第2話 異世界にきた日

 真っ白な空間にいた。周囲は星が輝いているようだった。

 先ほどまで深夜の会社にいた。いわゆるブラック企業で、誰もいない部屋で仕事中だった。突如、日中のような明るい光に包まれた。光が収まって今にいたる。


「無事、成功したようです。白石しらいし芽亜めいあさんで間違いありませんか」

 澄み切ったきれいな女性の声だった。

「私が白石芽亜よ。あなたは誰?」


 場所も聞きたかった。でも最初に話しかけてきた女性が、誰か知りたかった。長いつやのある赤髪が印象的で、人間を超えた美しさだった。幻想的にからみあった白色のドレスは光を放っていた。理想的な体型に花をそえていた。

 同じ女性としても、みとれるほどだった。


「白石さんの世界でいえば女神にあたります。名前はオパリュスです。白石さんがいた世界とは別の世界、リトートコスモです。わたしが白石さんを呼び寄せました」


 漫画や小説でよくみかける異世界系を思い出した。勇者や聖女として呼んだのなら人選ミスね。先手を打った。

「私に特別な力はないよ」

 言葉通りだった。どこにでもいる社会人で特殊な能力はない。


「この世界は宝石への信仰心が極端に少なくなって、女神として危機な状態にあります。白石さんからは、宝石を大切に思う心が強く感じとれました。この世界で宝石への信仰心を増やしてほしいのです」

 異世界よりも宝石という言葉が頭をかけめぐった。切羽詰まっている状態みたいだけれど、きっと私の目は輝いていると思う。


「何か大変みたいね。宝石は魅力的よね。どうして信仰心が減っているの?」

「残念なことに、ほかの神にくらべて実益が少ないからです。宝石の神よりもほかの神へ信仰が移っています。このままいくと、わたしは100年後に消滅します」


 何となく状況がわかった。元の世界とは宝石にたいする価値観が異なるみたい。宝石は魅力的だけれど、お腹の足しにならないのは事実だった。

「私がオパリュス様の世界で過ごせばよいの?」

「正確には多数の神々が管理する世界です。でも理解が早くて助かります。白石さんには宝石神殿で生活をしてもらいます。ただ少しだけお願いがあるだけです」


「魔王退治とかは無理よ。運動神経は人並みだけれど喧嘩はきらい」

「大丈夫です。魔物との対峙もほとんどありません。通常は宝石神殿とその敷地内で過ごしてもらいます。好きなように楽しんでもらえば平気です」

 魔物がいるのは気になるけれど、安全に生活できるみたい。


「何をすればよいの? 宝石神殿に住むだけではないはずよね」

「宝石神殿へ宝石やジュエリーを奉納する仕事です。100年以内にレベル2へ上がれば平気です。目標はレベル10です。好きなときに宝石を採掘してジュエリーに加工する。完成したアクセサリーやジュエリーを奉納するだけです」


 もし本当なら辛い日々から解放される。採掘や加工の経験はないけれど、仕事の対象は大好きな宝石だった。楽しい光景しか思い浮かばない。

「宝石と過ごせるのなら苦にならない。採掘や加工の勉強をがんばってみる」

「白石さんには宝石関連の一般スキルと、役立つ特殊スキルをさずけます。一度経験すれば、問題なく採掘や加工ができるでしょう」


「この世界の人では持てない特別なスキルなの?」

 苦労はしたくないけれど、むやみに強くはなりたくなかった。魔王退治もない。とくに強い力は必要ないはずよね。


「さずける一般スキルは、この世界にいるヒューマン族やドワーフ族が普通に習得できます。ヒューマン族は白石さんと同様な種族になります」

 似たような種族が存在していてよかった。ただ気になる言葉があった。


「一般スキルの前置きよね。もしかして特殊スキルは私のみが習得可能なの?」

「難易度は高いですが、条件を満たせば誰でも習得できるスキルです。またその道を極めれば、おのずと身につくスキルです」

「どのようなスキルなの?」

「話せる時間が少なくなりました。詳細はわたしの分身が説明してくれます」


 オパリュス様が上空を見上げた。手をかざして、聞き慣れない言葉を唱えた。

 上空に光が集まって、光は人の姿となって降りてくる。小学生くらいの小さな少女だった。オパリュス様と同じ赤髪はツインテールとなっている。


「名前をつけてほしいの」

 かわいらしい少女の声だった。

「私が名前を決めても構わないの?」

 オパリュス様に視線をむけた。


「白石さんとの絆を強めるには名前が一番です。好きな名前をつけてください」

 断る理由はなかった。少女をみつめた。オパリュス様の分身だけあって、整っている顔立ちをしている。まるでオパリュス様が子供になったみたい。


「名前を決めた。コパリュス様。オパリュス様の面影を残した名前よ」

「すてきな名前なの。でも様は不要かな。コパはコパリュスと呼ばれたい。コパはメイアと呼ぶの」


「それで構わない。これからよろしく、コパリュス」

 声をかけるとすてきな笑顔をみせてくれた。抱きしめたいほどにかわいかった。

「コパリュスが白石さんを助けてくれます。忠実な仲間も作ります」


 オパリュス様が先ほどと同様に上空を見上げた。言葉を唱え終えると大型犬くらいの動物が舞い降りた。見た目も犬に近かった。

「幻獣フェンリルなの。メイアが名前をつけて」


 たしか神話などに登場する狼よね。犬に似ているのも納得できた。銀色でフサフサな毛並みがかがやいていた。

「銀色の毛並みは宝石のムーンストーンみたいできれい。名前はムーンよ」


「メイア様、わたくしにふさわしい名前でうれしいです」

 美しい女性の声だった、喜んでいるのか尻尾を振っている。

「コパはムーちゃんと呼ぶの」


「のこり時間もわずかです。生活の手助けとなる品物を渡します。宝石道具と宝石図鑑、それに宝石箱です。詳細はコパリュスが知っています」


 空間に大きな箱があらわれた。この中に品物が入っているのね。

「オパリュス様、ありがとう。大事にするね」

「宝石の加護が白石さんを守ってくれます。宝石神殿で楽しんでください」


 光に包まれた。オパリュス様が消えると広い部屋にいた。横にはコパリュスとムーンがいて、大きな箱もおいてあった。

 目の前に美しいオパリュス様の像が建っていた。コパリュスが宝石神殿の礼拝堂だと教えてくれた。宝石神殿は、アマスダ大陸にあるムジェの森に存在していた。

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