第25話 森での出会い

 今日は朝から採掘と加工をおこなってジュエリーを奉納した。昼食後は天候がよかったので、ムジェの森へ散歩にきた。新しい食材や魔石の補充もしたかった。


「ただ歩くだけでも爽快な気分になれてうれしい」

「コパもメイアと散歩できて楽しい。でもムジェの森には、メイアにとって強い魔物がいるの。コパやムーちゃんの近くからは絶対に離れないで」

「ずっと近くにいる。危険が迫ったらすぐに知らせてね」


 私は戦う術をもっていない。オパリュス様からもらったスキルや贈り物は、すべて宝石関連のみ。それでも生活ができるのはコパリュスとムーンがいるからだった。

 感謝の気持ちを込めて作ったジュエリーを、コパリュスもムーンもずっと着けている。喜んでもいた。数日前にジュエリーを贈ってよかった。


 野生の食材探しにもなれてきた。いまだに魔物の気配はわからないけれど、ムーンが走り出すときには近くに魔物がいる証拠だった。

「メイア様、宝石神殿からだいぶ離れましたが、そろそろ戻りますか」

「食材と魔石も集まったみたい。宝石神殿へ帰るね」


 赤魔石も2個入手できた。ミスリル強化に使えるからうれしかった。来た道を戻ろうとしたときだった。コパリュスが私の服を掴んだ。

「魔物以外の気配を感じたの。少し遠いから何かは不明かな」

「ムジェの森から、どこかの国へ向かっている感じ?」

 むやみな争いはさけたい。会わずにすむのなら、それでもよかった。


「宝石神殿に近づいているみたいなの」

「会う必要があるみたいね。また旅の商人かもしれない。コルンジさんたちみたいな理解ある商隊なら助かる。もし危険だったら守ってね」

「メイア様には誰も近寄らせません」


 ムーンが先頭で歩き出した。私の横にはコパリュスが同じ歩調で進んでくれた。宝石神殿の方向よりも南側に移動していた。

「メイア、安心して平気なの」

 私の心配を気遣ってくれたのか、やさしそうな笑顔を見せてくれた。


「メイア様、知っている気配です」

 ムーンが立ち止まってこちらを向いた。

「誰なの? もしかしてシストメアちゃん?」

 私の知り合いは少ない。コルンジさんが宝石神殿を去ってから、あまり日は経っていなかった。願望と消去法で名前を聞いた。


「その通りなの。でも今回は人数が多いかな」

 コパリュスが答えてくれた。さきほどのコパリュスが安心と言ったのは、相手が誰であるのか分かったからかも知れない。足取りが軽くなった気がして、前方にいたムーンへ追いついた。コパリュスとムーンと一緒に歩き出した。


 道に出て宝石神殿の方向へ視線をむけた。何も見えなかった。反対側に視線を移動させると遠くに馬車がみえた。

「向こうから近づいてくるから、この場所で待つね」


 姿が認識できる距離で馬車が止まった。馬車の横にいた大柄な男性2人が私たちにむかって歩いてきた。前回の護衛隊長だったダイジェイトさんとは異なった。

「ヒューマン族にみえるが、お前たちは何者だ」

「私たちは宝石神殿に住んでいる者よ。ムジェの森を散歩していたら、シストメアちゃんの気配を感じて来たのよ」


「お嬢様が話していたメイアなのか」

「彼女がメイアで間違いない」

 馬車のほうから声が聞こえた。ダイジェイトさんだった。この場所では宝石神殿の関連者だと証明できない。私を知っている人物に会えて助かった。


「ダイジェイトさん、お久しぶり。今日はどのような用事?」

「詳しい話しは宝石神殿でかまわないか」

「それで平気よ」


 馬車の横でダイジェイトさんと一緒に歩き出した。今回はシストメアちゃん以外に祖父母がいるみたい。だから2台の馬車で護衛も多いと聞いた。全員で20名程度の規模らしかった。


 魔物と出会わずに宝石神殿へ到着できた。馬車からシストメアちゃんが降りた。

「メイア、会いたかったです。元気にしていましたか」

「みんなで楽しく元気だったよ。シストメアちゃんは無事に目的を果たせた?」

「非常に喜んでくれました。今回は祖父母を連れてきました」


 もうひとつの馬車から年老いた男女が降りてきた。シストメアちゃんが祖父母と教えてくれた。身なりや背筋もよくて、威厳と優雅さのある貴族にみえた。

「がんばって修理してよかった。でも体調がすぐれないと聞いたけれど、宝石神殿へ来て平気だったの?」

「宝石神殿は自然豊かでのどかな場所と話したら、身体や気分転換によいとの結論でした。道中の魔物が心配でしたが、護衛のおかげで安全でした」


「何もないところだけれど、ゆっくりしていってね」

 しばらく滞在したいらしくて、快く了解した。人数が多いので宝石神殿の2階と3階にはシストメアちゃんたちの貴族や使用人で、宿屋には護衛が泊まってもらう。


 シストメアちゃんの視線が下がった。コパリュスとムーンを交互に見ている。

「コパリュスちゃんのブローチがすてきです。ネックレスも含めて、メイアの作品ですか。宝石を引き立てるデザインがみごとです」

「アイオライトとムーンストーンの加工ができるようになったから、普段のお礼にコパリュスとムーンへ作ったのよ。地金もミスリルのよい味をだしていると思う」


「メイアの気持ちが伝わるようなジュエリーです。私にも作ってくれますか」

 私の手をとってきた。何気ない仕草もかわいかった。少し年が離れた妹みたい。私の中で答えは決まっていた。


「もちろんよ。好きな宝石と地金を教えてね。デザインの希望はある?」

「考えておきます」

 シストメアちゃんと約束した。

「お嬢様、準備が整いました」

 ガットーネさんだった。馬車からの荷下ろしも終わったみたい。


 宝石神殿の2階へシストメアちゃんたちを案内した。部屋にはシストメアちゃんと祖父母、ダイジェイトさんともう1人護衛らしき人物だった。私の横にはムーンがいて、コパリュスは使用人たちに対応している。

 シストメアちゃんと祖父母がいる前に歩いていった。

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