第5話 宝石に囲まれた生活
朝のオリュパス様へのお祈りが終わった。2回目の鐘がなったあとにお祈りするのが日課となっていた。
採掘のために朝から宝石神殿の地下2階へきた。光の魔石具で明るいけれど、見た目は洞窟のように岩で囲まれていた。わき水による泉もあって別世界みたい。大きな体育館ほどの広さがあった。
「今日の採掘でゴールドとロードクロサイトが増えるとうれしい。早くゴールドでジュエリーを作ってみたい」
「メイア様のジュエリーはどれも魅力的です。ゴールドでも楽しみです」
「ムーンの期待に応えるね」
「コパもメイアのジュエリーを気に入っているの」
横にいたコパリュスが、私の腕を取ってほほえんだ。かわいらしい笑顔で私はいやされた。ムーンも尻尾を振って喜んでいるみたい。
「コパリュスもありがとう。ゴールドもロードクロサイトもレベル3だから、宝石加工スキルがレベル3になったら作るね」
宝石と同じレベルの加工スキルなら、加工は100%成功する。宝石がひとつ上のレベルなら50%程度の成功とコパリュスが教えてくれた。まだ無理は禁物ね。
「どのようなジュエリーかな。今から楽しみなの」
「コパリュスとムーンに、ロードクロサイトのジュエリーを早くみせたい。さっそく採掘を始めるね」
「コパはムーちゃんと近くで遊んでいる」
宝石箱からツルハシを取り出した。地下2階の中央に採掘場所があるので、ツルハシをもって採掘を開始した。
採掘初日はおどろきの連続だった。ツルハシをもって採掘場所へ行くと、何となく採掘できる位置がわかった。最初は採掘した鉱物が何かわからない。でも宝石鑑定が成功すると、採掘前に何の鉱物がわかるようになった。
採掘直後は大きなかたまりなので、ハンマーを使って細かく砕く。泉の水を使ってジュエリーに必要な鉱物のみを選別する作業をおこなった。鑑定前後で頭の中に浮かぶイメージが変化する。一番の驚きだった。
「ゴールドの採掘で失敗がなくなった。レベル3になったみたい」
時間はまだお昼前だった。私の言葉が聞こえたのか、コパリュスとムーンが近くによってきた。
「宝石加工もレベル3を目指すの?」
「失敗しても平気な量になったから挑戦するつもりよ」
「鉱物を地下1階へ運ぶのですね。わたくしも手伝います」
「コパも手伝う」
「ありがとう。一緒に運ぼうね」
採掘した鉱物を袋につめて上の階へ移動した。宝石箱に収納して運べるけれど、手伝ってくれるのがうれしかった。運ぶ量は私が一番少なかった。コパリュスの見た目は小さいけれど力持ちだった。魔物退治できる強さに納得できた。
鉱物を袋からとりだして、加工用で使う道具と火の魔石具をそろえた。『炎』と念じると、銀色な粒子の飛び散る炎が出現した。
「メイア様は何のジュエリーを作る予定ですか」
「レベル2の鉱物を使い終わったらゴールドのみで作るつもり。ゴールドで失敗がなくなればレベル3になったと思うから、ロードクロサイトに挑戦してみる」
「完成品が楽しみです」
「さっそく始めるね」
シルバーを使って加工を始めた。100%成功するから気分的に楽だった。
レベル2の鉱物がなくなるとゴールドを使い始めた。コパリュスの説明通りに50%くらいの成功だった。でも今日の採掘でゴールドの量はたくさんある。何度も加工に挑戦した。
「連続で加工に成功しているの。レベル3になったと思う」
コパリュスの声に手を止めた。いつの間にか集中していたみたい。
「レベル3ならロードクロサイトに挑戦できる。さっそく試してみる」
加工前のロードクロサイトを手に取った。ロードクロサイトはダイヤモンドと同じく、結晶の方向にそって割れやすかった。慎重に加工を開始した。
スキルのおかげで直感的に危険がわかった。すぐに研磨機からロードクロサイトを離す。何度も同じ作業をくりかえした。水の魔石具でつねに熱を冷やした。贈り物である水の魔石具は、通常の水と異なって銀色の星空にも思えた。
研磨機の粗さを細かくして、ロードクロサイトの表面に光沢を作る。手のひらに加工品をのせた。カボションカットと呼ばれる、丸みを帯びた楕円形だった。宝石になる前の石単体であるルースが完成した。
「光に反射するピンク色がきれいなの」
手のひらに乗せたルースを、コパリュスとムーンが真剣に眺めていた。
「満足のいく仕上がりね。このルースを使ってペンダントトップを作る。地金にゴールドを使えば立派なジュエリーよ。この世界で初めてのジュエリーになる」
ゴールドやプラチナなどの稀少な素材ならジュエリー、入手が簡単なシルバーならアクセサリーと思っている。ゴールドを扱えるようになって、初めてジュエリーを作っていると胸を張れる。
「宝石神殿のレベルが楽しみなの。でもメイアのペースで進めてほしい」
「今は気分が乗っているから、このままたくさん作るね」
ロードクロサイトのルース作りを再開した。20個以上のルースが完成した。
昼食をはさんでからペンダントトップの作成を始めた。純度100%で加工が難しかったけれど、宝石加工スキルのおかげで失敗はなかった。
夕方前にすべての加工が終わった。
「みごとなジュエリーです。メイア様の宝石に対する気持ちも伝わりました」
「宝石に囲まれる毎日は楽しいから、ジュエリー作りも順調みたい。もちろんオパリュスとムーンが一緒だからに決まっている」
「コパもメイアと一緒で楽しいの。それよりも奉納はまだなの?」
コパリュスにせがまれた。レベル2でオパリュス様の消滅はなくなる。大きな分岐点で気になるみたい。
「すぐに奉納するつもりよ。一緒に5階へ行こうね」
片付けをしてから5階へ向かった。
5階の扉を開けた。目の前にオパリュス様の像がある。
ゴールドのみのジュエリーはいくつか残して、手前にある奉納台へロードクロサイトのジュエリーをすべておいた。淡い光とともにジュエリーは消えて、部屋全体がまぶしい光に包まれた。数秒で元の明るさにもどった。
「宝石神殿がレベルアップしたの。すぐに確かめたい」
コパリュスが部屋の右側に移動した。石のテーブルに手をのせると、画面に宝石神殿の情報が表示された。
「レベル2になっている。おめでとう、コパリュス」
コパリュスに視線をむけた。満面の笑みをみせていた。私もうれしくなった。
「メイアのおかげなの。これでしばらく消滅する心配はなくなったかな。塀と道も修復されたから、少しは移動が楽になるの」
画面をみつめた。今まで黄色だった表示の一部が緑色になっている。
「塀と道が緑色にかわっている。宝石神殿の機能も向上するのね」
「レベル3はもっとすごいの。でもメイアの驚く顔がみたいから黙っておく」
「楽しみにしている。今度は私のスキルを確認する」
石のテーブルに手をかざした。宝石採掘と宝石加工がレベル3になっていた。使う機会が少ない宝石鑑定はレベル2だった。順調にレベルが上がってうれしかった。
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