宝石神殿レベル2
第6話 とつぜんの訪問者
私自身のスキル確認が終わった。宝石神殿がレベル2になってうれしかった。
「塀と道が修復されたのよね。どのような感じになったかしりたい」
「コパも同じ思いなの。すぐに確認したい」
「夕食までは時間があるから、今から一緒に行こう」
コパリュスとムーンをつれて、宝石神殿の建物から外にでた。宝石神殿の入口は広くて、両脇には石の柱が複数本ある。ギリシャ神殿を思わせる造りだった。
きれいな夕日が出迎えてくれた。コパリュスの赤髪は夕日よりもあざやかで、ツインテールがゆれている。コパリュスのかわいさを引き立てていた。
目の前にある噴水へ視線をむけた。噴水の水を両手でくんだ。
「夕日でかがやく水はきれいで幻想的ね。飲めそうなくらい透き通っている」
「宝石神殿の土地は4大精霊の影響が強いの。水の精霊による加護で、敷地内のわき水はすべて飲めるかな」
「地下2階にある泉の水も飲めるの?」
「わき水を1日流せば飲めるかな。それよりも噴水の周りをみて。道がきれいな石畳になっている」
地面に目をむけた。舗装したばかりの道に思えた。
ムーンが石畳の道をかけだした。銀色の姿がみるみる小さくなって消えた。しばらくするとムーンの姿が大きくなって、私の横で止まった。
「東門まで行ってきました。走りやすくなっています」
息ひとつ乱していなかった。ムーンの運動神経は飛び抜けているみたい。
「ムジェの森との境界まで行ってきたの? ムーンの早さは凄いね」
「このくらいは問題ありません。塀も修復されていました」
「コパは直接、きれいな塀をみたいの」
コパリュスが私の腕をとった。上目づかいに訴えかけている。かわいいコパリュスの姿を抱きしめたくなった。かわりに頭をなでた。
「一緒に行こう。私も自分の目でみたい。でも日が落ちて暗くなりそう。真っ暗だと歩くのも大変よ」
「コパやムーちゃんは大丈夫だけれど、メイアは夜目が効かないのかな。でも魔法があるから平気なの」
コパリュスが上空に手をかざすと、そのさきに光る球体があらわれた。手を前方にもっていくと光る球体も移動した。きっと簡単な魔法だと思う。でも私には手品を見ているみたいで幻想的だった。
「これが魔法? 初めてみるけれどすごい」
私の前方で光る球体は止まった。これで暗くなっても問題なく歩ける。
「メイアは魔法を見るのが初めてかな。もっとすごい魔法をあとでみせるの」
「楽しみにしている。魔法には詠唱が必要ないの?」
歩きながら横にいるコパリュスへ聞いた。先頭はムーンが歩いてくれた。
「普通は詠唱による具現化と魔力を消費して使えるの。だから魔力のないメイアは残念ながら魔法は使えない。一流以上のレベルがあれば無詠唱でも可能かな」
魔法が使えないのは残念だけれど、私には宝石がある。コパリュスにムーンもいるから、それだけで充分だった。魔法はなれてくれば詠唱を省けるのね。コパリュスは女神様だから、簡単に無詠唱で魔法が使えるのかもしれない。
「魔物退治や動物を狩るときにも、魔法を使っているの?」
「素手で倒しているの」
「強い魔物と聞いたけれど、コパリュスにとっては弱いから?」
「たしかに弱いけれど別の理由かな。神にも制約があって、地上では無闇に力を行使できない。だから敷地外では魔法を使わないの」
神様同士での約束があるみたい。地上で神様同士が戦ったら、大変な事態になるのは容易に想像できた。
「今は魔法を使ったけれど大丈夫?」
「宝石神殿の敷地内はコパの領域なの。ほかの神でも直接は手をだせないかな。敷地内なら自由に魔法が使えるから、あとで凄い魔法をみせるの」
「楽しみにしている。元の世界になかった魔法には興味があるのよ」
「東門です。塀は背が高くなって、頑丈な石造りになっています」
ムーンが到着したのを教えてくれた。
コパリュスが光る球体を移動させて、東門と塀を照らしてくれた。まだ夕暮れだけれど見やすくなった。塀とあわせて東門も立派ね。両開きの扉を開ければ、大きな乗り物でも通れる高さと広さがあった。
「初日に敷地内の確認でみたけれど、きれいで頑丈になっている。これなら敷地内では安心して暮らせる」
横をみると、コパリュスが難しい顔をしている。修復状態に納得していないのかもしれない。声をかけようと思ったときだった。
「メイア様、下がってください。強大な何かが近くにいます」
ムーンが私の前に立ちふさがった。初めて聞いた緊迫した声だった。閉まっている東門の奥をみている。
「どうしたの?」
扉が音をたてながら開いた。光る球体が近くを照らす。
「ヒューマン族ではありません。気をつけてください」
ムーンが一歩前に出ようとするのを、コパリュスが制止させた。
「コパが対応するから大丈夫」
ムーンとは対照的に、コパリュスは落ち着いてみえた。
誰かが敷地内へ入ってきた。薄暗くて輪郭しかわからない。近くで見ると背の高い男性とわかった。
「懐かしい気配と思ったが、女神とは別人か?」
「コパはオパリュスの分身なの。トナタイザンが何の用事なの?」
「わしはただの散歩に来ただけだ。女神と争うほど馬鹿ではない。それよりも幻獣フェンリルと、魔力のない変わったヒューマン族がいる。面白い組み合わせだ」
「誰なの?」
現状がなかなか飲み込めなかった。音量をさげてコパリュスに聞いた。
「古い知り合いなの。メイアとムーちゃんに紹介する。神獣ドラゴンのトナタイザンなの。だからムーちゃんは警戒しなくて平気」
「コパリュス様がおっしゃるなら」
ムーンが私の横まで移動した。視線はドラゴンをみすえている。
ドラゴンは北東のクンラウ山脈に住んでいるから、ここに来てもおかしくない。でも見た目はヒューマン族に近かった。コパリュスの態度から敵対ではなさそう。コパリュスとムーン以外で、はじめて会ったドラゴンが気になった。
「もう暗くなるから、あいさつは宝石神殿に戻ってしない?」
私の提案に全員が賛成してくれた。
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