第21話 料理でおもてなし

 ガルナモイトさんが連れてきたのは、帽子をかぶった小太りの男性だった。立派な口ひげがあって身なりもよかった。


「わたしは商人のコルンジです。この商隊の代表者でもあります。この場所が宝石神殿で管理者がいると初めて知りました」

 女性の私相手でもていねいな口調だった。


「私が宝石神殿を管理しているメイアよ。本当かどうか疑うかも知れないから、代表者に見て確かめてほしい」

 シストメアちゃんたちに説明した方法を実戦した。2階の出入りについては驚いていた。コルンジさん以外にマクアアンリさんにも試して、納得してもらった。


「メイア殿が管理者と納得しました。休憩に建物を貸して頂けると聞きました」

「休憩なら建物を提供できる。水と火の魔石具も自由に使ってかまわない。そのかわりに情報がほしい。一般的な内容で平気。周辺国の情報を知らないのよ。荷物に余裕があるのなら物々交換もしたい」


 商人なら売れ残った荷物があるかもしれない。ジュエリーと交換できなければ、シストメアちゃんからもらった金貨もある。

「これから食事の準備だったので、建物の中で休めるのなら助かります。情報と物々交換は食事をしながらでも大丈夫ですか」

「それで平気よ。建物に案内するね」


 旅の商隊は商人関係者が5名、4名の冒険者が2組だった。

 コルンジさんとマクアアンリさんがいるパーティー4名が、私と一緒に2階へ上がった。私の横にはムーンがついてくれた。宿屋は石造りで古びてはいるけれど、しっかりした造りだった。コパリュスは1階で、ほかの者たちへ対応していた。


 大きな部屋に入ってから自己紹介を始めた。ムーンが言葉を話せるフェンリルと知ると、みんな驚いていた。

 ガルナモイトさんの声を初めて聞いた。どうやら無口みたい。残りはエルフ族の男性がトアイライオさんで、キャット族の女性がスズリピララさんだった。トアイライオさんはゆったりした話し方で、スズリピララさんは元気がよかった。


「メイア様、わたくしたちの食事はどうしますか」

「こちらで用意しましょうか」

 コルンジさんが気を利かせてくれた。旅の途中だから無駄な食料は消費したくないはず。シストメアちゃんたちの食事を思い出した。ゆっくり休めるときぐらい、美味しい料理を食べたいと思う。


「まだ旅の途中よね。無理しなくても平気。でもパンを少しだけほしい。それがあれば味見してほしい料理があるのよ。珍しい料理と思うけれど食べてくれる?」

「パンなら余分にあります。ぜひ食べさせてください」


「お肉もあるかにゃ」

 スズリピララさんが身を乗り出してきた。キャット族の名に恥じない、猫耳の小柄な女性だった。


「暖かいお肉料理もあるわよ。たくさんあるから、いっぱい食べてね」

「お腹が膨れるまで食べるにゃ。うちのパンを渡すにゃ」

「これで作れる。すぐ戻ってくるね。ムーン、一緒に行こう」


 ムーンをつれて1階へ降りた。キッチンを覗くと賑わっていた。宝石神殿のキッチンに比べて狭いので、私が割り込む場所はなかった。コパリュスの姿がみえた。

「コパリュス、私たちは宝石神殿で差し入れを作ってくる」


 私の声に反応して顔をむけてくれた。

「こちらはコパがいるから平気なの。差し入れはコパの分も忘れないで」

「たくさん作るから平気よ。お皿の用意はお願いね」

 コパリュスが頷いたのを確認すると、ムーンと一緒に宝石神殿へ行った。


 4階にある普段使うキッチンで料理を開始した。コパリュスとムーンに好評で、何度も作ったので時間はかからない。キッチンも強化されたので、一度に大量のカラアゲとフライドポテトが完成した。


「今回も香ばしくて美味しそうです」

「宝石箱から出すと怪しまれるから大きな鍋に入れる。宿屋の前で、宝石箱からだして運べば違和感はないと思う」

 大きな鍋を2つ用意して、カラアゲとフライドポテトを別々に入れた。


 宝石神殿を出て噴水近くまで来ると、見慣れた人影があった。

「近くを散歩していたら、多くの気配を感じた。何かあったのか」

 老人の姿とは思えないほど元気な、トナタイザンさんだった。


「旅の商隊が休憩に来ているのよ。せっかくだから差し入れを作った。トナタイザンさんからもらった、お肉も使っている。よければ一緒に食べない?」

「散歩の途中で寄った甲斐があった。料理はありがたく頂く」


「大きな鍋があるから運ぶのを手伝ってね」

 宝石箱から大きな鍋を2つ取り出した。

 宿屋に入ると、コパリュスがお皿を並べていた。お皿ごとにカラアゲとフライドポテトを盛り付けた。2階のコルンジさんたちにも料理を並べ終えた。


 2階の部屋にはコパリュスとトナタイザンさんが増えた。

「近所つきあいしているトナタイザンさん。料理が食べたいらしいので、迷惑でなければ同席させて」

「人数が多いほうが食事も楽しいです。わたしは大丈夫です」

 コルンジさんが答えると、ほかの人は頷いてくれた。


「わしはメイアの作るジュエリーに興味があって、散歩がてら宝石神殿にくる。メイアの客なら、ムジェの森で困ったときは助けてやる」

「それは助かります」


「あいさつよりも料理にゃ。おいしい匂いで我慢できないにゃ」

「冷めないうちに食べて。お肉料理がカラアゲで、お芋料理がフライドポテトよ」

「さっそく頂くにゃ」

 スズリピララさんが自分の皿へ料理を取って食べ始めた。目を細めて美味しそうな笑顔を見せる。それだけでうれしかった。ほかの人も食べ始めた。


「この料理はくせになる味だよ。あたいは気にいった」

「僕はそれなりに長く生きていますが、初めて経験する味です」

 エルフ族のトアイライオさんも料理を喜んでくれた。長身で細身の青年に見えるけれど、この世界でもエルフ族は長生きみたい。


 あっという間に料理がなくなった。食後の飲み物も用意した。

「ムジェの森で、暖かくておいしい料理を食べられるとは思いませんでした。たしかメイア殿は情報と物々交換が希望と思います。どのような情報と品物ですか」

 コルンジさんの顔つきが少し変わった。商売人に切り替わったのかも知れない。

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