宝石神殿レベル3

第12話 精霊との出会い

 宝石神殿の5階で、ジュエリーの奉納がさきほど終わった。部屋全体に光が充満して、宝石神殿がレベル3になった。


 光がおさまると奉納台の上空に小さな姿があった。人形の姿に似ていて、背丈は私の顔よりも少し長いくらいだった。半透明で後ろ側が透けてみえる。

「コパリュス、何かが浮いているよ」

 思わず指さしてしまった。


 コパリュスとムーンへ視線をむけたけれど、慌てていなかった。

「4大精霊で知られる土の精霊なの。宝石神殿がレベル3になった証かな」

「初めてみたけれど幻想的ね。急な出現でびっくりした」


「メイアの驚いた顔が見られてよかったの。秘密にしていた甲斐があった」

 レベル2に上がったときを思い出した。レベル3はもっとすごいとコパリュスが話していた。たしかに精霊が出現するとは思っていなかった。


「すてきな瞬間をみせてもらった。精霊はムーンと同じく会話ができるの?」

「中位精霊はむりなの。ムーちゃんは上位幻獣だから会話が可能なの」

「精霊と会話ができると思ったのに残念」


「でもメイアが名前をつければ喜ぶと思うの」

「今回も私が、名前をきめて平気なの?」

「すてきな名前を考えてね」

 土の精霊に視線をむけた。男性のような見た目で、職人を思わせる頑固さがにじみでていた。4大精霊で頑固な表情。名前が思い浮かんだ。


「名前はダイヤ。4大精霊にちなんで、世界4大宝石のダイヤモンドから名前を考えた。よろしく、ダイヤ」

 ダイヤがお辞儀をしてくれた。

「名前が決まって、ダイヤが喜んでいるの」

「宝石を使ったメイア様らしい、すばらしい名前です」


「名前を気に入ってくれてうれしい。ダイヤが仲間になって、宝石神殿の生活もにぎやかで楽しくなる」

「ふだんは敷地内を自由に移動しながら、土を豊かにしてくれる。メイアが好きなときに呼べば、ダイヤが出現する」

 精霊らしく自然の中で暮らすみたい。今は部屋の中を漂っていた。


「ぜひ椿の木をみてもらい。園芸知識がないから、土が豊かになるとうれしい」

「その前に画面で宝石神殿の情報をみたいの」

 コパリュスが近くにある石のテーブルへ手をのせた。


 画面に宝石神殿の情報が表示された。敷地内の状態をあらわす色は、レベル2のときと変わらなかった。でも機能向上内容が追加されていた。

「土の精霊追加で敷地内の作物は成長が早くなる。私にはうれしい知らせよ」


「ダイヤが出現したから、作物や樹木が枯れる心配はないの。農業や園芸の知識があれば、質がよくて量もふえるかな」

「枯れないのなら、いろいろな作物や樹木をためせる。料理の幅も広がりそう」

「メイア様の新たな料理は楽しみです」


 私の料理を喜んでくれてうれしい。元の世界では作る料理は限られていた。せっかくの機会だから、いろいろな料理に挑戦してみたい。

「あまり期待しないでまっていてね。コパリュスの確認は終わった?」


「宝石神殿の情報はわかったの。椿の木を見にいける」

「ダイヤも一緒に同行する感じ?」

「可能だけれど、椿の木で呼んだほうがよいと思うの。精霊は自由気ままだから、むりに拘束しないほうがよいかな」


「無闇には呼び出さないようにする。到着してから呼ぶね」

 コパリュスとムーンをつれて、宝石神殿の外へでた。日が傾きだしたけれど、まだ充分に明るかった。


 北東方向の空き地へ植えた椿の木をめざした。3本とも元気に育っている。

「丸い実が、いくつか見つかりました」

 ムーンが見上げていた。目を凝らすと、花のかわりに実がなっている。

「順調に育っている。実が熟成して、種が落ちれば椿油を作れる」


「強化されたジュエリーが楽しみです」

「宝石のきれいな姿が私も待ち遠しい。椿油は髪の毛の手入れや料理にも使える」

「どのような料理か楽しみなの。この場所で名前を呼べばダイヤがくるの」

 椿は順調に育っているようだけれど、園芸の知識はない。ダイヤが土の精霊でよかった。宝石神殿のレベルが上がれば、ほかの精霊に会えるかもしれない。


「ダイヤ、近くにいる?」

 目の前に浮いた状態で、半透明なダイヤが出現した。間近でみると年配男性を思わせる表情だった。

 私にむかって、ダイヤがお辞儀した。


「メイアがお願いすれば、ダイヤができる範囲で聞いてくれるの」

 コパリュスが説明してくれた。精霊へのお願いは、難しい手順はないみたい。

「宝石強化で椿の実がほしい。椿の木が成長するように土をよくしてほしい」

 ダイヤが私にお辞儀してから、椿の根元へ移動した。まるで風船が漂っているようにフワフワとしている。


 ダイヤが根元の土に手をかざした。銀色の粒子が舞う幻想的な光景だった。銀色の粒子が消えると、ダイヤが私の元へ戻ってきた。

 お辞儀をしてくれた。ダイヤにとっては、お辞儀が意思表示みたい。

「これで椿の木も、今までより順調に育つの」

「土をよくしてくれたのね。ありがとう、ダイヤ」


 ダイヤが近くによってきた。お礼の意味も込めて頭を触ろうとした。でも伸ばした手はダイヤを通り抜ける。何かにぶつかる感覚はなかった。

 驚いてコパリュスに顔をむけた。当たり前の現象なのか、コパリュスは落ち着いている。私が驚いた理由に気づいたみたい。


「精霊は魔力のかたまりなの。だから普通は触れないかな」

「それは残念。いつかはダイヤの頭をなでてみたい」

 確認のために手を伸ばしたけれど、先ほどと同じくすり抜けた。ダイヤはお辞儀をすると、霧が晴れるように消えた。

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