第22話 冒険者は農業経験者
宿屋の2階で商人のコルンジさんが、情報と品物について聞いてきた。
「情報は、今住んでいる国がどのような場所かくらいで平気よ。自給自足の生活だから、品物は日用品から食料まで何でもほしい。畑も始めたから種や実もうれしい。ただお金はあまりないから、私が作ったジュエリーと物々交換だと助かる」
「実際に見せてもらえますか」
事前に聞かれると思って宝石箱から出しておいた。宝石と地金を強化したオパールとスフェーンのブローチだった。地金はプラチナを使っている。
「遠目からでも素晴らしいジュエリーです。手にとっても構いませんか」
「最近力をいれているジュエリーよ。好きなだけみてね」
「4つの葉っぱを使ったデザインはよく見かけます。だからこそ、このジュエリーの凄さがわかります。葉っぱ1枚1枚にある宝石は、せんさいなカットで光沢が幻想的です。鑑定前ですが、強化された宝石でしょうか」
「ほめてくれてうれしい。宝石も地金も強化してある」
本当はメレダイヤを合わせたかった。でもこの世界では、ダイヤモンドは幻の宝石だった。ほかの宝石で代用できないかあとで考えたい。
「オパールは金貨40枚でも売れるでしょう。もうひとつの宝石は見かけません。稀少な宝石と思われますが、買い手がつくかは不明です」
数が少なくても、人気がなければ高値で売れない。スフェーンは出回っていない宝石だから、商人なら慎重になるのは納得がいく。
「物々交換はオパールなら平気? スフェーンは、宝石品質の採掘が極端に少ないから見かけないと思う。人気があるか判断するために、貸し出すことも可能よ」
「借りられるのなら、知り合いの貴族に見せられます。オパールのジュエリーは金貨20枚相当で交換はどうでしょうか。経費を考えると妥当と思っています」
「その価格で平気。どのような品物に余裕があるの?」
「実はそれほど多くないのです。緊急での届け物があって、必要最小限しかもっていません。オパールは金貨で買います。あとは情報を提供します。必要な品物は次回来るときで構わないでしょうか」
通常はムジェの森を迂回するらしいけれど、複数国を移動するから時間がかかるみたい。ムジェの森は直線で進めるけれど危険な魔物がいる。だから緊急のとき以外は使わないらしい。
「急ぎの旅だったのよね。その内容で構わない」
オパールのジュエリーを3個、スフェーンのジュエリーは1個だけ貸した。
レッキュート連合国とセファット王国の情報を聞いた。レッキュート連合国は、独立している複数種族が集まった国家だった。セファット王国はドワーフ族が支配していて、採掘や加工に優れているみたい。やはり米が主食だった。
「手短ですが、このような情報で平気ですか」
「その内容で充分よ。セファット王国から来るときに米は用意できる? ほかにも農作物の種があるとうれしい。畑や果樹園を作っているけれど経験がないのよ。いろいろな種類の農作物を試したい」
「その程度なら構いません。セファット王国へ行って、用事を済ませたらレッキュート連合国に戻ります。帰りもムジェの森を通りますので、宝石神殿に寄ります」
話がまとまった。ジュエリーと金貨の交換も終わった。
1階へ戻ろうとしたときに、ガルナモイトさんが目の前にあらわれた。
「畑をみたい」
突然の言葉に戸惑った。まさかガルナモイトさんから話しかけてくれるとは思わなかった。私の戸惑いを感じ取ったのか、マクアアンリさんが近寄ってきた。
「驚いたかい。普段は無口だけれど、ガルナモイトの実家が農家なのさ。だから農業関連には興味がある。時間はないけれど、少しだけでも見せてもらえるかい」
「こちらからお願いしたいくらい。畑の作物で食事を豊かにしたいけれど、農業経験がないのよ。宿屋の裏側から近い場所に畑はある」
コルンジさんに事情を説明して、少しだけ時間をもらった。
ガルナモイトさんのパーティー4人がきてくれた。簡単に畑の作物や状態を説明した。ガルナモイトさんは無口ながらも、分かりやすく指摘してくれた。雑草の処理や作物同士の間隔、つるがある作物の対処方法などだった。
「育っているのが不思議」
枯れてもおかしくない状態みたい。ここまで育っている理由は知っている。
「精霊の恩恵があるのよ。ダイヤ、土の状態をみてくれる?」
何もない空間に話しかけると、空中にダイヤが出現した。ダイヤはお辞儀をしてから、畑にある土へ近づいた。ダイヤが手をかざした場所は銀色の粒子が舞った。
「この土地は精霊を強く感じていましたが、意思疎通ができるとは驚きです。僕が住んでいた森を思い出します」
「トアイライオが驚くとは凄いさ。メイアちゃんは精霊使いかい」
「宝石大好きな宝石職人よ。でもダイヤとは仲良し」
遠くでコルンジさんが手を振っていた。もう出発の時間みたい。話しを切り上げて噴水の場所へ戻ってきた。
「帰りも宝石神殿へ寄ります。そのときに取引できるのを楽しみにしています」
「コルンジさんたちも気をつけてね。強い魔物もいるけれど平気?」
「心強い冒険者がいるから大丈夫です。怖いのは神獣ドラゴンでしょうか」
トナタイザンさんの正体を知ったら驚きそう。でも私が正体を教えるのは筋違いに思えた。トナタイザンさん自身の表情をみたけれど、話す素振りはなかった。
「神獣ドラゴンは強いけれど、悪さをしなければ襲わないと思う」
「そのように願っています。それでは出発します」
東門で姿がみえなくなるまで見送った。宝石神殿からムジェの森を出るまで2日くらいで、そこから街までには数日かかるみたい。トナタイザンさんも東門からムジェの森へと消えていった。コパリュスとムーンをつれて宝石神殿へ戻った。
数日後、宝石神殿の5階でジュエリーを奉納した。淡い光とともにジュエリーが消えると、部屋全体に光が充満した。宝石神殿がレベル5になった証だった。
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