第14話 森の迷子

 今日はお昼まで採掘と加工をおこなって、奉納まで終わりにした。コパリュスの話しでは、この世界ではスフェーンは珍しいみたい。


 昼食後は椿の木の下でのんびりとくつろいでいた。椿の実は熟成して種が落ちてきている。もう少しで椿油が完成できる。ムジェの森でみつけた種も植えた。宝石神殿を中心にして、北東方向に果樹園を南西方向に畑を考えている。


「太陽の光を浴びて休むのも、気分転換ができてよかった」

 コパリュスとムーンから働き過ぎと注意されて、この場所につれて来られた。元の世界でのブラック企業に比べれば、大好きな宝石に囲まれる生活は苦にならない。でもコパリュスとムーンに心配はかけたくなかった。


「メイアが喜んでくれてうれしい。つれてきた甲斐があったの。宝石神殿のレベルも順調に上がっているから、もっと肩の力を抜いて平気」

「宝石採掘と加工になれてきたから、今後はこの世界を楽しむつもりよ」

「どこまでもメイア様のお供をします」

「コパが世界を案内するね」


「みんなで出かける旅行は楽しそう。でも宝石神殿を留守にしても平気?」

 宝石神殿は私のふる里になる。訪れる種族はほとんどいないけれど、下手に荒らされるのは嫌だった。


「留守でも大丈夫なの。心配ならトナタイザンに留守番をお願いできると思う。噂をすれば、トナタイザンの気配が近づいている」

 私にトナタイザンさんの気配はわからない。ムーンは遠くのほうを見渡すと、南側で視線がとまった。


「わたくしも南門付近に、神獣の気配を感じ取りました。ほかにも数人の気配がわずかに感じられます」

「トナタイザンさん以外にも誰かがいるのね。南門に向かう」

 コパリュスとムーンをつれて南門へ向かった。


 南門の扉が開いていて、手前にトナタイザンさんが立っていた。そのうしろには4人の人影と、馬車が1台だけ止まっている。

「わしの気配に気づいてきてくれたか。宝石神殿への客だ」


「トナタイザンさんの知り合いとは異なるの?」

「ムジェの森で魔物に追われて迷子になっていた。宝石神殿をさがしていたから、散歩がてらに連れてきた」


 うしろから男性がひとり、トナタイザンさんの横へきた。剣を腰にさしている。私と似た姿をしているからヒューマン族ね。年齢は20台後半くらいで、細身だけれど鍛え抜かれた身体にみえた。


「俺はダイジェイト、護衛隊長だ。スークパル王国から、わけあって宝石神殿を探している。この場所で間違いないのか」

 威圧を感じる言葉使いだった。ムジェの森にある建物で警戒して当然と思った。


「ここが宝石神殿よ。私が宝石神殿を管理している」

 相手に名乗ってから、私の立場が管理者であっているのか不安になった。横にいるコパリュスへ目をむけると頷いてくれた。


「疑うつもりはないが、ここが宝石神殿でお前が管理者という証拠はあるか」

 知らない土地で知らない人物に会えば、慎重になるのは頷けた。

「私の名前はメイア、メイアと呼んで。宝石神殿の中をみれば、納得してもらえると思う。案内するからついてきて」


 南門から宝石神殿にむかって歩き出した。ダイジェイトさんとひとりの男性が私たちの近くにいて、残りのふたりは馬車を護衛している。

 近くにきた男性は耳と尻尾がある。コパリュスに小声で聞くと、キャット族だと答えてくれた。馬車の近くにいる背が低くて体格のよい男性は、ドワーフ族とも教えてくれた。はじめてみる種族に胸がおどった。


 宝石神殿の前に到着した。

「ここが宝石神殿か。誰も訪れないと聞いたが、建物自体はしっかりしている」

「私たちが最近住みだしたから、これからもっと素敵になるよ。1階の礼拝堂には宝石の女神オパリュス様が祭られている。それが宝石神殿の証拠よ」


 ダイジェイトさんとキャット族の男性を中へ案内した。コパリュスのみが私についてきて、ムーンは宝石神殿の外で待機してもらった。

 オパリュス様の像がある手前で立ち止まった。下手な説明は不要に思えた。ダイジェイトさんはオパリュス様の像をじっと見つめたあとに、私のほうへ顔をむけた。


「知り合いから見せてもらった姿に近い。強い魔物のいるムジェの森で、魔物が近寄らないのも本物の神殿だからだろう。あとはメイアが管理者なのかどうかだ。証明はむずかしいと思うが、どうするつもりだ?」

 最初にくらべて威圧感がへっていた。本物の神殿と認めたからかもしれない。


「宝石神殿の1階は誰でも入れるけれど、それ以外の階は私の許可が必要よ」

 ダイジェイトさんたちをつれて、2階へあがる扉の前にきた。実際に入れるかどうかを体験してもらった。私が許可したときだけは扉を開けられて、2階につながる階段をのぼれる。それ以外は扉を開けられない。


「不思議な現象だが、許可されないと移動できないのはたしかだ。宝石神殿の管理者か、それに認められている者だと納得できた」

「わかってもらえてよかった。ところで魔物に襲われる危険をおかしてまで、宝石神殿にきた理由は何?」


 ダイジェイトさんが姿勢を正して頭をさげた。

「お嬢様の願いを叶えてほしい」

 切実な声だった。馬車の人物を宝石神殿の2階へ案内した。

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