第20話 賑やかな噴水

 昼食前のジュエリー加工が終わって、宝石神殿の5階でジュエリーの奉納をさきほど終えた。宝石と地金を強化したジュエリーだったけれど、宝石神殿のレベルアップはもう少しかかるみたい。


 私自身のスキル確認をおこなった。

「無事に宝石採掘がレベル6になった。宝石鑑定と宝石加工はレベル5のままね。ムーンの由来であるムーンストーンが確実に採掘できてうれしい。アイオライトも採掘できたのは大きかった。地金のミスリルは初めてみるから加工が楽しみ」


「早く本物のムーンストーンをみたいです」

 ミスリルは元の世界にない鉱物で緑色だった。ムーンはムーンストーンが待ち遠しいみたい。ムーンストーンは、宝石鑑定が成功したときに宝石図鑑で見せた。そのときにムーンは感動していたけれど、やはり本物の宝石を堪能したいみたい。


「もう少し待ってね。宝石とジュエリー加工を毎日しているから、あまり時間をかけずにレベルが上がると思う」

「楽しみにしています」


 うれしそうに尻尾を振っている。銀色の毛並みを撫でると、モフモフとフワフワを同時に堪能できた。コパリュスとムーンと一緒にいると心が休まった。コパリュスに視線をむけると難しい顔をしていた。


「宝石神殿のレベルが上がりにくくなって悩んでいるの?」

 私の声に反応して顔をむけてくれた。

「噴水に誰か来ているの。敵意はなさそうだけれど、ちょっと気になったかな」


「トナタイザンさんやシストメアちゃんと違う?」

「それなら気配でわかるかな」

「敷地内には魔物は入れないのよね。旅の商人か冒険者?」

「その可能性が大きいの」


 宝石神殿の1階は誰でも入れる。地下と地上の移動には1階を通る必要がある。相手はここに誰かいるとは思っていないはず。無闇な争いはさけたかった。

「危険がないのなら会ってみたい。宝石神殿の1階で鉢合わせすると、誤解が生まれると思うのよ。だから会いに行ったほうが安全と思う」


「メイア様はわたくしが守ります」

「頼りにしている。コパリュスも一緒にお願い」

「任せて」

 コパリュスが先頭で、私の横にムーンがついてくれた。守られている安心感が伝わってきた。5階から1階へ降りて、宝石神殿の外へでた。


 10人以上の人影と2台の馬車が止まっていた。こちらに気がついたみたい。中肉中背の男女2人が私たちに近づいてきた。この2人もヒューマン族で私よりも年上にみえた。きっと30代だと思う。


「あたいたちは旅の商隊だよ。怪しい者ではないさ。お嬢ちゃんたちは誰だい?」

 女性は笑顔を見せながら、やさしく声をかけてきた。黒髪のショートヘアーで手には長い杖をもっている。横の男性は剣を腰にさしていた。


「私たちは宝石神殿の管理者よ。この宝石神殿で暮らしている」

 代表者として私が答えた。

 ほかの人物も私たちに気づいたみたい。襲ってくる気配はないけれど、遠巻きで様子をうかがっている。いつでも対応できる体勢にはみえた。


「住人がいたとは初耳だよ。前に来たときは無人だったから、今回も普通に休んでいたのさ。お嬢さんたち、責任者を呼んでくれるかい」

「私が宝石神殿の責任者でメイアよ。隣の少女がコパリュスで、フェンリルのムーンと一緒に生活している。宝石神殿にいるのは私たちのみ」


 質問してきた女性は思考を巡らせているみたい。じっと私のほうを見ながら険しい顔になった。男性は危険になったら対処できるように構えていると思う。でも戦闘経験のない私には、凄いかどうかは分からなかった。


 女性が私を安心させるためか笑顔に戻った。横の男性を一歩後ろに下げさせた。

「あたいたちはレッキュート連合国から、セファット王国に向かう途中だよ。急ぎの荷物があったからムジェの森を通っている。メイアちゃんたちに危害を加えるつもりはないさ。休憩が済んだら、ここを離れる予定だよ」


 両手を広げて敵意のない姿を示した。本当に危険な相手ならコパリュスが動いていると思う。説明が本当かは不明だけれど、敵意がないのは私にも伝わってきた。

「休むのならゆっくり休んで平気よ。コパリュス、噴水の周りだと休みにくいと思うのよ。どこか休める場所はある?」


 コパリュスに視線を向けた。短時間だから宝石神殿以外の場所にしたかった。

「南西にある建物が適していると思うの。1階はキッチンや食事ができる広さがあって、2階は休憩できる個室もあるかな。水や火の魔石具も使って平気。となりの建物は体を洗う施設だから、旅の汚れも落とせるの」


「食事と休憩ならまるで宿屋ね。浴場の水はお湯にもできる?」

「今は水のみかな。でもわき水だから清潔なの」

 建物の概要が把握できた。宝石神殿と倉庫以外には、噴水をはさんだ反対側に宿屋と浴場、厩舎と荷物置き場があった。旅人が来たときに重宝できそう。

 女性のほうへ顔をむけた。


「噴水周辺で休むよりも快適な建物を使ったほうが楽よ。厩舎もあるから馬も休めさせられる。そちらの代表者と少し話しがしたい」

「助かるよ。代表者は商人で今から呼んでくる。あたいはマクアアンリさ。横にいる男性は夫でガルナモイトだよ。4人で冒険者をしている」


 冒険者は商人の護衛よね。冒険者はいろいろな仕事があるみたい。ガルナモイトさんが噴水周辺へ戻っていった。代表者と思われる男性をつれて戻ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る