスが料理をしながら聞いてきた。

「いろいろな食材を楽しめる揚げ物よ」

「早く食べてみたいの。コパも料理をがんばる」

 コパリュスがカラアゲを揚げ始めた。


 私のほうも椿油が適温になって、切り終わった食材も増えて準備が整った。山菜はそのままの形で衣につけてから椿油にいれた。食欲をそそる音が耳の中に弾ける。いつかは作る過程も料理として振る舞いたい。


 山菜の次は輪切りの食材に移って、最後に細切りの食材を使った。私の料理が終わる頃には、コパリュスのカラアゲとほかの料理も完成した。


 護衛の方たちも含めて、宝石神殿の2階にある部屋へ集まった。

「宝石神殿まで来てくれたので、歓迎の料理を振る舞うね。宝石神殿で集めた食材を使った料理よ。お肉料理はカラアゲでそのままで食べられる。小麦粉が表面にある料理がテンプラで、小皿のすり下ろしたダイコンか塩を少量つけてね」


 料理を手伝ってくれた3人にも聞いたけれど、醤油みたいな調味料はなかった。いつかは探して使いたい。みんなが食べ始めるのを見てから席についた。


 コパリュスはテンプラから食べ始めていた。頬を膨らませながら、美味しそうに食べている。その姿が見られてうれしかった。目の前にいるシストメアちゃんもテンプラから口に入れた。食べ方にも上品さがあった。


 視線が合うと笑みを浮かべてくれた。

「軽い食感ですが、素材の味が濃厚に感じます。初めて食べる食感です。お肉料理は護衛たちが喜びそうです。お肉の香ばしさが食欲をそそります」

「気に入ってもらえてうれしい」


「宝石のようにかがやきを感じる料理です。これらの料理は何というのですか」

 元の世界にある料理とは答えられない。

「メイアが作ったから宝石神殿料理なの」

 コパリュスだった。単純な名前だけれど料理と名前があっていた。シストメアちゃんも納得したように頷いた。部屋全体に宝石神殿料理の名が広まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る