第10話 ムジェの森へ冒険

 朝食をすませたあとに、今日の準備を始めた。3回目の鐘がなる前には西門への移動が終わった。森に囲まれているためか移動中の空気がおいしかった。西門の扉よりさきがムジェの森になる。


「今日は黒魔石と椿油の入手だけれど、できれば食材の種類も増やしたい。食材や種も一緒にみつけられる?」

「もちろん可能なの。椿の場所は知っているから、移動しながら探せると思う」


「メイア様の料理が増えるのはうれしいです。わたくしが先頭で案内します」

「道案内はお願いする。椿の種をつぶして作る椿油は、食用油や髪の毛を整える油としても使える。たくさん種がとれるとうれしい」

 食用油があれば天ぷらも可能よね。髪の毛のつやも復活させたい。宝石の強化以外にも使えれば生活が楽しくなる。


 扉をあけるとムーンが歩き出した。そのあとを私とコパリュスが続く。

「近づく魔物はムーンが倒すから、メイアはコパの近くから離れないでほしいの」

「コパリュスとムーンがいるから安心ね」

「椿の生息地へ向かいます。離れないでついてきてください」


 周囲には森が広がっている。塀に沿った道と前方にある道は奥へと続いていた。でこぼこの道だけれど、道幅があるので乗り物も使えそう。

「宝石神殿から延びている道は、どこまで続いているの?」


「昔に作られた道で、東西南北にそれぞれ1本道があるかな。ムジェの森の外へ繋がっている。商人や冒険者が道を開拓して森の中は迷路状態。前は往来が少しあったけれど、今はほとんどないの」


 凶暴な魔物やトナタイザンさんの影響よね。トナタイザンさんからは襲わないみたいだけれど、神獣ドラゴンがいるだけで怖いと思う。

「外の景色もみたい。宝石神殿がレベル10になれば、旅行へ行っても平気?」

 今は宝石に囲まれるだけでうれしいけれど、この世界も楽しみたい。コパリュスやムーンと一緒なら不安もない。


「旅行ならいつでもかまわないの。でも他国へ行くには、この世界の知識を覚えてほしいかな。宝石神殿の外は危険がいっぱい」

「コパリュスとムーンに教わってから、旅行は考えるね」


「脇道に入ります。メイア様は足元に気をつけてください」

 ムーンが止まって振り向いた。横には獣道らしき細道があった。

「充分に注意する。危なくなったら声をかける」

「ゆっくりで構いません」


 脇道に入った。私の軽装でも移動できるほどには歩きやすかった。でもポニーテールが枝に引っかからないよう気をつけた。コパリュスとムーンは私の歩調に合わせてくれた。うれしい配慮だった。


 コパリュスが私の服をつかんだ。力強くて足が止まった。

「どうしたの?」

 コパリュスに顔をむけると、コパリュスはムーンをみていた。

 ムーンが振り向いた。


「魔物の気配です。倒してきます」

 私の返事を待たずにムーンが走り出した。あっという間に姿が消えた。

「ムーちゃんにとっては弱い魔物なの。安心して待っていれば平気」


「何も気づかなかったけれど、近くに魔物がいるの?」

「少し遠くなの。でも通り道だからムーちゃんが退治する。この距離で気配に気づければ一流の冒険者かな」

「私に冒険者はむりみたい。でもコパリュスとムーンがいれば、安心して旅行や採集にいける」


 その場で待っていると、音もなくムーンの姿があらわれた。

「メイア様、魔物退治が終わりました。こちらが魔石で素材は出ませんでした」

 器用に口から魔石をとりだした。黒魔石が5つに赤魔石が1つだった。

 魔石を手のひらにのせた。6つを並べると、赤魔石は黒魔石よりも少しだけ大きかった。宝石箱を呼び出して無限収納できる中へしまった。


「黒色以外もあるのね」

「ふつうは黒魔石ですが、強い魔物なら赤魔石となります。わたくしのような幻獣に近い強さなら、白魔石や稀少な素材も落とします」

「赤魔石があるから1匹は強かったのね。ムーンが無事でよかった」


「このくらいの魔物は問題ありません」

「ムーちゃんなら平気なの。黒魔石は増えるから、残りは椿と食材かな」

 コパリュスがムーンをなでていた。和やかな光景だった。でも強い魔物を倒せる実力があるから、見た目で判断してはだめよね。


「椿の群生地まではまだ遠いの?」

「もう少しです。途中に魔物はほとんどいません。案内します」

 さきほどと同じ配置で奥へと進んだ。ほどなくして、椿の花が私たちを出迎えてくれた。背丈よりも高い木々が遠くまであって、群生地の名にふさわしかった。


 緑色の葉っぱに負けないくらいに、きれいな花が咲いている。

「ルビーを思わせる赤色ですごくすてき。ただ種の時期には早かったみたい」

「種の落ちるころになったら、コパが拾いにくる?」

 コパリュスならいつでも拾いに来られると思う。でも試したい方法があった。


「最終的には宝石神殿で椿を育てたいから、何本か椿の木を持って帰りたい。宝石箱があれば持ち運びも可能だと思う」

「すてきな考えです。どのように木を掘りますか?」

「採掘道具を使うつもり。掘りやすくて疲れないから私でも可能よ」


「コパも手伝う。ムーちゃんは周囲を見張ってほしいの」

「危険が迫りましたら知らせます」

 役割がきまった。宝石箱からツルハシをとりだした。元気そうな木を選んで、根を傷つけないように土を掘った。コパリュスの手伝いもあって順調に作業が進んだ。


 3本の木を無事に宝石箱へ収納できた。

「これで椿も入手できた。お腹も空いてきたからお昼にするね」

「コパが食材をとってくる?」


「昼食は用意してきたから大丈夫。木陰で一緒に食べようね」

 宝石箱から朝食後に作った料理をとりだした。

 コパリュスとムーンがおいしそうに食べてくれた。私も料理に手をつけた。

 温かい料理が冷えずに食べられるのはうれしい。何よりもコパリュスとムーンが喜んでくれるのが幸せだった。


 楽しい食事の時間もおわって、宝石神殿へむかった。途中に食材自体や食材の種もみつけた。果物の木を見つけたら、宝石神殿へ植えるのもよさそう。

 宝石神殿へ戻ってきた。コパリュスに敷地内の状況を聞いて、北東方向の空き地に椿の木を植えた。ムジェの森へ冒険した1日が終わった。

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