第17話 ジュエリーの修理
シストメアさんを宝石神殿の地下1階へ案内した。
「整理ができていて、きれいです。でもこの部屋でジュエリーが作れるのですか」
シストメアさんの疑問はもっともだった。広い部屋だけれど、おいてある品物は少ない。大事な道具は宝石箱にしまってあるからだった。
「収納アイテムをみたことはある?」
おそるおそる質問した。コパリュスからは数が少ないと聞いている。
「家にもありますし知っています。ほかでは有名な冒険者や商人がもっています。もしかして、メイアさんは収納アイテムもちでしょうか」
収納アイテム自体は一般的みたい。容量無限と時間停止は注意したい。
「宝石神殿を管理する上で必要なのよ。だから普段は道具がない状態ね」
納得してくれたみたい。宝石箱から加工道具や魔石具をとりだした。
最初はオパールの研磨から始めた。よく使われる丸みを帯びたカボションカットを作った。表面はつるつるでカット面はない。つづいてシストメアさんにみせた、多面体カットのルースを作った。そのあとにジュエリー加工をみせた。
完成したルースとジュエリーをシストメアさんに渡した。裏表をじっくりみて、光源の位置をかえながら眺めていた。
「色のゆらめきを、ずっと眺めたいです。みていて飽きません。メイアさんは宝石加工スキルが高いのですか」
「レベル5になったばかりよ。ただいろいろな恩恵があるからかもしれない」
「もしかして宝石関連の加護をもっているのですか。それなら納得です。メイアさんに修理を頼んで正解だと確信しました」
私を信頼してくれるのはうれしかった。ただ修理できるか不明なはずの、宝石神殿を訪れた理由がわからなかった。
「ジュエリーの修理なら、時間をかけても王都で探すほうが安全と思う。なぜ危険をおかしてまで宝石神殿へきたの?」
「祖母を元気にさせたかったからです」
ジュエリーは、祖母からもらったというだけではないみたい。
「くわしく聞いても大丈夫?」
「かまいません。実は祖母の体調がすぐれないのです。周囲の者は王都の空気があわないと聞きました。祖父母にはいつまでも元気でいてほしいです。ですから2人の思い出が詰まったジュエリーを直したいのです」
「絶対に修理を成功させるね。呼吸がつらいのなら、宝石神殿の空気はよさそうかもしれない。夕食まで修理の練習を考えているから、ここまででも平気?」
シストメアさんに聞くと頷いてくれた。
「わたくしが案内します」
「会話が可能な幻獣と聞きましたが、ほんとうにすごいです。宝石神殿にはいろいろな加護があるような気がします」
「宝石の女神オパリュス様のおかげよ。ムーン、あとはお願いね」
ムーンがシストメアさんをつれていった。私はジュエリー修理の練習を始めた。元の世界にある記憶と宝石加工スキルのおかげで、夕食前には練習が終わった。
宝石神殿の2階へいくとコパリュスをみつけた。
「メイアの作業は終わった? コパはお腹が減ってきたの」
「夕食の準備を始めるね。シストメアさんたちの夕食は平気そう?」
「調理場を教えたの。安心して使える水と火には驚いていたかな。旅の途中だから料理は質素な感じで、メイアの料理とは大違い」
旅では最小限の荷物で効率重視になるのもわかった。そのなかで魔物の心配がなく休めて、安心な水は驚きだと思う。でもさびしい料理は気になった。
「まだ料理を作っている途中?」
「そうだと思う。メイアには何か考えがあるの?」
「一緒に料理を作ってみたい。シストメアさんたちには、新鮮な素材を使った料理を食べてもらいたい。私はこの世界の料理がどのようなのか知りたい」
「コパも一緒に手伝うの」
コパリュスと一緒にシストメアさんの元へ向かった。一緒に料理する許可をもらって調理場へ移動した。案の定、硬いパンや乾燥した食材が多かった。手持ちの食材を渡すと喜んでくれた。
一緒に料理をしながら情報交換をおこなった。スークパル王国は小麦が主食だけれど、東側にあるセファット王国は米が主食と聞いた。一番の収穫かもしれない。
暖かいスープとお肉を使った料理も作った。
料理が完成すると一緒に食事をとった。みんなの喜んだ姿がうれしかった。
翌日、2回目の鐘がなったので宝石神殿の1階にきた。日課のオパリュス様へのお祈りだった。オパリュス様の像がある手前には先客がいる。
お祈りを終えた人物が立ち上がった。シストメアさんだった。
「無事に宝石神殿へ来られた感謝と、修理の無事を祈っていました」
「きっとオパリュス様も喜んでいると思う。私はこの時間が日課のお祈りよ。3回目の鐘を目安に修理を開始するね」
「その頃になりましたら1階で待っています」
シストメアさんは、オパリュス様の像にお辞儀してから2階へ向かった。
3回目の鐘がなったあとに修理を開始した。立ち会いはシストメアさんのみで、あとはムーンがつきそってくれた。
「修理を始めるね。修理中は手が離せないから、何かあったらムーンに聞いて」
「近くでお待ちしています」
宝石箱から加工道具や魔石具をとりだした。修理するオパールのジュエリーを手にとった。昨日の練習を思い出した。焦る必要はなにもない。
なるべく元の状態を生かして、ていねいに作業を進めた。危険な部分はスキルが助けてくれた。最後の確認も手を抜かなかった。
「修理が終わったよ。シストメアさんの目で確認して」
オパールのジュエリーをシストメアさんへ手渡した。表側と裏側の両方を調べていた。近くでみたあとに遠目でも確認している。最後にもってきた箱にしまった。
シストメアさんと視線があった。
「すばらしい仕上がりで問題ありません。ありがとうございます」
ていねいな言葉と頭を下げて、お礼をあらわしてくれた。
「無事に修理ができてよかった」
「メイア様の手さばきは、みごとでした」
「修理費用はいかほどでしょうか」
相場がわからなかったので硬貨の価値を聞いた。金貨1枚が元の世界では1万円くらいだった。金貨の上には白金貨、金貨の下には銀貨などがあるみたい。硬貨の種類で価値が10倍異なっていた。
「宝石神殿では硬貨を使う機会がないから、金貨10枚と情報でも平気?」
「どのような内容が知りたいのでしょうか」
「ムジェの森以外の知識が少ないのよ。スークパル王国が、どのような国か教えてほしい。普段の生活や国の特徴だけでも充分よ」
宝石神殿の1階へもどってスークパル王国の情報を聞いた。ヒューマン族が支配する国で国王が国を治めていた。比較的治安のよい国でほかの国とも交流があった。
「宝石神殿に来られてよかったです。ジュエリーの修理だけではなくて、メイアさんと会えたのもうれしい。また来てもよろしいですか」
「もちろん歓迎よ。よければ友達になってほしい」
コパリュスとムーンもいるけれど友達を増やしたかった。シストメアさんは貴族だけれど、会話していて楽しかった。
「私からお願いしたいくらいでした。メイアさんは年上です。私のことはシストメアと呼んでください」
「さすがに呼び捨ては悪いからシストメアちゃんと呼ぶね。私はメイアで充分よ」
「分かりました。早い時期にまたメイアへ会いに来ます」
すべてが終わって宝石神殿から南門にきた。ジュエリーと、食材の種や小麦と交換する約束もした。馬車がみえなくなるまでシストメアちゃんたちを見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます