第16話 メイアの実力

 部屋に戻って、小袋をテーブルの上へおいた。

「オパールのペンダントジュエリーよ。チェーンは外してある」

 ガットーネさんが小袋から取り出して、シストメアさんに渡した。


 中央は大粒ルースで、周囲に小粒ルースのあるデザインで作った。どのルースもオパールで地金部分には模様をいれてある。

「全部オパールですか。かがやきがすごいです。中央にある多面体カットのオパールは初めてみました。周囲のオパールもルース形状がすべて異なっています」


 ペンダントを回転させながら確認していた。胸元にもあてて雰囲気をみている。シストメアさんは、ガットーネさんに小声で質問していた。

 シストメアさんの視線が私にむいた。

「時間があれば、ほかのジュエリーも可能よ」


「このジュエリーで充分です。金貨30枚以上の価値があります。せんさいな地金の模様もあって、メイアさんの実力はわかりました。修理をお願いしたいです」

 シストメアさんの言葉は力強かった。対等な立場で話してくれるのもうれしい。危険を冒してまで、ムジェの森へきた意思にこたえたかった。


「気持ちは充分にわかった。コパリュスも私なら平気と言ってくれた。修理を受けるけれど明日までまってほしい。今日は修理の練習をしておきたい」

「明日でもかまいません。ただ宝石神殿で待たせてもらいたいのですが、泊まれる場所はあるでしょうか」


 本物の貴族に会ったのは初めてだったけれど、高飛車な態度は感じなかった。逆にシストメアさんには好感がもてた。

「今いる2階と3階を使って平気よ。全員分の許可をだしておく。宝石神殿の敷地内は安全な水と火、豊かな大地ときれいな空気があるから、ゆっくりできると思う」


「水の心配がいらないのは助かります。ムジェの森から宝石神殿へきたときに、空気がおいしいと感じました」

「4大精霊のおかげね。馬車をおく場所はどこかにある?」

 コパリュスに聞いた。さすがに宝石神殿の1階へ入れるのは気が引けた。


「厩舎と荷物置き場の建物があるの。中央にある噴水をはさんだ南東側かな」

 視線をシストメアさんへむけた。

「ありがとうございます。もしジュエリーを作る予定があれば、見学させて頂けませんか。すばらしいジュエリーを作る腕前をみたいです」


「夕食前に少し作る予定だから一緒にみても平気よ。ただ作成に集中したいから、シストメアさん一人のみでも平気?」

 もうひとつの理由は、誰かまわずに地下へ招きたくないからだった。


「お嬢様一人だけでは危険です。俺もお供します」

 ダイジェイトさんだった。今日あったばかりの私たちを信用できないと思う。納得のいく理由だけれど、宝石神殿は特殊な建物だから制限したかった。


「私なら平気です。それ以上はメイアさんに迷惑をかけます」

 ダイジェイトさんは心配そうだったが、シストメアさんの決定に従った。

 今日の予定が決まったので1階へ向かった。


 1階ではムーンと一緒にトナタイザンさんが、訪問者相手に対応していた。言葉を喋る幻獣は珍しいのか、ムーンのまわりに人垣ができていた。トナタイザンさんは見張りに近い感じだった。


「ムーンとトナタイザンさん、待たせてごめんね。話し合いが終わったよ。トナタイザンさんには付き合ってもらってありがとう」

「たいしたことはない。気にするな」

 訪問者はコパリュスとシストメアさんに任せて、ムーンとトナタイザンさんに訪問者が誰で目的は何かを説明した。


「10名近くの宿泊です。何を手伝いましょうか」

 ムーンの心使いがうれしかった。

「基本の対応はコパリュスがしてくれる。シストメアさんの準備ができたらジュエリー加工をみせる予定よ。地下1階へ行くからムーンも一緒にきてほしい」

「メイア様のお供はわたくしがします」


「わしもジュエリー加工に興味がある。見学してもかまわないか」

「今回は人数制限したから、トナタイザンさんだけを特別扱いはむずかしい。次の機会でも平気?」

「また散歩にくるから次でも大丈夫だ」


 私とコパリュスがいない間に、ムーンと一緒に対応してくれた。ジュエリー加工の見学はむりだけれど、お礼がしたかった。手持ちのジュエリーを思い出した。

「最新作のスフェーンを使ったジュエリーがあるのよ。黄緑色の珍しい宝石で、色あざやかな光の反射は息をのむ美しさよ。トナタイザンさんにもらってほしい」


 心の中で『宝石箱』と念じて出現させた。中からスフェーンのジュエリーを取りだして、トナタイザンさんに渡した。

「鉱物ではみているが、スフェーンの宝石は初めてだ。鉱物はここまで、かがやいていなかった。デザインも心にくるものがある。もらっていいのか」


「また作れるからもらってね。宝石品質が採掘できる場所のおかげだと思う」

 トナタイザンさんがジュエリーを袋にしまった。視線の先にシストメアさんの姿がみえた。横にはガットーネさんがいる。


「お待たせしました。ジュエリー加工を早くみたいです」

「私の用事もちょうど終わったところよ。トナタイザンさん、今日はありがとう」

「また散歩にくる。ジュエリーも楽しみにしている」

 トナタイザンさんが宝石神殿をあとにした。


 シストメアさんをつれて地下1階へ続く扉の前にきた。ここでガットーネさんと別れた。ムーンとシストメアさんと一緒に、地下1階へと降りていった。

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