第7話 認められたジュエリー

 宝石神殿の2階にある、来客用の部屋へ戻ってきた。

 私のとなりにはコパリュスが、向かい側にはヒューマン族の姿に近いドラゴンが座った。ムーンはまだ警戒しているのか、ドラゴンから視線を外していない。


「私はメイアよ。わけあって宝石神殿で仕事をしている。となりは知っているようだけれど、オパリュス様の分身でコパリュス。最後は幻獣フェンリルのムーン。それであなたは誰なの?」


 ドラゴンに視線を移した。長身で髪の毛が金色だった。あごひげもあって、体は鍛えられているみたい。元気な老人という表現がふさわしかった。

「わしはトナタイザンだ。クンラウ山脈に住んでいる、神獣ドラゴンといえばわかるだろう。さきほども話したように、女神の気配が気になって散歩へ来ただけだ」


 悪意は感じられなかった。

「トナタイザンさんと呼ばせてもらう。コパリュスは知っているのよね」

 視線をコパリュスにむけてから、トナタイザンさんのほうへ顔を移した。


「コパがこの土地に宝石神殿を建てたあとに、トナタイザンがクンラウ山脈へ住みついたの。神獣の中では強いほうのドラゴンかな。ただ手出しをしなければ、危害を加えないから安心して」


「ヒューマン族でも魔物でも、わしの住処で暴れなければ倒さない。ところで、わしの顔をじっと見ているが、何か知りたいのか?」

 私と視線があった。じろじろと見過ぎたかもしれない。


「ドラゴンと聞いたけれど、ヒューマン族の姿よね。違和感があっただけよ」

「神獣はほかの姿に変身できる。真の姿でここへ来れば騒ぎになる。次はわしから質問したい。女神が彼女たちを連れている理由は何だ?」


「逆かな。コパがメイアについているの。ムーちゃんも同じ理由なの」

 トナタイザンさんが私をみつめた。するどい眼光で迫力があった。コパリュスやムーンがいなければ、逃げだしたかもしれない。それほど威圧感もあった。


「この小娘が女神を引き連れているのか」

「詳しくは話せないの。コパとムーちゃんは、メイアの手助けをするためにいる。神獣といえども、メイアを小娘呼ばわりは許せない」


 語尾が強かった。横をむくと、コパリュスが真剣な顔つきをしている。怒っているようにもみえた。

「私のかわりに怒鳴ってくれてありがとう。でも私は平気よ」

 相手がドラゴンなら、小娘呼ばわりされても仕方ないと思った。


「でもメイアには、この世界で楽しんでもらいたいの」

 甘えた声にかわった。不安そうな表情で私に訴えかけてきた。抱きしめたいけれど今はできない。かわりに頭をなでてやった。

 少しだけ表情が和らいだ。


「わしが悪かった。これからはメイアと呼ぼう」

 急に謝ったのを不思議と思って、トナタイザンさんへ視線をむけた。あきらかに困った表情をしていた。コパリュスの急変に戸惑っているみたい。

「それなら許す。メイアはメイアなの」

 すぐに明るい笑顔になった。コパリュスの表情は豊かね。


「女神にそこまで言わすメイアは、一体何者なのだ」

 難しい質問だった。異世界から来たとは説明できない。でも嘘はつきたくない。

「この宝石神殿でジュエリーを作って、奉納するのが私の仕事ね。オパリュス様の力を回復させる仕事だから、コパリュスとムーンが私を助けてくれる」


「納得できない部分もあるが、女神が手助けをしている理由にはなっている。どのようなジュエリーを宝石の女神に奉納している?」

 私を品定めするのかもしれない。ロードクロサイトのジュエリーは、すべて奉納して手元になかった。


「奉納直後だからもっていない。残りはゴールドのみを使ったジュエリーよ」

「別につかまえて食おうとしない。興味本位で知りたいだけだ」

 コパリュスへ視線をむけた。

「みせても大丈夫?」


「かまわないの。それにメイアのジュエリーはコパのお気に入り。自信をもってみせるべきジュエリーなの」

 コパリュスの気持ちにもこたえたい。心の中で『宝石箱』と念じた。あらわれた宝石箱をテーブルの上において、ジュエリーをとりだした。

「これが私の作ったジュエリーよ」

 デザインの異なる5つのジュエリーをテーブルにおいた。


 トナタイザンさんがひとつのジュエリーを手にとった。しっかりと、でもていねいに扱っていた。表面を少し眺めたあとに、裏面をじっくり確認していた。ジュエリーになれているみたい。

 テーブルに置いた5つのジュエリーで、同じ動作をくりかえしていた。


「ていねいな作りだ。心がこもっている。デザインはありきたりのようで、独創性を感じる。この世界とは別世界にあるジュエリーに思えるくらいだ」

 別世界の言葉に動きが固まってしまった。

 私が異世界から来たのを知っているかのよう。でもジュエリーをみながら感心している。私の思い過ごしみたい。唐草からくさ模様も気に入ってくれてうれしかった。


「宝石の女神様に奉納するから、豊かな発想で作ったのよ」

「何百年ぶりにみる、すばらしいジュエリーだ。5つともほしい」

「5つのジュエリーはまた作れるから平気よ。でも宝石神殿のレベルあげに関係するから、コパリュスは平気?」

「レベル2になったからメイアの判断に任せるの」


「ジュエリーをほめられてうれしかった。5つともトナタイザンさんにあげる」

「ありがたく頂く。わざわざ散歩にきた甲斐があった。幻のジュエリーを作れる実力が、メイアなら身につくかもしれない」

 トナタイザンさんは、ていねいにジュエリーをしまった。

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