宝石神殿のすてきな日常

色石ひかる

第1部 宝石神殿レベル1~10

宝石神殿レベル1

第1話 のどかな1日

「想像しているアクセサリーはもう少しで完成ね」

 丸みを帯びたシルバー板に、刃先で中央から外側へみぞをつける。同じ動作を5回くりかえした。中央に丸いへこみを何回か打ち込んだ。頭の中にある桜のイメージを具現化して、最後に宝石神殿マークを刻印した。かってに手が動いてくれた。


 視線をあげた。コパリュスのかわいらしい顔が近くにあった。

「メイアは何を作っているの? もうすぐお昼になるの」

 コパリュスは女神であるオパリュス様の分身だった。小さい子供の姿で赤髪のツインテールが左右にゆれている。ピンク色を基調とした服装も、はなやかだった。


 ここは宝石神殿の地下1階で、宝石研磨やジュエリー加工でつかう部屋だった。充分な広さがあった。ちょうど作品が完成したのでテーブルの上においた。


「花のペンダントよ。シルバーアクセサリーを宝石神殿に奉納するつもり。純度100%で加工が難しかった。宝石がなくても奉納は平気よね。まだ宝石採掘スキルのレベルが低いのよ」


 宝石採掘スキルは鉱物全般が採掘できた。低レベルでは有名な鉱物はなかった。シルバーはレベル2で確実に採掘できて、今の主力鉱物だった。

 採掘鉱物を宝石鑑定スキルで鑑定すると、宝石種類のほかにも強化方法までわかった。最後に宝石加工スキルで、ジュエリーやアクセサリーを作る。両方のスキルも宝石鑑定スキルと同様に、レベルによって難易度がかわった。


「宝石が使われていなくても平気なの。時間はいっぱいあるから、無理しなくても大丈夫。でも宝石神殿がレベルアップできるとうれしい」

「無理はしていないよ。アクセサリー作りは楽しいから平気」


 区切りがよかったので道具もおいた。両手を頭の上にもっていって肩を回すと、黒髪のポニーテールが一緒に動く。なれない仕事のためか24歳にしては肩が凝っていた。童顔で年齢よりも若いと思われるけれど無理は禁物ね。


「メイア様、どのアクセサリーもきれいです」

 体にフサフサとモフモフを感じた。軽装の上から動物の温もりが伝わってくる。青い服装の先にムーンの姿がみえた。


 ムーンの胴体をなでた。つやのある銀色の毛並みは心地よかった。女性らしい声は心をやさしく包んでくれる。大型犬くらいの幻獣フェンリルで、コパリュスなら背中に乗せられると思う。この大きさでもまだ若いみたい。


「ほめてくれてありがとう。ムーンも一緒にみていたの?」

「コパリュス様と一緒に拝見していました。見事な手さばきでした」

「元の世界にあるアクセサリーを思い浮かべただけよ。初めての細工でもイメージ通りに手が動く。宝石加工スキルのおかげみたい。楽しく仕事ができてうれしい」


 異世界にきてから数日がたって、こちらの生活にもなれてきた。宝石神殿は広大な敷地の中央にある。敷地内では安全な水があって火も使えた。日本での生活ほど便利ではないけれど不便でもない。


「作ったアクセサリーを奉納してくれるの?」

「もちろん全部そのつもりよ。区切りもよいから、これから奉納へ行くね」

「コパも一緒に行く」

「わたくしも同じです。お供します」

「みんなで一緒に行こうね」


 アクセサリーをもって宝石神殿の5階へと向かった。1階は礼拝堂でオパリュス様が祭られている。1階は誰でも自由に入れるけれど、それ以外は私の許可が必要だった。目的の5階は私たちのみしか入れない。

 宝石神殿は石で造られていた。オパリュス様の加護による影響なのか、古びてはいるけれど壊れる心配はなかった。


 1階を移動する中では誰の姿もみかけなかった。旅の商人や冒険者が、忘れたころに休憩で訪れるだけみたい。魔法が使える冒険者もいるらしかった。

 理由は簡単で、宝石神殿は強い魔物が住むムジェの森にあるからだった。北東にあるクンラウ山脈には神獣ドラゴンも住んでいる。好んで訪れる人はいなかった。


「私たちのみだと宝石神殿内は静かね」

「メイアは寂しいの?」

「コパリュスとムーンがいるから寂しくないよ。でも宝石神殿だからお祈りする人であふれてほしい」

「メイア様なら宝石神殿を賑やかにできます」

「急がなくてもコパは平気なの」

「私自身のペースでがんばってみるね」


 5階に到着した。質素だけれどきれいな部屋だった。広さはないかわりに天井が高かった。中央にはオパリュス様の像がある。手前に奉納台が設置されていた。右側には石でできたテーブルと真っ黒な画面がある。


「今日作ったシルバーアクセサリーをおくね。宝石神殿レベルを早くあげたい」

「メイアの時間軸なら慌てる必要はないの。レベルダウンによる消滅までは100年くらいかな。宝石神殿がレベル2になれば消滅はなくなるの」


「目標はレベル10よね。そこまであげる理由は何?」

 オパリュス様からは詳しい説明がなかった。そのかわりに分身のコパリュスを創造してくれた。オパリュス様と意思疎通ができるみたい。


「神の力に影響するの。レベル10で平均値かな」

「オパリュス様を、ほかの神様と対等までもっていくのが私の仕事ね。宝石の女神様を回復させたい。さっそく奉納する」

 アクセサリーを奉納台におくと、淡い光とともに消えた。何度みても不思議な現象だった。これで奉納は完了した。


「メイアの奉納品は心がこもっているの。数日後にはレベルアップができるかな」

「思ったよりも早いレベルアップね。私も大好きな宝石で貢献できてうれしい」

「メイア様は採掘や加工で楽しそうでした。わたくしも楽しくなりました」


 私に与えられた仕事は宝石神殿のレベルあげだった。この世界には多数の神様がいて、神様の力は信仰心できまる。宝石の女神であるオパリュス様は、現状のままだと100年後に消滅する。消滅を回避するために、別の世界から私を呼んだ。


 宝石を採掘して鑑定する。加工して宝石神殿へ奉納する。気長に進めても宝石神殿のレベルは上がる。宝石大好きな私にはぴったりの仕事だった。

「宝石に囲まれて1日を過ごす。コパリュスとムーンもいるから毎日が楽しい。宝石神殿での生活は私にあっている」

 まぶたを閉じて、異世界にきた日を思い浮かべた。

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