宝石神殿レベル4

第18話 椿油の活用

 宝石神殿の5階で、オパールとスフェーンのジュエリーを奉納した。コパリュスとムーンが見守る中、部屋全体に光が充満した。宝石神殿がレベル4になった。

「宝石神殿の情報を確認してみるの」

 コパリュスが近くにある石のテーブルへ手をのせた。


 画面に宝石神殿の情報が表示された。敷地内の状態をあらわす色が変化した。今回は精霊の出現はないみたい。ダイヤはいつものように空中を漂っていた。

「宝石神殿とうしろ側にある倉庫の色が緑色ね。本来の状態に戻ったのよね。倉庫も私の許可が必要だった。食材などを保存しているけれど重要な施設なの?」


 噴水をはさんだ反対側にも複数の建物があった。でもその建物は誰でも出入りができると説明を受けた。

「建物は普通だけれど保管場所は重要なの。緑色になったから温度管理もできる」


 宝石箱という特殊なアイテムを除けば、品物を保管できる場所はたしかに重要と思えた。食材もすべて宝石箱に入れれば、時間停止の恩恵は受けられる。でも通常の状態も知りたいから、半分くらいは倉庫に保管してあった。


「温度管理はうれしい。この部屋も何か変化しているの?」

「5階は特別で最初から全機能が使えるの。ほかの階は機能が向上している」

「それは楽しみ。私のスキルも確認するね」

 コパリュスに代わって、私が石のテーブルに手をおいた。


「すべてのスキルがレベル5です。メイア様は熟練と呼ばれる目安です」

「大好きな宝石だから集中できたみたい。レベル6の宝石でタンザナイトが確認できた。この世界ではブルーゾイサイトね。ほかにも有名な宝石がみつかると思う」

「新たな宝石が楽しみです」

「椿油も完成したから、宝石強化も試してみる」


 昨日、椿の種をつぶして作る椿油が完成した。敷地内の果樹園にある椿以外に、コパリュスがムジェの森で椿の種を取ってきてくれた。一定量の椿油が確保できた。宝石強化以外にも、食用油や髪の毛を整えるのに使える優れものだった。


「コパはお腹が空いたの」

「もうそろそろ、お昼の時間ね。せっかくだから椿油を使った料理を作ってみる」

「楽しみなの。コパも一緒に手伝う」

 ダイヤに別れをつげて、コパリュスとムーンをつれて4階へきた。


 見た目が変わっていた。ところどころにある光の魔石具も格調高くなって、数も増えていた。宝石神殿がレベル4になった効果みたい。

 キッチンにある魔石具も、大中小と大きさが異なって数も増えた。考えていた料理を同時に作れそう。宝石箱から食材と椿油をとりだした。コパリュスと一緒に下ごしらえを終えて準備が整った。


「お肉料理のカラアゲと、お芋を使ったフライドポテトよ」

 トナタイザンさんが差し入れで、お肉や食材を持ってきてくれる。ジュエリーのお礼みたいだけれど助かっていた。宝石箱に保管すれば劣化しない。

「初めて聞く名前ですが美味しそうです」


「コパも一緒に作りたい」

「カラアゲはコパリュスにお願いする。手順は切り終わったお肉に塩をふって、パン粉を表面に押しつけてね」

 シストメアちゃんが来たときにもらった、硬いパンからパン粉を作った。貴重な小麦だけれど使うのは今だと思った。肉の臭みを消す薬草も使った。


 私はフライドポテト作りを開始した。皮をむいて細長い形にした。あとは椿油で2回揚げるだけだった。最初は弱火で2回目は強火にすると美味しくできあがる。

「まんべんなくパン粉をつけたの。次はどうするの?」

「あとは椿油をひいた鍋で、焦げないように揚げるだけよ」

「試してみる」


 コパリュスの動きをみながら、私も続きを開始した。火の魔石具による温度調整にもなれてきた。最後に塩をふってフライドポテトが完成した。コパリュスのカラアゲも問題なくできあがった。


「香ばしい匂いです。両方とも食べるのが楽しみです」

「食後の果物も用意するね」

 ムジェの森でみつけた果物は、食べるほかに種を植えた。北東側にある果樹園では芽が出始めた。収穫はまだ先だけれど楽しみだった。ほかにも野菜や野草などは、南西方向の畑に植えてある。


 すべての料理が完成して、食事の準備が整った。

「コパはフライドポテトから食べる」

 揚げたてのフライドポテトに、コパリュスが手を伸ばした。ムーンはカラアゲを器用に食べ始めた。言葉はいらない。嬉しそうな顔が結果を物語っていた。


「久しぶりのカラアゲとフライドポテト。食べるのが楽しみ」

 フライドポテトを口に入れた。あつあつのほくほくが、口の中に広がった。椿油のほのかな香りが味を引き立ててくれた。


 カラアゲにも手を出した。口の中でカラアゲがふたつに割れた。今までの素焼きや煮込みに比べて、濃厚な肉汁があふれだす。何度もかみしめた。

 手が止まらなかった。


「メイアの食欲が凄いの。でもコパの分は渡さない」

 コパリュスが自分のお皿を手前に引いた。無意識のうちにいっぱい食べていたみたい。手の動きをゆるめた。


「なつかしい味で勢いがついただけ。手持ちの食材でも思った以上の味だった。コパリュスもムーンも満足のいく料理だった?」

「食べるほどに食欲がわく味でした。どちらの料理も満足です」

「コパも両方とも気に入ったの。また作ってほしい」

 コパリュスもムーンも喜んでくれた。作った甲斐があった。


「気に入ってくれてよかった。小麦があればもっと香ばしくできる。シストメアちゃんが来てくれるとうれしい。また会いたいし小麦も期待できる」

「誠意のある祈りをしていたから、約束は守ると思うの」

「それは楽しみ。代金には新しいジュエリーがよさそう。椿油で髪の毛のつやが戻ったら教えてあげたい。椿油自体も渡したい」

「きっと喜ぶと思います」


 宝石神殿への奉納以外でも楽しみができた。

 今頃は修理したジュエリーをみせているかも知れない。シストメアちゃんの気持ちは祖母に伝わっていると思う。シストメアちゃんを思い出しながら、最後のカラアゲを口の中へ入れた。

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