第8話 ドラゴンとの約束

 ジュエリーがよほど気に入ったのか、トナタイザンさんは上機嫌でコパリュスと雑談を始めた。少し前が100年単位で、時間の感覚が私と異なった。

 ムーンも警戒心はといたみたい。私の近くにきて座った。銀色の毛並みをなでると喜んでくれた。


「メイアからジュエリーをもらうだけでは、わしの気がすまない。メイアがほしいものがあれば用意しよう」

「宝石に囲まれた生活で、充分に満足している。ほしい品物はないけれど、幻のジュエリーについて聞きたい」

 幻という言葉はすてきな響きだった。


「これだけすごいジュエリーを作っているから、知っていて当然と思った。幻の鉱物であるダイヤモンドとアダマンタイトを使ったジュエリーだ」

 アダマンタイトはゲームなどで耳にした記憶があった。非常に硬くて入手が難しい鉱物という設定だった。この世界には元の世界にはない鉱物がある。採掘や加工する楽しみが増えた。でも気になる言葉があった。


「ダイヤモンドも幻なの?」

 コパリュスに小声で聞いた。元の世界ではダイヤモンドも稀少だった。でも数は出回っている。幻と言われるレアな宝石は別にあった。

「メイアの宝石関連スキルは低レベルだから、知らなくても当然かな」

 私ではなくて、トナタイザンさんにむけての説明に思えた。私におかしな疑いがかからないように配慮してくれたみたい。


「宝石関連は、コパリュスに教わりながら勉強しているところよ。早くレベルを上げて、きれいな宝石を使ったジュエリーを作りたい」

「まだ初心者か。だったら知らなくても仕方ないか。だが上を目指すのなら、すべてを吸収する積極性が必要だ」


「これから勉強して知識を深める。それでダイヤモンドやアダマンタイトが幻と言われる理由は何なの?」

「両方ともレベル10の鉱物なの。理由のひとつは、採掘レベル10のスキル持ちを見つけるのが非常に困難。もうひとつは採掘場所がほとんどなくて、探し出すのが無理に等しいかな」


 採掘可能な人材がいなくて、さらに採掘場所も不明みたい。たしかに幻と言われるだけのことはある。

「本当に幻なのね。私もいつか作ってみたい」

「メイアならレベル10にすれば採掘可能なの」

「世界を旅して、採掘場所を探すのは楽しそう。でも探すのは無理なのよね」


「どうしてこの場所に、宝石神殿があると思っているの?」

 コパリュスの質問に考えをめぐらせた。何かしらの理由で、この場所に宝石神殿を建てた。信仰しやすい場所とは思えない。宝石関連での理由よね。ひとつだけ答えが思い浮かんだ。


「この敷地内なら、鉱物の採掘が容易だから?」

「半分正解かな。メイアが使う採掘場所では、すべての鉱物が採掘できる。だからこの敷地に宝石神殿があるの」

 宝石神殿の地下に採掘場所があるのは、便利という理由だけではなかった。今まで気にしていなかったけれど、重要な理由でこの場所に宝石神殿を建てたのね。


「コパリュス様、重大な内容に思われます。神獣といえども平気ですか」

 心配そうにムーンが聞いた。たしかに幻である鉱物の採掘場所だった。

「トナタイザンなら大丈夫なの。それにメイアが許可しなければ誰も入れない。もし誰かがメイアを脅迫しても、この敷地内なら相手に天罰が下るの」


「私がスキルあげをがんばれば、幻のジュエリーが作れるのね」

「幻のジュエリーが作れるのなら、わしの加護を与えてもよいくらいだ。メイアは採掘と加工ができるようだが、鑑定もできないと難しい。加工の注意点は必修で強化方法も重要だからだ」

 トナタイザンさんだった。幻のジュエリーは神獣でも入手が難しいみたい。


「鑑定スキルももっているから、幻のジュエリーが作れたらプレゼントするね」

 出会ったばかりだけれど、コパリュスが信用しているのが大きな理由だった。

「本当に作れたら、加護を与えよう」

「気長にまっていて」


「メイア様が作る、幻のジュエリーをみたいです」

「ムーンに似合う幻のジュエリーをプレゼントする。もちろんコパリュスもね」

「楽しみなの。でも今はお腹が空いたかな。夕食はまだなの?」

 すっかり忘れていた。


「すぐに食事の準備をはじめる」

「わしはこのへんで帰るとしよう。ほかのジュエリーにも興味がある。また散歩に来てもかまわないか」

「大丈夫よ。来るのを楽しみにしている」


 全員で1階に降りて宝石神殿の外へでた。

 外は暗くなっていた。星空は幻想的だけれど、このままだと転ぶかもしれない。私の態度に気づいたのか、コパリュスが魔法で光る球体をだしてくれた。


「メイアはドラゴンを見たことがあるか」

「存在だけは知っているけれど、実際の姿はまだよ」

「せっかくだから本物をみせてやろう。ここでは狭い。一緒についてこい」

「コパリュスとムーンも一緒に行こう」


 トナタイザンさんが南の道を歩き出した。あとを追いかけた。宝石神殿の南側には4つの建物がある。南西側は宿屋と浴場で、南東側は荷物置き場と厩舎だった。今は何も使われていないとコパリュスから聞いた。

 建物から離れるとトナタイザンさんがとまった。


「ここまでくれば平気だろう。元の姿に戻るから離れていろ」

 トナタイザンさんが見えない位置まで下がった。

「この距離なら平気かな」

 コパリュスが教えてくれた。


「相当離れているけれど、そんなに大きいの?」

「実際に姿を見たほうが早いの。もうすぐ元の姿へ戻るかな」

 前方にある星空が消えた。超常現象ではなかった。目の前にドラゴンが出現したからだった。光る球体では全体を映し出せない。


「本当に大きい。宝石神殿よりも大きいかもしれない」

「ここまで大きい神獣ドラゴンはめったにいないの」

 強烈な突風が吹いた。後ろへ飛ばされそうになるのを、コパリュスとムーンが助けてくれた。突風が止むと星空が見えた。


「メイア様、大丈夫ですか」

「押さえてくれてありがとう。倒れなくてよかった。トナタイザンさんが飛んだのよね。凄すぎて言葉が出ない」

「金色にかがやく姿はもっとすごいの」

「それは楽しみ」

 コパリュスとムーンをつれて宝石神殿へもどった。

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