第15話 ジュエリーへの思い
宝石神殿の2階にある客室へ馬車の人物を案内した。
馬車から降りてきた人物は、お嬢様と思われる少女と鞄をもった付き添いの女性にみえた。ふたりともヒューマン族だった。客室には私とコパリュス、ダイジェイトさんと馬車のふたりしかしない。
少女が私とコパリュスの前にきた。
「私の名前はシストメア・ラコールです。スークパル王国にあるラコール伯爵家の者です。ムジェの森に宝石神殿があると聞いて探していました」
ていねいな話し方の中にも、しっかりとした意思を感じた。
「この建物が宝石神殿よ。私は宝石神殿の管理者でメイア。となりは一緒に住んでいるコパリュスね。シストメアさんは、どのような用事があるの?」
「お嬢様に無礼だ。言葉使いがなっていない」
ダイジェイトさんだった。一歩前にでて剣に手をかけようとする。この世界も貴族と一般市民では格差があるみたい。でも私には貴族と会話した経験がない。対応に困っていると助け船があった。
「ダイジェイト、さがりなさい。私はお願いする立場です。その呼び名でかまいません。私もメイアさんと呼ばせてもらいます」
「コパリュスとムーンのみとで生活しているのよ。だから礼儀作法がなっていなくてごめんなさい。それでシストメアさんの相談事を教えてほしい」
シストメアさんが目の前に座った。
旅で疲れているみたいだけれど、かわいい顔だった。元の世界なら中学生くらいだった。背中にかかる長い髪は、大地を思わせる茶色をしている。
「ジュエリーの修理をお願いしたいのです。ガットーネ、例の品物をだして」
「かしこまりました。お嬢様」
シストメアさんのとなりに立っていた女性が、手持ちの鞄から箱をとりだした。彼女がガットーネさんみたい。清楚な感じでシストメアさんよりも年上にみえた。
ガットーネさんは、私が座っている手前のテーブルに箱をおいた。茶色の箱は両手サイズの大きさだった。
「箱を開けても平気?」
「かまいません。私の大切なジュエリーです。注意してください」
「ていねいに取り扱うね」
箱の表面は革で作られている。下側を押さえてゆっくりと蓋を開けた。
中央にある半透明な宝石は、七色の星がきらめいていた。両側には白銀の翼があって、天使にも鳥にもみえる姿だった。
「すてきなペンダントトップね。オパールが幻想的なかがやきで、地金と翼のデザインにあっている。ただ大事に使われているけれど痛んでいるみたい」
「ほめてくださって、うれしいです。見てわかるように壊れそうなのです。祖母からもらった大事なジュエリーで、どうしても元の姿に戻したいのです」
たしかに修理したほうがよさそうなジュエリーだった。でも宝石神殿へくる理由がわからなかった。
「住んでいる場所に修理できるお店はないの? この場所は宝石神殿だけれど、お店としての機能はないよ」
「王都ドリペットには、多くの宝石加工職人がいます。しかしオパールの修理は、誰も引き受けてくれませんでした。オパールは破損しやすいからです。老舗の職人からは、宝石神殿なら奇跡が起こるかもしれないと聞きました」
どのような奇跡か気になった。私がくるまでは誰もいなかったはず。昔の信仰心が厚い時代なら、オパリュス様に願いが届いたのかもしれない。
「今の宝石神殿には奇跡はないと思う」
「メイアさんは管理者と聞きました。奇跡でなくてもかまいません。修理できる職人を知りませんか」
真剣な目で訴えてきた。よほど大事なジュエリーみたい。シストメアさんは悪い人にはみえなかった。何よりも年下のかわいい少女を悲しませたくない。でも私にはジュエリーの修理経験がなかった。
「コパリュスは修理できる人に心当たりある?」
横にいるコパリュスに聞いた。オパリュス様と意思疎通ができるから、何か知っているかもしれない。
「よく知っているの。メイアなら修理できる」
コパリュスの言葉に耳を疑った。私が修理していないのは知っているはず。コパリュスをみると平然とした顔をしている。理由を聞こうと思った。
「メイアさんなら可能ですか。ぜひお願いしたいです」
シストメアさんの声が飛び込んできた。
「私には修理経験がないのよ。コパリュスが私なら可能という理由が不明」
「オパールを加工できるレベルになったから大丈夫なの。道具もそろっているし、メイアには宝石を思う気持ちがすごいの」
自信満々にコパリュスが答えた。でもジュエリーを作るのと修理では、難易度は異なっている。修理を断ることもできるけれど、シストメアさんとコパリュスの視線は私にそそがれていた。
「修理は失敗する可能性もある。だから私が作ったジュエリーや、作る姿をみてから判断してもらえるとうれしい」
「ジュエリーをお持ちなら見せてほしいです」
「ちょっと待ってね」
この場所で宝石箱をだすのは気が引けた。ジュエリーを取りに行くふりして部屋をでた。宝石箱からオパールのジュエリーを小袋に移した。
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